スライムもバカにできない
アリス先生を抱えて距離を取る。
スラッシュスライムが移動すると、オレたちも攻撃範囲に入るので油断はできない。
金属音が森に響くと、他の魔物を呼び寄せたりするが、スラッシュスライムの攻撃範囲に入った魔物は、あっさり殺された。
オレに寄ってくる魔物も一撃で倒して、いつでも援護できるようにマリーナの戦いを見守る。
マリーナはスラッシュスライムと斬り結んでいるので、スラッシュスライムが近付く魔物を倒してくれる。
他の魔物の邪魔が入らないのは安心だけど、そのぶん強敵だという証拠なので心配だ。
「マリーナ! 下からだ!」
オレの声に反応したマリーナは、確認すらせずに横に跳ぶ。
草むらに隠して伸ばした触手が、マリーナの後ろの岩を貫いた。
スライムにも知恵があるのか、それとも野生の本能なのかは知らないが、なかなか嫌な攻撃をしてくる。
まあ、寄生虫とかでも、悪女みたいに自分の利益になる生物に乗り換えていく本能があるわけだし、自分の力の使い方を本能で知ってるのかもな。
人間の男でも教えられもしないのに、女の子のパンツとかがエロい物だと理解して興味を示すしな。
オレも女の子のパンツはエロいんですよと習った記憶はないし。
すべての生物には、本能でどうすればいいか解るような機能でもあるんだろう。
だとすれば、どんなアホな魔物も慎重に戦わないと危ないかも。
今度からゴブリン相手でも油断はしないようにしよう。
「硬すぎよ! スライムなのに!」
複数の触手が刃となって襲い掛かる。
手数が違いすぎるので全てを防ぐことはできず、マリーナの体に細かな傷が付き始めた。
普通の剣士を相手にするのと違い、手数が多く、なおかつ体のどこからでも触手を伸ばせるので、攻撃が読みにくい。
更に、スライムの体が金属のように硬いのでダメージが与えにくい。
あげく、普段は不定形で自在に動くので、触手を避けて攻撃を当てることすら困難だ。
「しかもあのスライム、岩のスキマとかに潜り込んだりしてるぞ!」
アリス先生の言う通り、ダメージを受けそうな魔力を込めた攻撃は、隙間に隠れたりして回避してる。
躱せる攻撃はヌルヌル動いて躱し、弱いけど避けられない攻撃は、硬化して防いでいる。
予想外に強敵だ。本当に知能は低いのか? 研究不足なんじゃないか?
「マリーナ! オレに代われ!」
「まだ大丈夫よ! 私は旦那様の隣に立ちたいの! お姫様じゃなくて騎士なんだから!」
自分の言葉に力が湧いたのか、軽いダメージは覚悟して突っ込んで行った。
頬や太ももなんかに、かすり傷が増える。
マリーナは気にせずに、直撃だけを避けて攻撃を繰り返した。
一撃必殺は諦めて、隙が少ない攻撃を連続で放つ。
魔力を大量に込めないぶん、連続して放てるが、一撃の威力は低くて小さな傷しか付けられない。
マリーナの戦い方が変わって、ダメージを受け始めたスライムは、攻撃の手数を減らして動き回ることにしたようだ。
動き回っているので、攻撃は甘くなるが、マリーナも攻撃を仕掛けにくいので困る。
攻撃範囲の広いスライムのほうが、手数を減らしてもまだ有利だ。
やっぱりあのスライム賢くないか? たんなる生存本能で動いてる可能性もあるけど。
「はぁはぁはぁ、強すぎるわよ……戦い方がコロコロ変わりすぎ」
疲労したマリーナが距離を取って休憩しようとしたら、攻撃の手数をまた増やした。
して欲しくないことをやってくるな。
マリーナの攻撃がないと判ったら、安心して攻撃を再開した。
人間だったら敵の攻撃が止まると、休むか警戒するだろうけど、スライムは単純だから大丈夫と思ったら動くんだな。
やっぱ単細胞生物なのか? よくよく考えたら、スライムの動きは単純に相手に合わせてるだけのような。
「マリーナ! スライムはもともと弱い種族だ! 進化する前は全部弱いスライムだ! そいつも弱いスライムから必死に生き残ってきた臆病な奴のはずだ! 怯えさせれば攻撃は緩むかもしれない!」
スライムについて判っているのは、もともとはただのスライムで、進化していろんなスライムになること。
条件は判らないけど分裂して増えること。そのくせ共食いして大きくなる。
別の生物を吸収しても大きくなるが、別のスライムを吸収するとすぐ大きくなる。
分裂した奴は同じ行動を取ることから、増えたとしても個というものがないらしい。
それくらいしか判ってないそうだ。
何にせよ、こいつは弱いスライムから進化した記憶があるんだろう。かなり臆病で慎重な戦い方だ。
「わかったわ! 渾身の一撃でびっくりさせてみる!」
マリーナが走り回りながら魔力を溜める。
森の木が何本も斬られ、足場が悪くなるが、マリーナは倒れた木を盾にしたり、木に隠れてやり過ごした。
今のマリーナが溜められる全力の魔力を受けて、剣が赤く輝いた。
「くらいなさい!」
木の蔭から飛び出したマリーナが、大上段に剣を振り上げた。
空中のマリーナを斬ろうと触手を伸ばす。
マリーナの剣とスライムの触手がぶつかると、嫌な音を立てて硬化した触手が砕けた。
スライムはやっぱり知能は低い。相手の攻撃力が変化したことに気付かなかった。初めて見る攻撃には対処できないようだ。
「少しだけどダメージを与えた! 次は核を狙ってみるわ!」
スライムはダメージを受けて怯えたのか、動きが消極的になった。
守勢に回ったスライムに、今度はマリーナが安心して魔力を溜めることができる。
魔力を溜めたら攻撃を繰り返し、スライムの触手を砕いていく。明らかに体積が減ってきてるな。
触手の長さが変わって、少しずつ近付いて行く。
触手の本数は変わらないみたいだが、リーチが短くなったので戦い易くなった。
あの触手の数は、あのスライムが上手く操れる数なんだろう。
それに、核から離れた体は操れないようだ。
「旦那様! 魔力が少なくなってきたわ!」
「マジックポーションを出すから待ってろ!」
オレは急いでポーションを出し、マリーナがスライムから離れた瞬間を狙って投げた。
片手で上手くキャッチして、スライムの動きに注意を払いながら回復する。
これでマリーナは今日はポーションを飲めない。結衣がいなければ傷の治療ができないところだ。
結衣に戦い方を教えるか、回復魔法ができる人間を仲間にしないと、そのうちマズイ事態になる可能性もある。
完全ではないにしろ、魔力を回復したマリーナが攻撃を再開する。
スライムはすでに逃走したそうだが、それほどの移動スピードがあるわけじゃないから、逃げられない。
「マリーナ! 油断や焦りは禁物だ! 一撃必殺を狙って隙を作るなよ! このままのペースで地味に行け!」
「わかったわ! 相手の隙を見つけても攻撃の仕方は変えない!」
止めとばかりに隙の大きい攻撃に切り替える必要はない。
優勢なら、隙を見つけても戦術はそのままで戦うべきだ。
別に必殺技じゃないと倒せない相手でも、倒すのに時間の掛かる相手でもない。
それならペースを崩して反撃のチャンスを相手に与える必要はないのだ。
「魔物は人間じゃない! どんな予想外の動きをするか判らん! 人間に取っては隙でも、魔物に取ってはチャンスかもしれん! 最後まで警戒して戦え!」
こちらを見て隙を作るようなミスはせず、マリーナはスライムを見詰めたまま頷く。
苦し紛れに触手を振り回すが、マリーナは焦って攻撃はせず、確実に触手を破壊して体積を減らす。
ついには、スライムの触手が本数と勢いを減らして、スライム本体に攻撃できるようになった。
マリーナは攻撃方法を変えずに、核を砕くことに成功した。
呼吸を整えながら死骸を見る。
動かないのを確認して、死骸と魔石を収納すると、こちらに向かって歩いてきた。
「やったわ! 誉めてもいいわよ?」
ギリギリの戦いだったが、最後まで諦めずに戦ったマリーナを抱き締めて、無事を喜ぶ。
マリーナは真っ赤になったまま、結衣の治療を受けた。




