剣士の攻防
血抜きが終わったので猪をしまう。
別に食料に困っていたわけではないけど、殺したからには食べないとな。
フィーリアを褒めてから、スラッシュスライムを捜して歩き出す。
「猪の肉なんか食べたことないぞ」
「アリスさまは都会で暮らしていたんですね~。村だと猟師のおじさまが捕まえてくるんですけど~」
日本でも都会の人間はめったに食べないからな。
旅行に行っても食べない気がする。
こっちの世界でも同じなんだな。
都会だと近くに森がないのかもしれないな。流通がしっかりしてないと、腐りやすい肉類は近くで獲れるやつしか難しいのかも。
「アタシたちの暮らしてた国だと、牛肉、豚肉、鶏肉が基本だからな~。羊とか馬とかも食べる人はいるけど、アタシは食べないな~」
オレは山籠りをした時に、クマとか食べるはめになったけど。
じいさんが厳しいんだもんな。自分で獲って食え! って言ってたからな。
いま思うと、子供に何言ってんだって感じだけどね。
いま強くなって助かってるから、感謝したほうがいいのかもだけど。
森に入った時は静かに歩いていたのに、緊張感がなくなったのか、おしゃべりが増えてきた。
やっぱり森は怖かったのかね? フィーリアのマイペースな態度にホッとしたのかも。
余計な魔物や動物と遭わないように、索敵で捜して向かう。
さっそく近くに見付けたので、みんなを促して歩き出すと、2分ほどでスライムに遭遇した。
「スライムって気持ち悪いわ! ネバッとしてて動きが不気味……」
マリーナの感性には合わないようだ。
まあ、産まれたての妖怪○間みたいな、ドロッとしたのを可愛いと思う女の子は少ないと思うが。
「とにかく気を付けて戦うんだぞ? 危なくなったら魔法で援護するから」
「……私に当てないでね、姉様?」
「失礼だな! アタシはノーコンじゃないぞ!」
命中率が低いから援護射撃はやめたほうが。
「マリーナお姉ちゃん、魔法をかけたほうがい?」
「ありがとう。でも大丈夫! ピンチになったら強化してね」
とりあえず自分の力だけで戦うようだ。
マリーナがジリジリと粘体に近付く。
3mほどの距離まで近付いたところで、スラッシュスライムが脈絡なく跳び掛かる。
「きゃあ!」
びっくりしたマリーナが、剣を縦に振り下ろすと、スラッシュスライムは真っ二つに斬り裂かれ、ベチョっとマリーナの後ろに落ちた。
すぐに振り向いて構えるマリーナだが、スラッシュスライムは核を斬られて死んでいる。
びっくりしたとしても、マリーナの腕は悪くないので出来た芸当だろう。
「こんなに弱いの?」
「スライムだから最弱とか?」
アリス先生が恐る恐る近付いてみる。
地面に広がるローションみたいなスラッシュスライムを、そーっと覗き込む。
「跳び跳ねたりしないだろうな~。動いたら悲鳴を上げるからな!」
「アリスさ――――」
「ぎゃああああああああああああ!!」
アリス先生の悲鳴が森に響き渡り、鳥が一斉に飛び立った。
「レイラ! びっくりするだろ!」
「も、申し訳ありません。ちょっと気になったことがあったので~」
別に意地悪ではないようだ。
「気になったことって何よ?」
「はい~。マリーナ奥さまが倒したのは普通のスライムではないでしょうか~?」
確かに見た目だと違いが判らないからな。
見た目はスライムだけど、体を刃状に硬くして斬り付けてくるのが、スラッシュスライムだからな。
「オレの索敵は形が判るだけなんで、何スライムまでかは判らないんですよ」
「……じゃあ、これはザコスライムか?」
「張り切って倒した私がバカみたいじゃない!」
張り切ってというか、びっくりして斬り付けただけなんじゃあ?
「……アリスの声がおもしろいね」
えっ、いまごろか?
フィーリアのマイペースさに、みんな唖然としている。
しかも表情が変わらないので、余計にびっくりだな。
これで面白かったんだ。
「とにかく、次のスライムを捜してくれる?」
「わかった、わかった。ちょっと待ってろ」
マリーナがムスッとしているので、動きの違うスライムを捜してみる。
こいつはトロいし、こいつは動かない。こいつは捕食中か?
とりあえず、捕食中の奴に向かってみる。
食べてるのは人型だし、ゴブリンだろう。
少なくとも、ゴブリンよりは強いスライムなのは確実だし。
「旦那様、あれは何スライム?」
「どうだろうな? 攻撃方法を見ないと判断がつかないけど、ゴブリンの死体を見ると、斬られた跡はない気がするな」
「溶けてわからないな~」
「気持ち悪いよ……」
「ユイお嬢さまは見ないほうが~」
みんなして観察するが、到着した時にはゴブリンの表面は溶けていて判らない。
「私が近付いて確認する?」
フィーリアなら攻撃を避けるのも簡単だろうけど、囮みたいなのはダメだ。
「いや、最悪、片っ端から倒して魔石を持ち帰ればいいだけだし、判らないなら判らないで」
「剣で戦いたいのに……」
マリーナも危険を冒すほどじゃないのが理解できるらしく、反論が弱い。
しかし、周りで騒いでいたから、スライムが攻撃してきた。
いきなり巨大化して、オレたちを飲み込もうとする。
「ビッグスライムみたいですね」
「落ち着いてないで倒せよ!」
アリス先生に怒鳴られたので、煌力弾を放つと爆散した。
飛び散るスライムの粘液が掛かる前に、レイラが煌力結界を発生させて防いだ。
あらかじめ結界発生機を用意していたらしい。やるな。
「また違ったな~。いつ見つかるんだ……」
オレもこんなに面倒な依頼だと思わなかった。
依頼料が高いのに、道理で残ってるわけだ。
「いつもは簡単に見つかるのにね? スライム凄いね?」
結衣は何が楽しいのかしらんけど、ニコニコしてる。
子供には探検してるみたいで楽しいのかもな。
スライムは基本的に単独行動をするので、増えたスラッシュスライムも単独だ。だから見つけにくい。
増えたんだから、集団行動して欲しいが、共食いが始まるので単独行動が基本になる。
種類も多いうえに、違いが判りにくいことから、スライムの生態はよく解ってない。
スラッシュスライムがどんな動きをするかも知らないので、動きからは目星がつかない。
結局は20匹以上のスライムを見て回り、ようやく1匹目を見つけた。
近付いたら、触手のように体を伸ばし、避けた先にあった大木が斬り倒された。
「10mくらい離れてるのに攻撃が届いたぞ?」
「結衣お嬢さま、フィーリアさまと一緒に離れてましょうね~」
「もっと近くで見たいけど……わかった」
3人が20mほど離れて見守る。
スラッシュスライムからは、30m以上離れているから大丈夫だろう。
「それじゃあ私が戦うわ! 旦那様と姉様は下がってて!」
言うなり飛び出すマリーナ。
すぐに反応して、スラッシュスライムが斬り付けた。
剣で弾くと、甲高い音が響く。
完全に金属みたいな硬さだな。
「硬い! しかも速い!」
切れ味も凄いしな。
弾いたスライムの体が、更に変化して、触手の先が複数に分かれてマリーナに降る。
剣で捌くのは不可能と判断したのか、マリーナは大きく前に跳んで距離を詰める。
スラッシュスライムは、触手をもう1つ伸ばしてマリーナを阻もうとする。
最初の触手も、マリーナの背後から迫る。
前方の触手を身を捻って躱し、後ろから攻撃する触手は跳んで躱す。
空中にいるマリーナを触手が追い掛けた。
「あっ! ヤバいぞ! 助けないと!」
アリス先生が慌てて援護をしようとするが、オレが止めた。
「何を――――」
アリス先生の目の前に触手が刺さった。
マリーナは背後から迫る触手を、木を蹴って躱した。
始めから木のあるほうに跳んだからな。マリーナもバカじゃない。
木を蹴ったその勢いで、スラッシュスライムに剣を振るう。
金属をこするような音がして、マリーナの攻撃は無効化された。
体も金属並みの硬さにできるからな。マリーナ全力が効けばいいけど。
マリーナは触手を避けながら、魔力を溜めた。




