反省会
「あ~疲れた。このヘビもう嫌だ……」
アリス先生が愚痴っているが、愚痴りたいのはオレだ。
オレやフィーリアがやったら数秒で済む魔物なのに、1時間以上も2人を抱えて飛ぶはめになった。
「この魔物とは相性が悪すぎるわ。旦那様がいない時に出会ったら逃げましょ?」
そうしたほうがいい気がするが、気付いたら巻き付かれてましたじゃ、洒落にならない。
魔力感知を覚えて貰うのが先だな。さすがに戦うのは早かったか。
着地したオレたちに、結衣たちが寄ってくる。
結衣は魔法攻撃が見れたので、アニメを見てる気分で楽しんでいたようだ。
「アリスお姉ちゃんの魔法、カッコいい! 結衣も攻撃魔法を使いたいな!」
結衣は魔法少女のアニメが好きだからな。
「凄く時間がかかったね?」
フィーリアはいつもの表情なんだけど、今の状況だと、ジト目に見えるな。
「フィーリアの強さがよく解った。戦いに相性って大事だな」
アリス先生が黄昏てるが、魔力感知さえ覚えれば倒せる相手だ。
頑張って覚えて貰えば、隠れるのが得意な敵にも多少は安心できるようになる。
「お疲れのようですので、お昼ご飯にしましょうね~」
返事をする間もなく、レイラがイスやテーブルを出す。
デコボコした地面の上なのに、器用に設置してガタガタ揺れない。
アリス先生は真っ先に席に着き、テーブルの上に突っ伏した。
足が着かないのでブラブラしている。逆に結衣は行儀よく座っているので、みんなして生暖かい目で見ている。
フィーリアだけはいつもと変わらず、ボーッとした半眼で景色を見ていた。
周辺の警戒をしていたり、地形の確認をしているだけだと思うけど。
「は~、アタシはもう少し戦えると思ったんだけどな~。魔法の威力だけじゃダメか~」
軽食を食べて落ち着いた頃、アリス先生が反省点を反芻していた。
まだ落ち込んでいるらしい。オレとしては戦い始めたばかりだから十分だと思うんだが。
「いろんな敵がいるな~。勇人がいないと簡単に死にそうだ……」
「それは私も思ったわ! 私たちは索敵を頼りすぎてたもの。リアを連れて来た旦那様の判断は正しかったわ……」
「お仕えする方の気配なら私にも分かるんですが~」
レイラって特殊なメイドスキルでも持ってるのか?
オレも煌力での索敵じゃないと完璧じゃないからな。普通の人の気配なら大丈夫なんだけど、達人や気配を消すのに特化した魔物は自信がない。
「結衣もカッコよく戦いたいな~。魔法少女になりたいの!」
支援系の魔法は違うんだろうな。
結衣にも攻撃魔法を1つくらい覚えて貰えば、少しだけ安全は増すかな?
でも子供には戦って欲しくないしな。悩む。
危険な世界だから譲歩すべきか、日本人の精神性を考えて、戦いから遠ざけて健全に育てるか。
「結衣ちゃんが12歳くらいになったら、教えてもいいんじゃないか?」
「ユイちゃんは戦わなくてもいいじゃない。私と旦那様が守るから」
アリス先生もマリーナも結衣には甘いからな。
オレとしては自衛の手段だけ教えて、戦いには参加させたくないけどね。
最終的には自分で選べるようになったら、自分で選ばせるつもりだけど、保護者の立場としては心配は消えないよな。
「……私が護衛だと不安?」
声に顔を向けると、おとなしく紅茶を飲んでいたフィーリアが、席を立ってオレの横に立ち、ボーッとした目で見上げていた。
「そういうことじゃないぞ。フィーリアの護衛能力に疑いはない。でも戦える人間のほうが護衛しやすいよな?」
「それはそうだよ? でも、戦えても戦えなくても私が守るよ?」
役に立つことに拘りがあるのか?
「それは判ってる。先の話だ。フィーリアと別行動する必要があるかもしれないからな」
「……うん。お兄ちゃんたちのピンチだと加勢したいよ? さっきも私が倒したかった」
微妙に悔しそうな雰囲気だけど、表情が変わらないから判断が難しいな。
しかし、さっきはピンチだと思われてたのか……ショックだ。
フィーリアはオレの戦闘を見たことがないから仕方ないけど、次のスラッシュスライムで活躍しよう。
「フィーリアに心配させないように、魔力感知を頑張る!」
「私は気配察知を頑張るわ! リアに教えて貰うから!」
「結衣もお料理がんばる! 今日リアお姉ちゃんに守って貰ったから! 美味しいご飯作るよ!」
結衣だけ何か違うが、みんなやる気だしいいか。
それからは時間を短縮するために、オレの索敵でキラースネークを発見し、アリス先生たちが戦うということを繰り返した。
少しずつ慣れていったけど、すんなり倒すのはまだ無理らしい。
1匹倒すのに10分~20分は平均して掛かる。
戦っている途中で2匹目が来た時は、フィーリアが瞬時に倒したので危険はなかったが、フィーリアが居なかったら、索敵をしていないオレだと気付くのが遅れたかもしれない。
キラースネークの十分な間引きを終えて、次のスラッシュスライムが生息する森に向かう。
増えた原因としては、復興作業や盗賊退治に冒険者が動員されたためだと言われている。
森のほうは街から50kmほどの距離にあり、建築に適した木材や、いろいろな薬草が採取できるらしい。
木を見てみると、真っ直ぐで硬い木が多い。植樹もしているのか、小さい木ばかりな所もあった。
「スライムってどこに住んでるの? お家はウサギさんみたい?」
結衣は妙なことを気にするな。
好奇心旺盛なのはいいことだけど。
「スライムって水とか飲むのか? 水のある所にいないかな?」
「スライムは水は飲まないそうですよ。その代わりに何でも吸収するらしいですけど。あと、スライムに家はないらしいぞ? 知能があるようにも見えない行動ばかりらしい。本能で獲物を求めてフラフラしてるそうだ」
「お家がないのは可哀想……」
本人? 本スライム? は、家がないなんて気にする知能はないだろう。だって脳がないもんな。
核とかで思考してるかもしれないけど、研究者は知能がないと判断してるそうだ。
不思議生物の生態なんて気にするだけ損だと思うが。
悲しそうな結衣を、レイラが抱き締めて慰める。
フィーリアも結衣が気になるのか、周りをウロウロしているが、慰め方が判らないらしい。
「スラッシュスライムとは私が戦いたい! 旦那様、いいでしょ?」
「どうせ何匹も倒さないとダメだし、マリーナが先に戦ってもいいぞ。ただし、油断はしないようにな」
「ありがとう! 私のお肌は旦那様の物だから傷なんて残さないわ!」
生きているならいいけど、女の子だし傷はないに越したことはないからな。
草を踏む音だけが聞こえる中、その音に紛れてガサガサ音が聞こえた。
後ろから近付いてくるのを察知したオレたちは、振り向いて構える。
フィーリアだけはボーッとしていたので、危険な魔物ではないだろうが、フィーリアにとっては危険ではないだけかもしれないので油断はしない。
出てきたのは猪だった。
不思議そうに動きを止める猪にとっても、遭遇は想定外だったんだろう。
敵意のない動物に、オレたちもどうしていいか判らなずに、猪と見詰め合っていると、いつの間にか猪の背後に回っていたフィーリアが、知り合いの肩を叩くような気安さで小剣を突き立てた。
悲鳴すら上げられずに倒れた猪を吊るして、淡々と血抜きを始める。
「これはご飯になるよ? 手間が掛かるから食べたことないけど……」
やはり元暗殺者。
殺すのにまったく躊躇いがなかった。
結衣がショックでレイラに抱き付いていた。
「敵意のある魔物ならアタシも容赦しないんだけど……まだまだ戦士になれないな~」
アリス先生は魔法使いだし。




