結衣の護衛が役割です
「おかえりーー」
宿屋の部屋に入ると、結衣が飛び付く。
「叔父ちゃん、この女の子が新しい家族?」
「戦えるのか? この小さい子」
アリス先生が疑問を投げ掛ける。
先生の要望を聞いておっぱいが小さい娘を選んだのに。
「強いですよ。エルフなんで200歳超えてますし」
「お~、エルフか。初めて見た」
「エルフが仲間になるなんて珍しいわね?」
マリーナの疑問も、もっともだ。
エルフは基本的に森から出ないらしいから、珍しい種族らしい。
「でもエルフに見え――――んぐっ」
マリーナの口を瞬時に塞ぐ。
みんなに小声で、耳を切られたことだけ伝えて、深く突っ込まないように頼んだ。
「なんにせよ、新しい仲間のフィーリアだ」
「お兄ちゃんの仲間になりました、フィーリアです」
そういえば、普通の子供として振る舞うとか言ってたな。
エルフって言っちゃったし、年齢もバラしたから意味ないんだけど、フィーリアに臨機応変は無理だよな。
「えっ、フィーリアのほうが年上だろ? なんでお兄ちゃんなんだ?」
アリス先生、そこはスルーしてくれ。
「私は元暗―――」
「エルフに見えないのに見た目が若いでしょ? だから子供として振る舞うんで、よろしくお願いします」
全部説明しようとするなよ。
奴隷商の言ってた素直な娘ってのは、本当に比喩でもなく、たんなる事実なんだな。
「まあ大人っぽい話し方しても変か。わかった」
「結衣もわかったよ」
「私も子供扱いするわ!」
「見た目が可愛らしいですからね~、お世話しますね」
みんな素直で助かるよ。
フィーリアがまた困ったような顔をしてる。
「えっと、子供扱いは嫌かな?」
マリーナが勘違いしても仕方ないな。
「家庭環境が複雑でな。優しくされるのに慣れてないんだよ。昔のことは聞かないでやってくれ」
とりあえず誤魔化せたようだ。
みんな同情したのか、撫でたりお菓子をあげたりしている。
「メインの役割は結衣とレイラの護衛を頼みたい。あくまでオレのいない時とかだけど」
「わかったよ、お兄ちゃん」
いい感じだ。奴隷には見えないぞ。
重い話ばかりだからな、アリス先生たちの負担になっても困るし、元暗殺者で奴隷というのは内緒だ。
この子供みたいな話し方は、暗殺に使われてたというのが複雑な気分だけど。
「あの~、ユートさま? なぜフィーリアさまはユートさまのマネをしてらっしゃるんですか~?」
「最近のマイブームだそうだ!」
我ながら苦しい言い訳だ。
常識や普通の暮らしを学び中だと言えば、どんな生活をしてたんだとなるだろう。
勢いで誤魔化すしかない。
「そうなんですか。可愛らしいですね~」
信じるのかよ。
だんだん、みんなの素直さが心配になってきたな。
いつか誰かに騙されるんじゃないかとハラハラする。
お互いの自己紹介が終わると、それぞれが思い思いに過ごした。
新しい仲間に興味津々なアリス先生たちは、レイラの用意するお茶とお菓子を食べながら、フィーリアを囲んで話を始める。
オレは部屋のベッドの上で、煌力の訓練をしながら耳を傾けた。
「へぇぇ、217歳には見えないぞ! 凄いなエルフは」
人間なのにエルフ族みたいなアリス先生が言うか?
「じゃあリアお姉ちゃんだね!」
フィーリアの愛称はリアに決まったようだ。
「リアは私の妹分ってことにするから、マリーナ姉様と呼びなさい!」
結衣にも甘いし、妹が欲しいのか?
「わかった、マリーナ姉様」
素直だな、やっぱり。200も年下なのに、姉と呼ぶのを躊躇わない。
「私のこともレイラお姉ちゃんと呼んで下さいね~、フィーリアさま」
「わかった、レイラお姉ちゃん」
結衣のことはユイちゃんで落ち着いたようだ。
見た目が唯一同じくらいだからな。
結衣はもう2~3年もしたら、アリス先生より年上に見えるようになるかもしれないな。
「それとフィーリアさま、好きな食べ物はなんですか~?」
様付けで呼ばれるたびに、フィーリアは困った顔をする。
しかし、優しくニコニコ微笑むレイラのことは好きらしく、微妙に嬉しそうに見える。
「好きな食べ物はわからないよ。お兄ちゃんに食べさせて貰った物と、さっき食べたお菓子以外は、携帯食しか食べたことがないから」
あまりの言葉にみんな無言になる。
黙り込んだみんなを見て、自分が何かしたのかと不安そうな顔になった。
「レイラ、とりあえずいろいろな物を食わせてみよう。そのうち好きな食べ物も見つかるさ」
「……ユートさま……そうですね~。美味しいご飯を作りますから期待してくださいね? フィーリアさま」
「うん」
「結衣はオムライスが好き!」
明るい結衣につられて、場の雰囲気も明るくなった。
みんなに笑顔が戻ると、フィーリアの不安そうな顔は消えて、いつもの困ったような眉毛と、ボーッとした半眼に戻った。
「それなら今日は、試しにオムライスを作ってみますね~?」
「アタシはケチャップは子供っぽいから、デミグラスソースにしてくれ!」
その発言がすでに子供っぽい。
「私はダイエット中だから、少なめにしてくれる? レイラ」
「う~ん、痩せすぎは体に悪いですから、きちんと食べて欲しいですね~」
「太って旦那様に嫌われたらどうするのよ!」
別に太ってないんだし、運動も毎日してるんだから気にせんでも。
女の子の痩せたいは、男には理解できない場合があるな。それ以上細くなると、色気がなくなるよって感じの細い子。
「マリーナは訓練してるんだから、肉を付けないと筋肉質になって柔らかさがなくなるぞ。オレは少しくらいは脂肪があるほうがいい」
「量は多めにお願いするわ!」
素直な女の子は可愛いな。
好きな人のために頑張る女の子は好きだ。
真っ直ぐな感じが見ていて清々しい。
「これは好き……これは嫌い……これも嫌い」
いろいろな調味料を舐めさせて、苦手な味を確認してみる。
苦い物が好きというのは、見た目からすると奇妙に見えるが、エルフなので野菜っぽい味が好きなのか?
「辛い物も苦手なんですね~」
「甘いのもダメなんて、女の子としてどうなの?」
マリーナはちょっと失礼だけど、珍しいのは確かだ。
「アタシの予想だと、ロクな物を食べてないから、苦味以外に慣れてないんじゃないか?」
「それで変な感じがして嫌いと?」
「そうそう! 慣れてきたら大丈夫だって」
確かに携帯食は不味いからな。
栄養を補給することを優先してるから、薬草とかを使ってると聞いたし。
あと、荷物を少なくするために小さくて栄養があるから、薬草の味が凝縮されて、相当苦いんじゃなかろうか?
「甘いのが嫌いなんて、リアお姉ちゃん、かわいそう。早く慣れるといいね?」
結衣の言葉にコクンと頷くフィーリア。
「う~ん、それなら薄味で作りますね?」
オレは濃い味が好きなんだけど。辛い物も好きだし。
子供ができると家庭の味が変わるっていうからな。我慢するしかないよな。
「アタシはビールのつまみは濃い味が好きなんだよ~」
アリス先生もつらそうだ。
「おつまみは別に用意しますね~」
アリス先生だけズルいな。
でも家族で違う物を食べるのはなんだし、手間が増えてレイラにも悪いし。
夕飯になると、みんなしてフィーリアを見る。
薄い味なら大丈夫なようだ。
「ちゃんと食べられますか?」
「うん。大丈夫」
「結衣は苦い野菜が嫌い」
「結衣ちゃんの護衛だから、食べてあげる」
「ありがとう! リアお姉ちゃん」
護衛だからって嫌いな物を代わりに食べるのは違うぞ。
「ユイお嬢さま~、自分の分は自分で食べないとダメですよ~」
子供は野菜嫌いが多いからな。
フィーリアは苦い物を食べたいだけかもな。




