フィーリアとの2人旅は大変だ
買い物は疲れるな。女の子の買い物好きは理解できそうにない。
フィーリアの表情は変わらないけど、疲れてるような気がするし、個人差はあるんだろう。
疲れた気持ちが一致したオレたちは、急ぎ足で宿を探した。
王都は広いので、宿も多い。
道は明るく、人通りもけっこうあり、道行く人たちは酔っ払ったり、デートをしたりと夜は長い。
その中を疲れた表情で歩くオレと、ボーッとした半眼で付いて来る美少女に注意を払う人は少なく、フィーリアも安心らしい。
フィーリアは、こちらに視線を向けてくる人がいると警戒するようで、本来は人通りが多い場所だと大変らしい。
たぶん子供が夜遅くに1人でいたから注目されてたんだと思う。
いい感じの宿を見付ける。
外観は綺麗だし、宿の道もゴミなんかは落ちてない。
料金表を見ると、設備にしては良心的な値段のようだし。
中へ入ると受付のオジサンがお辞儀をした。
「部屋は空いてますか?」
「お1人様ですか?」
「ん、1人? 2人です。ちょっと待っててください」
フィーリアの気配は感じないが、宿の屋根に子供くらいの大きさの反応がある。
オレは宿の外に出て、屋根に跳び上がった。
「命令がありますか?」
屋根の上に身を伏せたまま、オレの顔を見上げて聞く。
「命令は今後もするつもりはない。オレが言うことは命令じゃなく、頼み事みたいな感じで聞いてくれ。嫌な時は嫌と言っていい」
「意味はよく解りませんが、命令に嫌なことはありません。人殺しより嫌なことはないので」
「悪党以外は無理に殺さなくていいし、自分で本当に必要と思った時だけでいい」
寝そべったまま、首をコテンと傾げているが、コクンと頷いた。
「なんで外にいるかは知らないけど、フィーリアも宿のベッドで寝るんだ」
「ここでなければ近づいてくる敵に対処が遅れます」
確かに破滅の手に狙われてるが、オレを殺す気はまだないようだし、そこまで警戒しなくていいだろう。
「警戒するのはフィーリアの習性みたいなものかもしれんけど、街にいる間はそこまで心配はしなくていい」
オレは問答無用でフィーリアを宿の中に連れて行った。
「お待たせしました。2人です。ベッド2つの部屋を1つ」
日本だとツインで通じるだろうけど、この世界だと言い方が判らん。
「畏まりました。料金はお一人様3万3000シリンです」
金を払い、部屋に案内される。
食事は持って来てくれるそうなので、30分後に持って来てくれるように頼んだ。
突っ立ったまま、ボーッとした半眼で浸入経路がないか探しているフィーリアを座らせ、話を始める。
「今までの扱いは忘れて、オレたちと一緒に行動するんだぞ? 前の主人がどうしてたかは知らないけど、食事も家も一緒だ。夜はちゃんと寝ること」
「なぜですか? 私は元暗殺者です。その力を必要として買ってくれたのではないのですか?」
不思議そうに首を傾げる。
なんだか役に立つことに必死な気がする。
「そんなに張り切らなくていい。フィーリアの役目は家族を守ることだ。暗殺者としての力は索敵と戦闘能力だけでいい」
「ご主人様の家族を守るのですか?」
「そうだ。そのうち、フィーリアにとっても家族と思ってくれると嬉しい」
眉根を寄せて困った顔をする。
「ご主人様の言うことは難しいですが、ご主人様の行動をマネしてみます」
う~ん、普通に生きる方法が解らないんだろうな。
オレもフィーリアの気持ちが理解できないように、フィーリアもオレの言うことは理解不能なんだろう。
「最初はそれでいい。何か解らないことは聞いてくれ。して欲しいことがあるなら言うから、普段は好きにしていいんだ。冒険者の仕事中とかくらいしか指示は出さないだろうし」
「好きにしていいなら、仕事をしてもいいのですか?」
「街中では必要ないって。冒険者の仕事中に気が付いたことはしてもいい」
「解りました。まずはご主人様のマネをして普通の行動を学びます」
ようやく理解してくれたか。
オレがベッドに寝転がると、フィーリアもベッドに寝転がって、こちらをジーッと見ている。
最初は仕方ないか。オレだって修行するなと言われても困るし。
生き方を変えるのは難しいもんだよな。
オレはそう自分を納得させて、夕飯が来るまでゴロゴロした。
いちいち動きをマネするフィーリアは、子供みたいで可愛いかった。
食事が届いたら2人でテーブルに着いて食べ始める。
オレのマネをして同じ順番で食べるが、口が小さいので大変そうだ。
食べる速度を緩めて、フィーリアが食べるのに集中できるようにする。
携帯食より遥かに美味しいのか、味わう余裕ができると目を丸くして驚いた。
「旨いか?」
「んぐんぐ、携帯食とは違いますね。普通の人はこれを食べているのですか?」
「普通……たぶん普通じゃない人も、同じようなのを食べてると思うぞ」
「それは初耳です。私は食べたことがありませんから、変な人ですか?」
自分が変わってることに、ようやく気付いてくれたか。
「まあ変わった生活をしてたのは事実だ。前の主人が悪人だったんだ。変わっててもフィーリアが悪いわけじゃない」
「暗殺者は悪いことです」
「そうだけど、世の中自分じゃどうにも出来ないこともある。気にしすぎるな」
よほど自分の人生に疑問があるのか、モグモグしながら考え込んでいる。
オレは邪魔をせずに食事を再開した。
フィーリアも慌ててオレのマネを再開させて、食べる順番を同じに戻した。
せっかく自分の好きな順番で食べ始めたと思ったのに。
ただ考え込んでいたからマネをやめただけで、好きな順番ではないのかもしれないけど。
いろいろな物を食べさせて、好きな物ができるまで焦らないようにするか。
翌日、王都から煌力波通信で、機煌都市マキナまで通信を送った。
これは電報みたいなサービスで、マキナにいるアリス先生たちに伝言を送れる。
王都とマキナは煌力を送るための施設があるので、テレビ番組や伝言を送れるのだ。
新しい仲間を連れて帰ると伝えて貰い、オレとフィーリアは王都を出発した。
「こんな高価な物を使ってもいいのですか?」
飛行円盤を渡すと、不思議そうに尋ねてくる。
「オレたちの移動は基本的にこれだ。練習しながら帰るぞ」
とりあえず納得してくれたので、使い方を教える。
周りに何もないほうがいいので、道から外れて草原で練習させる。
「これは難しいですね」
「それは練習すれば大丈夫だ。それよりもパンツがこれ以上ないくらいに盛大に見えてるぞ」
「スカートは穿いたことがないので忘れてました。旅する時や戦いの前は、下にショートパンツを穿くのでしたね。せっかく買って貰ったのに、すみません。見苦しい物を見せました」
「見苦しくはないけどな」
「? 隠さなければいけない物は、見苦しい物では?」
「危ない!」
考え込んでしまったフィーリアは、地面に突っ込みそうになって、危ないところで急上昇した。
しばらくは、フィーリアから目が離せそうにない。
少し練習しただけで自由自在に操れるようになったのは、さすがに元暗殺者だ。
器用さはアリス先生やマリーナとは比べ物にならない。4分の1くらいの時間で、2人よりも上手くなった。
マキナに向かって出発する。
時々フィーリアが花や鳥に気を取られて、森に突っ込んだが、ぶつかりそうになっても怪我がないのは、凄い回避能力だな。
魔物の気配を感じても突っ込んで行くが、危険は排除しなければ落ち着かないそうだ。
森に潜む時なんかは、必ず周囲の安全を確保していたようだし、好きにさせる。
帰るまでオレが振り回されそうだ。行動が普通の女の子とは違い過ぎる。
帰り道に宿を取るために立ち寄った村でも、毎回のようにいろいろやらかした。
マキナが見えてきた時は、オレはすっかり疲れ果てていた。
やっと着いた。




