奴隷商人も困る条件だった
「…………申し訳ありません。聞き間違えました。英雄にお会いできたので舞い上がっていました」
どうやら聞き間違いと思いたいようだ。
「いえ、聞き間違いではないですよ。アリス先生の条件はおっぱいが小さい人です」
何回も言わさんで欲しい。
オレだってこんな間抜けな条件は付けたくないんだよ。
「あっ、ああ、そうでしたか。失礼しました」
「気にしないでください」
沈黙が部屋を支配している。
そりゃあ、うちの女性陣のワガママを聞いたら黙るしかないよな。
アリスよりもおっぱいが小さい、強くて美人の年頃の女性なんて、そうはいないし。
ほんとに見た目は小学生なんだもんな。おっぱいなんて、よく観察すれば少しだけ膨らんでるかな? って感じだしな。
それはそれで可愛いんだけど、女性は納得しない人が多い。
普通くらいのサイズは欲しいんだろうけど、あの体格には合わないと思う。
というか、おっぱい大きいねって言われて嬉しいのか?
たんなるセクハラだと思うんだけど、そんなアホな男に褒められても嬉しくないだろ。
小さいと言われたら怒るけど、大きいと言われても怒るのが女性の複雑な女心だと思う。
好きな男だと喜ぶ人もいるだろうけどさ。
16歳のオレからすると、面倒臭いと思うんだけど、大人の男になると面倒な女心も可愛く思えるんだろうか?
なんにせよアリス先生の条件で、仲間集めは難航しそうなのが現実だ。
「……申し訳ありません。当商館には該当する奴隷がおりません」
だろうね。わかってた、わかってた。
「しかし、このままお帰しするわけには参りません。王都の奴隷商館をご紹介致します」
「こちらこそ無理を言ってしまってすみません。紹介して貰えるとホントーに助かります」
だっておっぱいが大きいと、アリス先生が落ち込んでしまうから。
アホな条件だとしても、好きな女性には幸せでいて欲しいので妥協はしない。
地球より人口が少なそうでも、世界には何十人かはいるはずだ。たぶん。
「今すぐに紹介状をご用意致します」
商人が部屋を出て行き、使用人が飲み物の替えを持ってきてくれた。
アホな話をしたので、喉がカラカラだよ。
変な客だと思われてないといいけど。
アホな条件でも頑張って捜してしまうのは、惚れた弱みかね?
男は惚れた女のワガママに弱いな。ついつい叶えてあげたくなる。
飲み物を飲み終わる前に、奴隷商人が戻ってきた。
別にそんなに急がなくてもいいんだけど、英雄だと言われてるから、不興は買いたくないんだろうか?
日本人だから申し訳なくなってしまうな。そのうち慣れないと、誰かが困りそうだ。
「お待たせ致しました。条件など必要なことは認めておきましたので。……今回はご紹介できず、お手間を取らせて申し訳御座いません」
無理を言ったうえに謝られると立つ瀬がないな。
他人が聞いたら酷い奴だと思われそうだ。
「こちらが無理な条件を出したんですから、本当に気にしないでください」
いやマジで。
日本人なので頭を下げられると、こちらも下げたくなるから。
伯爵の紹介だから、希望する奴隷を用意できないと困るんだろうけど、本当に気にしないで欲しい。
なんか盛大に見送られながら、オレは王都に向かって飛んだ。
空中に浮かんだ時、みんなザワついたが、目立つと恥ずかしいので、すぐ逃げた。
街を抜けて建物がなくなると、オレはスピードを上げる。
低く飛ぶと低燃費なんだけど、木とかにぶつかり易くなるし。
まあ、ぶつかったところで、煌力に守られてるから薙ぎ倒してしまうだろうけど、無意味な自然破壊は最小限にしたい。
少しだけ休憩を挟みながらも、夕方には王都に着いた。
王都でも英雄なので、ギルドカードを見せたら門は素通りだった。
冒険者ギルドには寄らず、王都で1番の奴隷商館に向かって歩く。
領都カレイラとは違い、名前しか知られていないので注目はされない。
たまに熱い視線を向けてくるお姉さんがいるけど、好きな人がいるオレには関係ない。
まっすぐに奴隷商館まで行くと、その大きさに驚く。ここならいるかも。
中に入って紹介状を渡すと、すぐに支配人の所に案内された。
案内人がドアをノックして返事を待つ。
すぐに返事があり、中に入る。
支配人らしき人が執務机から立ち上がり、挨拶と自己紹介をした。
手には先に持って行かれた紹介状が握られ、渡してすぐに案内されたのに、こちらの名前を把握していた。
カレイラの奴隷商人が簡潔に書いてくれたんだろう。話が早くて助かる。
オレが勧められたソファーに座ると、支配人も対面のソファーに座った。
執事が飲み物を用意する。
支配人は一口飲んでから話し出した。
「紹介状を読ませて頂きました。難しい条件ですが、一応1人だけおります」
いるんだ。
期待はしてたけど、本当にいるとは思わなかった。
「ただ、この娘には問題がありまして。英雄に売れ残りをご紹介するのは痛恨の極みなのです」
別に条件を満たすなら問題ないけど。
性格の悪くないという条件もあるし、問題ないはず。
やり手そうだし、信じてるぞ。
「条件は満たしてるんですよね?」
念のために聞く。
「それは勿論で御座います。ただ……元暗殺者なのです」
キツいの来たな。
強制的に従えるような魔法がないのに、元暗殺者の奴隷はヤバい気がする。売れ残る理由が解るな。
「事情を聞いてもいいですか?」
「それは当然のことで御座います。事情をお伝えせずにお売りするようなことは致しません」
事情を聞かずに人を判断するのはよくない。
「ユート様にも関わりがある娘なのです。以前ユート様が壊滅された盗賊団の件はお聞きになっていますでしょうか?」
赤き斧とかいう盗賊団だろうな。
確か貴族が裏に居て処刑されたとか聞いたような。
「知ってますよ」
「その時に処刑された貴族家が代々使っていた暗殺者なのです。エルフの娘で217歳になります」
エルフなら長生きだろうから、代々使われるというのも理解できる。
結衣の条件で年上のお姉さんというのはクリアだな。
長い間、暗殺者をしていたわけだから、オレの条件、強くて索敵ができるのもクリアしてそうだ。
「凄腕なのですが見た目は10歳ほどでして、子供のような見た目で油断させて殺害するのが得意だそうです」
アリス先生の条件の、おっぱいが小さいというのもクリアしてるな。きっと。
「なりたくて暗殺者になったわけではないので、性格はとても素直な娘です」
性格が悪くない条件も大丈夫と。
「ただ、元暗殺者ということで売れ残ってしまいました。寝首を掻かれるのでは? と、心配する方ばかりで」
見てみないことには決められないな。
「見せて貰えますか? オレは条件を満たしているなら元暗殺者でも気にしないので」
「剛胆ですな。分かりました、連れて参りましょう」
隅で控えていた案内人に目配せをする。
一礼して出て行き、少ししてから女の子を連れて戻ってきた。
「この娘です」
女の子はちょこんと頭を下げる。
背中までの長さのポニーテールが揺れた。
エメラルドグリーンの髪と瞳。
困ったような眉毛は、への字を逆さにしたような形で固定されていた。
ずっと困ったような表情から変わらない。
自分なんかがとでも思っていそうだ。
エルフなのに耳が短い。半分くらいだし丸いな。
横に垂らした髪で隠れてよく見えないが。
「耳はどうしたんだ?」
エルフの女の子に聞くと、小さく澄んだ声で答えた。
「……人間の子供に見えるように切られました」
聞くんじゃなかった。
困ったような顔を、更に困ったような顔にしてしまった。




