また城に呼ばれました
「っう、あの怪我でなんてバカ力だ」
ガラガラと崩れる岩を退けながら、悪魔の反応を探る。
400mほど先の森の中に反応がある。倒れているようだけど、一応まだ生きている。
煌力を使い過ぎたので、反応が判りにくいが、少し動いたような。
オレは止めを刺すために、傷だらけの体を引きずって歩いた。
奴の体が激突してへし折れた木々が道標となり、オレを真っ直ぐ奴の所へ導いた。
倒れている悪魔を見つけて、残りの魔力を使って煌力を拳に集めた。
警戒しながら悪魔に近付くと、奴が静かに目を開けて、オレに視線を向けた。
「人間ごときに負けるとは思わなかったぞ」
「だろうな。だから負けたんだ」
人間を侮って油断したのが敗因だ。
オレのゲオルギウスの槍を食らった時点で逃げるべきだった。
「それと、バカな主を持ったのも不幸だったな」
「かもしれん。さっさと止めを刺せ。どうせ死ぬ身だが、我を負かした男に止めを刺して欲しい」
奴は目を閉じて終わりを待った。
「死に方を選べるだけ感謝して死ねよ。お前が殺した罪もない人たちに詫びながらな」
あの帝国兵士たちじゃあ、何百人もの護衛を殺すのは不可能だからな。
間違いなくこいつの仕業だ。たぶんユアンの街の物資を奪ったのも。
「オレの名前は勇人、お前を殺した男の名前を地獄で宣伝しろ!」
最後の一撃でへこんだ胸の傷に、止めの一撃を突き刺した。
悪魔は血を吐きながら、満足そうに死んでいった。
最期までムカつく奴だったな。アリス先生とマリーナを殺し掛けたくせに、満足そうに死にやがって。
こいつの死体は木っ端微塵にしてやりたいところだけど、回収してユアンの代官、アーノルドさんに渡して説明しないと。
アジトの中の帝国兵士らしき奴らも、何人か捕まえてるし、事件の背景も判るはず。
早いとこアリス先生たちの所に戻ろう。だいぶ離れたからな。
よろよろと峡谷を歩いて、1時間くらい掛けてアリス先生たちの所に着いた。
「勇人ーーー!」
「旦那様ぁぁぁ!」
傷だらけのオレを見て、慌てて駆けてくる2人を強く抱き締め、安心させる。
「ちょっと苦しいぞ!」
「見た目ほど酷い怪我じゃないのかしら?」
2人を離して、生きている敵の確保を始める。
アリス先生は死体を見たくないのか、腰が引けてるので、救出した人質を迎えに行って貰った。
「ほとんど死んでるな」
「あんまり余裕がなかったから仕方ないでしょ? 旦那様」
それはそうだ。
自分たちの命が最優先だから正しい。
1人1人生死を確認していき、ポーションで助かりそうな奴は回復させて鎖で縛る。
ポーションでは助かりそうにない奴には止めを刺していった。
作業が終わる少し前には、アリス先生と人質がアジトから出てきた。
人質の男たちの手の先には、鎖で縛られた帝国兵士らしき奴らが歩いていた。
ちゃんと管理してくれていたようだ。こいつらが話してくれれば確定するんだけどな。
尋問はプロに任せて、オレはゆっくり休みたい。
「勇人~、みんな無事だぞ~」
死体を見ないように少し離れた場所で叫ぶ。
「姉様~、こっちも終わったわよ!」
壊れた防具を外したマリーナは、軽くなったのでピョンピョン跳ねて先生に叫び返す。
「ユート殿、このたびは本当にお世話になりました」
死体があるので近寄れないアリス先生から離れて、人質たちがオレの所へ来た。
代表者が礼を言い、全員で頭を下げた。
「どういたしまして。皆さんは今後どうします?」
「使者として向かいたいところですが、この状況では。いったんユアンの街に行って、護衛の兵士を借りて王都に帰還します。陛下への報告をしなければ」
こいつらが帝国兵士だとしたら、抗議だけじゃ済まないだろうな。
小競り合いをしている国が、これだけのことをしたんだから、本格的に戦争だろう。
倒しておかないと、またこんな事態になりかねないからな。
「ユアンの街までは送って行きますので安心してください。怪我をしたので王都までは無理ですが」
「かたじけない。ユアンの街までの護衛料や助けて頂いた礼も王都に帰ったらさせて頂く。冒険者ギルド宛に送りますので」
貴族だからか借りを作るのは困るんだろう。すぐにお返しをしないと、あの時の件で話が……なんてことになるのかも。
単純に感謝の気持ちだけなら、貴族としては心配になるな。
「それと、ユート殿。今回の件は陛下にお伝えするので、怪我が治ったら城まで来て頂けると。国としても何もしないわけにはいきませんし、ユート殿たちからも詳しい話を聞きたいのです。お手数ですがお願いできませんか?」
「城には1度行ってるので構いませんけど、壊れた防具の調達とかもあるので、少し時間が掛かりますよ?」
「それは当然です。ユート殿たちの都合のいい時で構いませんので、お願いします」
話が纏まったところで、オレたちは休息をした。
人質も消耗しているし、オレたちも魔力も体力も使い過ぎた。
1泊してからのほうが安全だろう。
6個のテントを張り、オレたちが1つ、男たちが3つ、数の少ない女性たちが2つ使った。
捕虜は外で岩に鎖でくくりつけておいた。
オレたちは料理ができないので、人質の中に料理が出来る娘さんが居たので作って貰った。
男爵家の娘で、あまり裕福な暮らしではなかったらしく、使用人が少ないので自分でも料理をしていたと、恥ずかしそうに話していた。
その話を聞いて、料理ができない女性たちも恥ずかしそうにしていたので、こちらの世界では料理のできない女性は恥なのだろう。
食事を食べたあとは、男たちで捕虜の見張りを交代しながらする。
オレは怪我人なので、人質の男たちだけで引き受けてくれた。
もう人質じゃないので人質は変だが、他に適当な形容詞もないので、心の中では人質で済まそう。
その間に、オレはアジトにある戦利品の回収をしていた。
「旦那様、包帯きつくない?」
「大丈夫だ。しっかり巻いてくれ」
風呂に入って汚れを落としたあと、包帯を巻き直して貰う。
幸いマリーナの傷は、ポーションで塞がるくらいだったので、オレの世話をしてくれている。
アリス先生は左手の骨にヒビが入っていたみたいで、治療を受けて安静にしていた。
「ユイちゃんがいれば回復できるのにね?」
「結衣はまだ子供だから、こんな危険な場所に連れて来れないからな。もう少し強くならないと」
傷薬を塗って包帯を優しく巻く。
薬を塗る時にくすぐったいけど、スベスベした手の感触は気持ちいい。
「はい、終わったわ。あとは毒消しを飲んでね」
破傷風などを予防するための抗生物質の代わりだ。
薬と一緒に水の入ったコップを渡してくれる。
いい嫁さんになりそうだ。料理はできないけど。
「さすがに疲れた。マリーナもそろそろ寝ろよ」
「そうするわ」
アリス先生の寝息を聞きながらベッドに横になると、マリーナがぴったり寄り添ってきた。
「今夜は寒いから仕方ないの!」
寒いもなにも、煌力製品で快適な温度にしているから、テントの中は寒くないぞ。
「そうだな、仕方ない」
寒くはないけど怖い目にあわせてしまったし、反論はせずに抱き締めて眠った。
煌力灯を消し、暗くなったテントの中で、アリス先生とマリーナの寝息が聞こえる。
その寝息に安心して、オレも眠りに就いた。
翌朝、先に起きたアリス先生が、切ない顔でオレとマリーナを見ていた。




