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青き怒りの鉄拳

「くそっ! アークデーモン、何をやってる! 役立たずが!」


 召喚士の男が、自分を守ってダメージを受けたことにも気付かず罵倒する。

 それも当然だ。この男は魔力は高いが戦いに関しては素人である。

 アークデーモンが焦るほどの速度で飛んできた光の槍が、自分を狙っていたなど夢にも思わないだろう。


 なぜ召喚士の男がピンポイントで狙われたかは、召喚の時の魔力の高まりと、そのあとに現れた反応で召喚士を特定できたからだ。

 そのあと勇人は召喚士を狙える位置まで移動して、ゲオルギウスの槍を放ったのだ。

 なので勇人はまだ駆け付けることができない。依然としてピンチは変わらない。


(もう一発食らわせてやろう。今度はしっかり守れよ!)


 念話でアークデーモンにブラフを仕掛ける。

 光の槍が腹に刺さったままのアークデーモンが、急いで引き抜こうとするが、掴むことさえ出来ずに火傷してしまう。

 勇人のように煌力を操ることが出来なければ、実体のない煌力を凝縮して出来た槍を触ることは不可能だ。


 光の槍を抜くことを諦めて、己の主を守ろうと近付いた。

 召喚士の男を掴んで空を飛ぶ。


「何をしている! 奴らを倒さんか!」


「主が狙われているのだ! 離れたらまた撃たれてしまう」


「な、何だと?! 命令の変更だ! 私を守ることを最優先しろ!」


 言われなくてもアークデーモンは理解していた。

 魔物召喚士と契約した魔物は、主との間に魔力の繋がりが出来て戦闘能力と知力が強化される。

 その代償として主が死ねば、本来の力まで戻ってしまううえに、エネルギー供給が断たれて死んでしまうこともある。


 召喚士にしても、常に魔力を供給しなければならないので、普段は節約しなければならない。

 他の魔法を使う余裕がなくなり、自分自身の戦闘能力はとても低い。


 ゴブリンロードは煌力を吸収すれば生きられるが、アークデーモンは魔界から呼び出して契約した悪魔だ。

 主がいなければ魔界に帰ることができず、エネルギー供給が途絶えて飢え死にしてしまう。

 お互いに力を得る代償として払った犠牲は大きいが、アークデーモンは本来の力の倍以上の力を手に入れて、ドラゴン並の力を発揮できるようになっていた。


「あいつらどうしたんだ?」


「いきなり空に逃げちゃったけど、旦那様の攻撃が凄く痛かったとか?」


 最初の念話は全員に送り、場を混乱させてアリスとマリーナを守ったが、2度目の念話はアークデーモンにしか送っていない。

 勇人はゲオルギウスの槍で煌力を使い過ぎたので、少しでも節約したかったのだ。


 アークデーモンが空中で入り口を警戒していると、更に上空から青い光が降ってきた。


「オレを怒らせて、ただで済むと思うな! シャイニング・ブラスト!」


 拳に煌力を纏った勇人だった。

 勇人は入り口から出ずに、壁を砕いて別の場所から出て、かなり上空から勢いを付けて急降下したのだ。


「上からだと?!」


 振り向いたアークデーモンの頬に、勇人の拳がめり込んだ。

 牙が折れ、顔の形が歪むほどの拳を食らい、なおかつ爆発まで起こる。

 アークデーモンといえども耐えきれず、隕石が落ちるような勢いで地面に激突して血を吐いた。


 大地が砕け、粉塵が巻き上がり、ひび割れた地面が帝国兵士のほうまで巻き込んだ。

 地割れに落ちる帝国兵士たちを、無事な兵士が助けようとするが、炎が彼らを焼いた。


「勇人が戻ってきた今がチャンスだ! マリーナ、回復ポーションを飲め!」


「わかったわ、姉様!」


 指輪から傷を回復させるポーションを取り出し、飲み干す。

 体の痛みが和らいだマリーナも、すぐに帝国兵士の所に走り、斬り掛かった。


「ぐあっ」


「くそっ、小娘に負けるか!」


「ぎゃああああ!」


 後ろからマリーナを狙おうとした兵士には、アリスが魔法で援護攻撃をする。

 いつもの表情豊かな可愛らしい顔は、能面のように無表情になっていた。

 仲間の命を守るほうが大事だと割り切り、無心となって殺しているのだろう。


 アークデーモンは大ダメージを受けたが、まだ生きていた。

 墜落する時に背中から落ちたので、召喚士の男はなんとか生きているが、アークデーモンに刺さったままの光の槍が体に触れ、火傷を負っていた。


「ア、アークデーモン……早くなんとかしろ……」


 煙を上げる脇腹を押さえて、下敷きになっているアークデーモンに文句を付ける。


「お前の命はすぐに消してやる」


 上空からそれを見ていた勇人は、無慈悲に言い放った。


「ライフ・フィニッシャー!」


 アークデーモンに刺さった光の槍に、更に煌力を送り込んだ勇人は、煌力を操作して爆発を命じた。

 これはゴブリンロードの体内の煌力を操って爆発させた技である。

 まだ未完成なので、離れた位置からは操ることが出来ないのだ。


 アークデーモンは自分の体内にある槍が膨れ上がるのを感じて、主を自分から離そうと掴んだが、その腕に光の杭が無数に刺さった。


「逃がすかよ!」


 繋ぎ止められた腕を離すことができず、光が膨れ上がって爆発した。


「召喚士のほうは死んだだろ。悪魔みたいな奴はまだ反応がある。しぶといな」


 勇人は追撃に光弾を放ったが、砂煙の中から翼を広げたアークデーモンが飛び出してきた。

 その腹には(えぐ)れた穴が開き、向こう側が見えている。杭が刺さった腕の無数の穴からも血が溢れていた。


「ゴフッ、グハッ……こンナにダめーじを受けタのは、始テだ……」


 血を吐きながらの言葉は聞き取りづらく、相当なダメージを受けているのが判る。


「あるジはシんだ。ワれのイノちも一月(ひとつき)もなくナッた」


「心配するな。すぐに後を追わせてやる。オレの大事なものを傷付けた奴に先の心配は必要ない。その場で殺してやるからな」


 勇人とアークデーモンはお互いを睨み、空中で激突した。

 拳と拳がぶつかり合い、衝撃波を発生させる。

 打ち合う音が森から鳥を追い立て、森の動物も危機を察して逃げ出した。

 後ろ回し蹴りがヒットし、アークデーモンが崖を崩しながら飛んでいく。

 それを猛スピードで追い掛ける勇人が、光弾を連射して大地を砕く。

 砂煙に突っ込むと、衝撃波で煙を吹き散らし、アークデーモンの体に連撃を食らわせる勇人の姿が見えた。


 アークデーモンのほうも、ただ殴られているわけではない。

 勇人の拳をよく観察して掴み、勇人の顎を蹴り上げた。

 ()を描いて吹き飛ばされる勇人は、宙返りをしてバク転で着地し、光弾を放った。

 アークデーモンはそれを半身になってギリギリ躱すと、勇人のほうを見るが居ない。

 背中から衝撃を受けて地面に激突して転がり回る。

 勇人が背中に回り込んで蹴り飛ばしたのだ。


「でやあぁぁぁぁぁ!」


「ぬうぉぉぉぉぉ!」


 勇人のパンチをワザと顔で受けて、ハンマーを降り下ろすように、勇人の頭に両手を叩き付けた。

 地面に顔から激突した勇人を蹴り飛ばし、翼を広げて追い付いた。

 勇人の頭を掴み、岩壁に擦り付けて飛ぶ。


 勇人は両手でアークデーモンの頭を掴み、光弾を放った。

 左右からの爆発に、堪らず勇人を放した。

 2人は墜落したが、すぐに立ち上がり、お互いから目を逸らさない。

 勇人はアリスたちを傷付けられて怒り、アークデーモンは自分の最期の相手として、相応しい敵に出会えた喜びに満ちていた。


「お前はオレの拳で止めを刺す。遺言だけは聞いてやるぞ」


「悔いハなシ!」


 お互いに最後の一撃と決め、構える。

 勇人の拳には青い光が。

 アークデーモンの拳には赤い光が。

 それぞれの力を込めた拳を腰だめに構え、同時に飛び掛かった。

 アークデーモンの拳が勇人の頬に命中し、勇人の拳がアークデーモンの胸に命中した。

 お互いに吹き飛ばされ、勇人は岩壁に突き刺さり、崩れた岩の下敷きになった。

 アークデーモンは森のほうまで飛んでいき、何十本もの木々を倒していった。


 

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