盗賊(仮)の正体
「さっきも言ったように、オレは冒険者です。静かに付いて来てください」
返事を待たずに、ゆっくりと歩き出す。
体力の落ちた相手を急がせるのはなんだし、足音に気付かれると面倒だ。
できるだけバレるのを遅らせれば、人質も、外で引き付けるアリス先生たちも安全が増す。
「このくらいの速度なら問題ないですか?」
「気遣いありがとう。私たちのことは気にせずに、脱出を優先させて欲しい」
「その通りだ。陛下にお伝えしなければならないこともある」
足取りはしっかりしてるので、強がりではなく本当に大丈夫なんだろう。
「ご婦人方は大丈夫ですか?」
「はい。わたくしたちもカウニスハーナの貴族ですから。何が重要か解っています」
同盟国への使者に選ばれるだけあって、理知的な人が多いな。
やっぱりあの王は立派な王らしい。仲良くしておいて損はないだろう……お互いに。
「きゃっむぅぅ」
オレが敵を見付けて瞬殺すると、1人の女性が悲鳴を上げそうになったが、自分で口を押さえて頑張った。
「失礼。言い忘れましたけど、敵は殺して行くので驚かないようにしてください」
口を押さえたままコクコク頷く。
他の人たちも神妙な顔で頷いた。
出会い頭に2~3人の首をへし折っていくけど、敵の数は全部で200人以上いる。
このままだと脱出するまでに30人くらいしか減らせそうにない。
牢屋から出て5~6分ほどして、離れた場所で笛の音が響いた。
距離からして、牢屋で倒した奴が見つかったかな?
「今から歩いて来た通路を崩します、オレの後ろに」
教養のない人がいないせいか、この人たちがマトモだからか、特に文句や混乱もなく従ってくれた。
「はぁーーーーー!」
手の平から光線を放ち、オレたちが通った道を壊した。
爆発の煙で見えないけど、これで挟み撃ちはされないはずだ。
「お前たち、逃げ出したのか!」
おっと、爆発に寄って来たか。進行方向から敵が来た。
「オレを気にしている暇はあるのか?」
言いながら人質をすり抜けて、敵の前に出る。
「何を言っ―――――」
途中で爆音がかき消した。
「外からか! ぐあぁ」
気が逸れた一瞬のうちに間合いを詰めて首を折った。
「オレの仲間が外から敵を引き付けてるんで、アジトから敵が少なくなるはずです」
敵の反応がこちらに10人くらいで、残りは外に向かっているみたいだ。
まだ爆音が続いているので、アリス先生たは健在だ。反応もあるし大丈夫。
出て行くはしから吹っ飛ばされてるみたいだな。動く反応だし生きてるんだろうけど、吹っ飛ばされては立ち上がりを繰り返している。根性あるな。
「今のうちに外に出ますよ。外に出ればアジトを崩落させる心配もなく戦えます」
オレたちは敵を避けるのはやめて、真っ直ぐ出口に向かった。
一方アリスたちだが、勇人の指示に従わずに戦っていた。
なるべく勇人に負担が掛からないように、少しでも長く敵を引き付け、少しでも多くの敵を倒したかったのだ。
アリス自身、その気持ちが生徒を心配する気持ちか、愛する異性を心配する気持ちかは解っていなかったが、勇人を置いて逃げることに抵抗があった。
その焦りにも似た衝動を抑えられず、見つかってからも魔法を撃ち続けていた。
「アリス姉様に近付くと私が許さないわよ!」
アリスの魔法を掻い潜って近付く盗賊は、マリーナの剣の餌食となり絶命した。
「コイツらしつこいな! 魔法防御力が高いぞ」
「直撃させれば大丈夫よ! 姉様、当てて!」
マリーナの価値観はこちらの世界の価値観なうえに騎士志望なので、盗賊と思っている相手を殺すことに躊躇はない。
しかしアリスは平和な日本の価値観を捨てきれていないのだ。
27年もの間生きてきた価値観を、簡単に捨てて人殺しができる人間は、どこかしら狂っているだろう。
勇人は戦闘狂のきらいがあり、物心つく頃から戦いについて厳しく指導されていたから、アリスたちを守るため、人殺しに躊躇がない。
「直撃したら死ぬけど、仕方ないか……」
戦いに疎いアリスにしても、この状況がじり貧であることは気付いている。
アリスが直撃させないことを、敵も気付き始めたため、嵩にかかって攻めてきたからだ。
魔法を突破してマリーナの所に届く相手が増え始め、アリスの所までやって来るのも時間の問題だろう。
「死にたくない奴はアタシたちに近付くな!!」
アリスの放つ爆裂魔法が、敵の体をバラバラに砕く。
マリーナと斬り結んでいた敵も、驚きのあまり硬直してしまい、その隙を見逃さないマリーナによって斬り捨てられた。
どうせ直撃しないと舐めて掛かっていた男たちは、急に変わった事態に狼狽えた。
練習の成果か、止まった相手に当てるくらい、アリスにでも余裕なはずだが、時に外してしまうのは手が震えているせいだろう。
中にはそのことに気付いて突撃して来る者もいたが、アリスの魔法が脅威であることに変わりなく、アリスばかりを気にしているうちに、マリーナに斬られてしまう。
味方の犠牲が100人を超えたところで、男たちが攻撃を控えて睨み合いが始まった。
アリスが魔法を撃つと、すぐに散開して被害を無くすため、アリスたちも攻めることが出来ないでいた。
そこへ盗賊たちの指揮官らしき男が現れる。男たちの顔はこれで勝ったと言わんばかりに輝いた。
「小娘にしてはやるな。だが、私には敵わない」
「なんか偉そうな奴ね!」
「マリーナ、でも強そうに見えないぞ? 魔力は強いけど」
愛らしい少女2人に偉そうだの弱そうだの言われた中年は、額に青筋を立てたが、それを無理やり抑え込み不敵な笑みを浮かべた。
「子供のオイタが過ぎると早死にするぞ。何者か話して捕まりたまえ」
大物ぶって話しているが、盗賊たちの後ろにいるので小物臭さは消えない。
「あいつアホなんじゃないか? おとなしく捕まる奴がこんなとこに来るわけないのに」
「こそこそ隠れて大口叩くなんて、旦那様とは大違いね」
2人の評価は辛辣だ。
「……貴様ら、ガキだと思って優しくしてやれば付け上がりおって。いいだろう。私の力を見せてやる」
そう言った男は魔力を高め、魔方陣を形成した。
直径5mほどの赤い円が、男の魔力を受けて妖しく輝き出した。
円の中に1つ1つ、魔力で文字が描かれてゆく。
距離があるのでアリスたちには読めないが、召喚する対象のデータを書き込んでいるのだ。
「ゴブリンロードは倒されたが、コイツを倒せる人間は四竜将並の人間くらいだ」
「お前っ! ゴブリンロードの召喚士か!」
目の前の男がゴブリンロードを使役して、街を破壊した帝国の手先だと気付いたアリスは、慌てて炎の魔法を放ったが部下が己の体を盾にして、魔物召喚士の男を守った。
自分を守って焼け死ぬ部下を気にも留めず、男は自慢の魔物を呼び出した。
「出てこい! アークデーモン!」
魔方陣の輝きが増し、辺りが不気味な光に満たされる。
血のような色の輝きが収まると、3m近い筋骨隆々の悪魔が現れた。
悪魔の目は真っ赤に輝き、力強く大きな翼が羽ばたくと、離れた位置にいるアリスたちが風圧で吹き飛ばされそうになった。
「あいつは弱そうだけど、この悪魔は凄く強そうだぞ」
「姉様より魔力が高い気がするんだけど」
「たぶん倍近いと思うぞ。アタシは魔力が半分くらいまで減ってるし……ヤバイな」
今更ながら、勇人の指示を守らずに、適当な所で撤退しなかったことを後悔し始めるアリスたちだった。
「主よ、この小娘たち相手に我を呼び出すとはやり過ぎではないか?」
「生意気な小娘にお仕置きだ」
傲慢な表情で言ってのける召喚士に、アリスとマリーナが魔力を全開にして構えた。
「勇人が来るまで持ちこたえるぞ」
「私が戦うから姉様は強力な魔法の準備をして」
人質を連れている勇人は、それほど早くは戻っては来れないだろうと、2人も判っていたが。




