盗賊に捕まった
さてと、ゴブリンたちに追い付かれないスピードは必要だけど、速すぎると盗賊に不審に思われるかもしれない。
ゴブリンたちには、全速力で走らないように伝えておこう。
「お前たちは、普段の半分くらいのスピードで走るんだぞ?」
『なんで人間なんかに指図されなきゃならないんだ!』
『そうだ、殺すぞ!』
やはりゴブリンはゴブリンか~。
(……黙れ)
『ひっ』
煌力に意思を込めて叩き込む。
上手くいったようだ。この分だと念話も送れる気がするな。
アリス先生たちにいきなり使うのは危ないかもと思ったけど、ゴブリンで練習しよう。
ゴブリンへの指示も、盗賊に分からないようにできるので、いよいよ作戦決行だ。
オレは一般人並のスピードで走り、時々よろけたりしながら必死に逃げてる感を出した。
少しだけ遅れて、ゴブリンたちが走り出す。指示した通りに騒ぎながら追い掛けてきた。
これで峡谷にある盗賊のアジトまで逃げるだけだ。
その前に、来る時は避けた盗賊の斥候に近付いていくと、斥候がアジトに報告に向かったようだ。
あとは、アジトの近くでゴブリンをどうするかだけど、盗賊が出てきて倒すならよし。
倒さないなら崖を登ろうとして、崖を登って逃げるように見せ掛け、岩が崩れて落ちる振りをして、ゴブリンを岩で潰しながら気絶した演技をする。
「誰か私を守れ! 護衛はどこで何をしてるんだ! 父上はご無事なのか!」
渓谷の入り口近くで、隠れて見張りをしている盗賊に聞こえるように叫ぶ。
年齢的に使者は無理があるので、使者である父親に連れて来られた貴族の息子という設定だ。
護衛はやられて、父親ともはぐれて逃げるという状況だと、上手く伝わってればいいが。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
別に欠片も疲れていないけど、息を荒げて必死に逃げる。
峡谷に入ると、岩につまづいて転ぶという細かい演技も入れた。
索敵をすると、かなりの速度でアジトに向かった見張りが、とっくにアジトに到着していた。
すぐさま待機していた盗賊が、アジトから飛び出して来る。
整列しているのを見ると、ひょっとしたら逃亡兵が盗賊になったのかもしれない。
オレは苦しそうな演技をしながら、峡谷を走り回り、アジトに近付いていった。
盗賊は様子見をするでもなく、100人以上の戦力で向かってきた。
「貴様ら! 私を助けるのだ! 褒美をとらすぞ!」
盗賊の姿が見えたら、助けがきたと喜ぶような表情をして、貴族のバカ息子っぽく助けを命じた。
盗賊たちは、その言葉に反応することもなく、整然と隊列を組み、数に勝るゴブリンたちを駆逐していく。
「よくやった! その調子で私を守れ!」
盗賊だと気付いてないと思わせなければならないので、演技は続ける。
それにしても、訓練された動きだな。やっぱり軍人として訓練してそうだ。
こんな精鋭が、なんで盗賊なんてやってるのかは解らないけど。
ゴブリンは見掛けしだい倒さないとダメな魔物だけど、利用した手前、なんとなく可哀想に思えるな。
盗賊たちがゴブリンを全滅させると、オレのほうに近寄ってきた。
「ご苦労だった。褒美を取らすから名乗るがいい」
「お前は貴族みたいだが、こんな所で何をしてるんだ?」
どうやらオレの立場を確認して、利用できるかどうかを判断するようだ。
少しずつ囲んでいるし、武器は納めたから、捕まえる用意だろうな。
「私は父上に付いて、隣国に使者として向かう所だ。なかなか使者がたどり着かないから、護衛を少なくして秘密裏に向かっていた」
たぶん道は、監視とかして使者を襲っていたんだろうから、コッソリ移動していた設定だ。
「そこをゴブリンに襲われたのか、不運だな」
さほど同情していないのは、表情を見れば明らかだ。
「そんなことより父上を捜せ! ゴブリンの集団に囲まれた時に私を逃がすために残られたのだ」
暗に喰われてしまったと伝える。
捜しに行かれたら困るからな。もう死んだと思って貰わないとな。
「どこで囲まれたんだ? 近くか?」
「かなり走ったから急ぐがよい! 早くしなければ父上が」
オレの言葉に顎をしゃくり、後ろの盗賊が近付いてくる。
そして、オレの体にロープを巻き付けた。
「何をする、無礼な! 今すぐやめて父上を捜しに行けば命は助けてやるぞ!」
「さすがにもう生きてるわけないだろ? おとなしくしろ!」
力をあまり入れずに、必死に暴れる振りをする。
あまりにも暴れるので、気絶させようと腹を殴ってきた。
「ぐっ」
力を抜いているのでけっこう痛い。
オレは徐々に意識を失うように、少しずつおとなしくなっていく。
あとは気絶した振りをして、人質の所まで運んで貰うだけだな。
目を瞑っていると、オレの体を肩に担ぎ上げて、盗賊たちはアジトに戻った。
アリス先生たちも所定の位置に隠れているようだし、あとは無事に人質を外に連れ出したら、全力で暴れるだけだ。
盗賊の肩の上で揺られながら、最短の道を記憶していく。
逃げる時はなるべく時間を掛けたくないし、敵が大勢出ていけば、アリス先生とマリーナが危険になる。
敵が出てきたら、攻撃を中止して見つからないように指示したけど、なんとなく不安だ。
あの2人だと、うっかり見つかっても不思議には思わないし、性格を考えたら攻撃を続ける可能性もある。
途中で気付いたけど、魔力を抑えてる奴がいるな。
こいつがリーダーなのか?
判らないけど警戒しておく必要があるな。
抑えてるから判りにくいが、アリス先生並の魔力かもしれないし、上かもしれない。
逆にアリス先生よりも低い魔力かもしれない。
戦力が判らない奴は、警戒しすぎのほうがいい。
拍子抜けするよりも、油断を突かれてピンチになるほうが嫌だからな。
道を右に左に歩きながら、10分ほどしたころ、牢屋らしき反応に辿り着いた。
ロープが解かれて牢屋の中に乱暴に放り込まれたら、気付いた演技をする。
「んんっ……なんだここは?! ……そこのお前、ここから出せ!」
鉄格子を掴み、オレを運んだ盗賊に怒鳴る。
「そうはいかない。お前たちには利用価値があるからな」
「どういう意味だ! 無礼者め!」
とりあえず情報を引き出すために、演技を続けた。
「お前たちから国の情報を引き出したいんだ。そのあとは捕虜交換に利用できるからな」
こいつら、どこかの国の兵士か?
テロリストが仲間の解放を企んでいる可能性もある。
「お前たちは何者だ! 盗賊らしくないな!」
「それは秘密だ。お前知ってる限り国の情報を話せばいい」
「なぜだ! 盗賊には関係あるまい!」
「盗賊には確かに関係ない情報も多いな」
帝国の兵士っぽいな。
同盟国の使者を狙ったり、国の情報を欲しがったり、捕虜の交換なんて戦争してるやつくらいだろ。
帝国とは小競り合いが続いてるというし、お互いに捕虜をとったりしてるはず。
このあたりって狙い易いのか? ユアンの街も壊滅しちゃったし。
位置的に王都から遠いけど、援軍を送りたくない距離ではないからか?
王軍を誘き出せすには、丁度いい距離なのかもしれない。
援軍が簡単に到着できず、王都が狙われても引き返すには時間が掛かるだろうし。
王軍が動かないほど小さな街でもなく、兵力が充実するほど大きくもない。そりゃ狙い易いよな。
「お前たちの目的はなんだ! このような場所で何をしているんだ!」
「お前が知る必要はない。知っていることを話せ」
「ふざけるな! 私を誰だと思っている!」
掴んだ鉄格子をゆっくり離し、指先を盗賊(仮)に向ける。
「かなりの上級貴族のボンボンか?」
「……違うぞ? お前たちを倒しに来た冒険者だ!」
全ての指からキルレーザーを放ち、一瞬のうちに敵を撃ち殺した。
頭や心臓、喉を貫かれた敵が、間の抜けた表情のまま崩れ落ちた。
そのまま鉄格子を掴み、力任せに拡げていった。
「さあ、みんなオレに付いて来てください」
隣の女性用の牢屋もこじ開けて、人質に告げた。
最初は茫然としていた人質だったけど、オレの言葉をようやく理解したのか、喜びに溢れた表情で涙を流して、何度も何度もお礼を言った。
なんとしても無事に連れ帰らなきゃな。




