再び盗賊退治へ
朝も早くから盗賊を捜しに峡谷を目指す。
十分に休んだオレたちは、絶好調で盗賊との戦いに挑めるだろう。
平原を抜け、岩山を抜けて、峡谷に辿り着いた。
飛行円盤で行ける所にあってよかったな。狭すぎる場所なんかだと無理だし。
木々が立ち並ぶ深い森だと、激突するから下りなければ進めない。
ここは巨大な岩山だから、十分な広さがあってぶつかる心配はなかった。
「それにしても凄い谷だな~。落っこちそうで怖いぞ」
「姉様、あまり乗り出したらダメよ。危ないわよ」
60mくらいの崖から、下を覗き込むアリス先生。
自分で覗き込んでいるのに、ブルブル震えているので、マリーナでなくても心配になる。
「ひゃ~、怖かった。この下のどこかにアジトがあるんだな?」
「そうですよ。オレの索敵で見つけるんで、ちょっと待ってください」
アリス先生の質問に答えて、オレは索敵を開始した。
半径1kmの範囲にはいないみたいだな。長い谷だし、少し歩きながら索敵しないとダメみたいだ。
「少し歩きますよ。この辺には居ないみたいなんで」
「わかった…………それにしてもおっきいな~」
やっぱり谷が気になるのか、チラチラと覗き込もうとしては、マリーナに捕まってる。
「もう! 姉様! 子供じゃないんだから、しっかりしてよ! 見てる私のほうがハラハラするわ!」
「ごめんごめん。つい気になってな~」
怖いもの見たさだろうか?
「でも旦那様、この下にアジトなんかあるの?」
「あるらしいぞ。騎士団とかが追い掛けると、こっちに逃げてくらしいからな。ここは川が干上がってるから、下に下りる場所か、回り込んで谷に繋がる道でもあるんだろ、たぶんな」
騎士団の装備じゃあ、重くてこんな場所に来るのはキツいだろう。
装備を外したら騎士団の本領は発揮できないから負けるかもしれんし。
2~3kmほど歩いて、やっとアジトらしき場所を見つけた。
かなりの数の人間の反応があるので、アジトに間違いないだろう。
感じ取れる形からすると、内部は入り組んでいるようで、かなり厄介そうだ。
「使者の貴族とか文官が捕まってるんだよな?」
「そうです。牢屋らしき場所に50人くらいの人数が居ますね」
「そんなに! 助けられるの、旦那様?」
「作戦もなしに突っ込んでも、人質の立場が判らないとどうなるかは……」
連中の目的にもよるな。
人質が大事ならすぐには殺さないだろうけど、逃げるほうが重要と考えるようなら、あっさり殺して逃げようとするかもしれない。
「前みたいに見つからないように助けるのはダメなのか?」
「今回の盗賊に隙なんてありませんよ。騎士団が来ればすぐに撤退するくせに、使者の一団を襲うときは完璧に護衛を殲滅して拐う。明らかに統率が取れているんですから、見張りや見回りだって完璧ですよ」
人質らしき人がいる場所には、常時5人張り付いているし、巡回だって頻繁にやってるから、倒せば数分で見張りが居ないのがバレるだろう。
「入り口の見張りだって人数が10人いますし、たびたび巡回に来てますからね」
「…………人質を助けるのって無理じゃないか?」
「私も無理だと思うな」
「人質の所に着くまで見つからないなんて、オレたちには無理でしょうね」
どうしたもんかな。
人質を無視して仕掛けても、人質が殺されるかは判らない。
しかし、連中にしてみれば、リスクになるようなことをする必要はないだろう。
奴らの実力からして、また簡単に拐えるから、自分たちの情報を持っている人質が奪還されそうになったら、迷いなく殺しそうな気がする。
「魔法を撃ちまくれば出て来ないかな?」
可愛い顔して過激だな先生。
「全員は出て来ませんよ。それに、目的がバレたらどうなるか判りません」
また先生がゴブリンを利用しても無駄だろうな。
いや、ゴブリンは利用できるな。かなりの数なら利用価値があるぞ。
「先生、ゴブリン――――」
「イヤだ!」
「…………最後まで聞いて下さいよ」
「だってまたゴブリンに悪口言われるだろ~、色気がないとかさ~」
ゴブリンでなくても先生のロリ体形に色気を感じたりはしないと思うが。
「先生の体形は可愛いんですよ。ゴブリンに理解できないだけです。大丈夫です」
「……大丈夫ってなんだよ~」
やさぐれてるな。
「私も姉様のおっぱいは可愛いと思うわ! 揉むほどないけど柔らかいのよ?」
揉むほどないは余計だし、マリーナが言っても慰めにはならんから。
「先生の可愛いさについてはまた今度に」
とりあえず宥めて、作戦を話す。
「まずオレが300匹くらいのゴブリンを集めるんで、先生が魔法で脅して命令してください」
「命令って、また盗賊を攻撃させるのか?」
「違います。まずは適当な弱い魔物を斬り付けさせて、武器に血を付けたあと、オレを追い掛けるように命令してください」
オレの指示に疑問符を浮かべたような表情になる2人。
「オレは前に城で貰った貴族服を着て逃げて、盗賊にわざと捕まります」
「使者の振りをして捕まるのか?」
「そうです。人質の所に行ったら暴れるんで、騒ぎが起きたら隠れながら魔法攻撃をしてください。アジトに当てないでくださいよ」
逃げ道が潰れるし、アジト自体も崩れたら困る。
「それで奴らは挟撃されてると思うだろうから、かなりの数を誘き出せるはずです。派手にやればやるほど、外の戦力が多くて、中に入ったオレは囮だと思うんじゃないかな」
かなり訓練された盗賊のようだし、そのくらいの判断はしてくれるはずだ。
「それで人質は大丈夫なの?」
「そりゃ大丈夫だろ? マリーナならどうする? わざわざ殺さずに捕まえて、なおかつ手間が掛かるのに生かしたままの人質を、新しく人質を捕まえたのに殺すか? そいつは捕まえたから無力化しているのに、脅威に感じて人質を殺せなんて言わないだろ」
「それもそっか。何かに利用するつもりで捕まえたのに、ピンチにもなってないのに殺したりしないよね」
2人とも理解してくれたので、作戦の準備に入ろう。
やることが多くて大変だけど、まずはゴブリンを集めてアリス先生が調教する。
調教している間に、アリス先生たちが隠れる場所も探さないと。
敵から見つからない場所で、アリス先生が魔法攻撃できる位置が望ましい。
あとオレも着替えてから、襲撃されたような傷を服に付けておかないと。
護衛付きの馬車が襲われて、何時間も逃げてきたような演技が必要だな。
体に傷を付けておいたほうがいいな。木の枝で引っ掻いとこうかな。
全ての準備を終えて、アリス先生がゴブリンを整列させる。
何匹か魔法で吹っ飛ばしてから従順になった。
峡谷に通じる森の中で、300匹を超えるゴブリンが集まっているのは、なかなか迫力がある。
『あのゴブリンメイジは怖いな』
『いつもメスゴブリンの尻に敷かれる』
『どうしてメスゴブリンは気が強いんだ』
『俺なんか、この前ケンカして咬まれたぞ』
『うちは母ちゃんが怖い。寝坊すると斧で殴ってくるんだ』
「うーるーさーい! ペチャクチャ喋ってないで並べー!」
両手を上げてプンスカ怒るアリス先生に、ゴブリンたちがドタドタと並ぶ。
オレやマリーナには牙を剥き出しにして威嚇するのに、アリス先生にだけは従順だな。
「とにかくお前たちは、勇人を追い掛けるんだぞ!」
『この人間は喰っていいですか?』
『俺は頭を喰いたい!』
「食べるなー、あほーあほー。絶対に攻撃を当てたらダメだからな!」
こいつらを見てると無性に殴りたくなるな。作戦に必要だから我慢するけどさ。
こうしてオレは、アホなゴブリンを引き連れて峡谷に向かった。




