強敵の予感
「ユート、盗賊のアジトは潰したんだな?」
大量の戦利品を手に入れて、上機嫌のオレに確認するように聞いてきた。
「勿論です。フレッドさんたちにも分け前を出しましょうか?」
「ありがたい話だが、退治した者が総取りだ。そのルールを破るわけにはいかない」
一緒に仕事してるんだし別にいいと思うんだけどな。
「おかえりなさい!」
「ただいま、結衣」
結衣を抱っこして、アリス先生たちにもただいまの挨拶をした。
「怪我なんてしてないわよね?」
「するわけないだろ。弱い盗賊ばかりだったからな」
「旦那様なら当然よね!」
じゃあ聞くなとは言わない。
女心は男には永遠に理解できないものだと思うから。
「ユートさま、お腹が空いたのでは~? サンドウィッチを作っておきましたよ~」
「ありがとう。歩きながら食べることにする」
出されたおしぼりを受け取り、手を拭く。
「アタシも魔法を使ってお腹が減ったぞ! レイラ、アタシも欲しい!」
サンドウィッチを受け取り、旅の再開というところで、アリス先生も騒ぎ出す。
小さな手で、オレ用に作った大きめのサンドウィッチを持ち、苦労しながら食べている。
転びそうになるたびにレイラが支えている姿は、子供にしか見えないけど、それはそれで可愛いので好きだ。
「あむあむ」
オレがアリス先生を見ている間に、抱っこしていた結衣がオレのサンドウィッチを食べていた。
「結衣、行儀が悪いぞ」
「ごめんなさい、でも歩いてお腹が空いたから」
子供の足だと歩きはキツいよな。もう誰かと一緒の仕事は請けないほうがいいかもな。
疲れた結衣を肩車して歩くことにしたら、少しだけ元気が出たようで、結衣は景色を楽しんでいた。
「あのお花きれい! お家ができたら花壇に植えていい?」
「なんでも植えていいぞ。大きな花壇を作ってやるからな」
とにかく兄貴や義姉さんのことで寂しがらないように、結衣が喜ぶことをしたい。
今回の仕事で戦利品を手に入れたから、また一歩豪邸に近付いた。
「……叔父ちゃん、ありがとね」
「何がだ?」
結衣の声のトーンが違ってきたので、思わず聞き返す。
「お家がない人たちを見て思ったの……叔父ちゃんたちがお仕事してるから、結衣たちがお家に住めるって」
宿代にもバカにならないからな。
駆け出しの冒険者は毎日生きていくのも大変だろう。
オレたちは力があって正直助かったな。無ければどうなったか。
オレはともかく、結衣たちにひもじい思いはさせたくない。
「このご飯だってお金がないと食べられないんだよね……そしたら怖くなって……叔父ちゃんがお仕事をがんばってくれてるって思ったの……だからありがとね」
オレは戦うのは嫌いじゃないし、頑張ってるつもりはなかったんだけど、夢中になってる時の自分のことは解らないもんだな。
「結衣は何も心配するな。叔父ちゃんは最強になるからな」
「叔父ちゃんはもう最強だと思うよ?」
さすがにまだ最強を名乗るのは無理だな。少なくとも四竜将を危なげなく倒せるくらいじゃないと。
結衣を肩車したまま、オレたちはユアンの街に向かう。
盗賊を蹴散らしたので平穏な旅だ。商会員も黙ってるしな。
ようやくオレたちの護衛能力を信用したんだろうな。よかったよかった。
つつがなく街に到着したオレたちは、代官のアーノルドさんの所に顔を出す必要がある。
商会の人間は、担当の人に資材を渡してから、工事に取り掛かるようだ。
護衛の仕事は終わったので、商隊の責任者に達成証を貰って別れた。
最初の頃とは違って、罵声の代わりに悲鳴を上げていたけど、問題なく仕事が終わった。
オレはオレで、預かった資材や食料を渡さなければならないけど、普通の担当者ではなく、指輪のことを知っているアーノルドさんが担当してくれている。
握手を交わし、挨拶を済ますと資材や食料の話になった。
「ユート殿の他にも物資輸送の仕事を請け負う商会が増えてきたので、受け取りは2~3日後になります」
恐らく商人に指輪がバレないように、日をずらして搬入したいんだろう。余計な手間を掛けて申し訳ないけど、助かる。
他の場所にオレ専用の資材置き場を作るのも、警備の兵士が少ないから無理だろうし。
「その間は復興の手伝いをしておきます。あと目録を渡しておきますね」
「……はい、確かに受け取りました。ありがとうございます」
今回の物資の目録を渡す。
この目録に書かれた物が不足していたら、横領などが発覚する。
たからオレも、物資を受け取る時に確認しながら収納していくので、非常に時間が掛かる。
もう緊急事態ではないので、そのあたりのことは、しっかりしていた。
物資を渡すのが2~3日後になるのも、この確認作業に時間が掛かるからだ。
オレの場合は渡す時はアーノルドさん1人だけだが、確認作業については兵士と一緒にするらしい。
前に使っていた場所を使っていいそうなので、旅の疲れを癒すために向かう。
瓦礫なんかは片付けられて、チラホラと家や店などが建ち始めていた。
大工らしき人が身体強化したパワーで、次々と木材を組み立てていく。
レンガなんかで作る家は、積み木かよと言いたいくらいに素早く積み上げられていく。
「おもしろいね?」
「結衣にもオモチャかなんかを買ってやろうか?」
「結衣はオモチャで遊ぶほど子供じゃないもん!」
プンスカ怒る結衣をからかいながら、オレたちは割り当てられた家に急いだ。
しばらくぶりなので、ほんの少しだけホコリが溜まっていた。
レイラが気付いた瞬間に、猛烈な勢いで掃除を始めた。
勢いが凄いのに、ホコリが舞うようなこともなく、オレたちが手伝いをする隙さえない。
アリス先生が手伝いをするために、ホコリや汚れに近付こうとすると、先にピカピカにしてしまう。
「あれを見ると、戦闘でもレイラに敵わないんじゃないかって気がするわ!」
マリーナの言い分も解る光景だけど、レイラの魔力はオレの2倍くらいなので、オレの20倍くらいの魔力を持つマリーナには敵わないはずだ。
家事に特化した魔法でも使っているんだろう。たぶん。
「ニコニコ笑ってあの超人みたいな動きは、すげー迫力を感じて怖いぞ」
何やらアリス先生は、レイラに得体の知れない気迫を感じているようだ。
「結衣もできるかなぁ?」
「結衣ちゃんは真似しないでくれ!」
必死に止めてるあたり、よっぽど怖いんだな。
「なんか邪魔すると怒られそうなんだよ~」
マリーナの後ろに隠れて怯えているのが可愛いな。
叱られるのが嫌な子供みたいで。
「みなさま、終わりました~。どうぞお寛ぎください」
あっという間に終わったな。
とりあえず綺麗になったので、家具を出す。
結衣のベッドは大きいので部屋に置けなかったけど、テーブルやイスは出して、みんなで喉を潤した。
「少し落ち着いたけど、今後のことはどうする?」
「私は盗賊退治に行きたいけど」
アリス先生の質問に、真っ先に答えたのはマリーナだ。
「盗賊が多くて困ってるみたいだし、騎士として弱い人たちを害する盗賊は許せないわ!」
「マリーナは盗賊退治か~。アタシは盗賊退治はちょっとな~。魔法を使って復興の手伝いをしたい」
まだ人殺しは嫌なんだろう。当然なので自分のペースでいいと思う。
「オレがマリーナと一緒に盗賊退治に行きます。復興の邪魔だし金になるし」
「それじゃあ二手に別れて仕事しようか」
オレだけでアーノルドさんに情報を聞きに行き、みんなは料理をした。
手に入れた情報では、武装した騎士や兵士では行動しにくい峡谷に逃げ込む盗賊がいるらしい。
かなり統率が取れていて、何度も逃げられているそうだ。
貴族なんかの馬車も狙われていて、結構な人数が拐われているそうだ。
なんで貴族がそんな場所にいるのか聞いたら、同盟を組んでいる隣の国への使者らしい。
それがことごとく襲撃されて、毎回のように護衛も皆殺しにされているそうだ。
500人の護衛を付けたこともあったらしいけど、盗賊の死体は現場に残らないそうなので、盗賊の戦力も、ダメージを与えているのかすら判ってない。
それを食事の時に告げると、アリス先生も心配だから付いて行くと言い出した。
結局は押しに負けて、結衣とレイラ以外の最大戦力で盗賊退治に出かけることになった。




