護衛の仕事は大変だ
商人の護衛を引き受けたが、早くも後悔し始めた。
オレたちの年格好を見て、商会員の何人かが、子供だから心配だとバカにしてきたのだ。
「ちゃんと守れるんだろうな? 高い金を払って雇ってるのに子供が来るなんて」
雇ってるのはアンタじゃないだろ? なんで必要のないことを言うのか。
アンタが心配したところで契約は済んでるんだから、そっちの都合で文句があるなら、違約金を払うのは自分たちだと知らないのか?
アリス先生がムカッとした表情で我慢していたが、他の冒険者が職人に注意してくれた。
「ここにいる冒険者はすべて、必要な技能の基準をクリアしている。年齢で甘く見るなんて無知を宣伝するような物だな」
「なんだと! 俺たちの商会に雇われてるくせに文句があるのか!」
こいつはアホなんだろうか? オレたちは別にどうしてもこの仕事が欲しいわけじゃない。
他にも仕事はいっぱいあるし、どちらかと言えば割のよくない仕事だし。
「我々冒険者は雇われてる立場だが、勘違いしないで貰おう。ギルドにすれば取引相手の1つでしかない。ギルド員の利益にならない相手は容赦なく取引を切る。次からは自前で護衛を用意するといい」
「なっ! それは……」
容赦のない一言に、口をパクパクさせて口ごもる商会員。
当たり前のことだぞ。お互いに利益を追求する組織、地球で言うなら会社だ。
利益にならない会社と取引を打ち切るのは、経営者としては当然の措置だろ。
ギルドが守るのは冒険者の利益であって、商会の利益じゃない。
オレたちは依頼をこなす。商人は必要な仕事を頼む。
それだけの関係なのに、上から目線で何を言ってるんだ?
お互いに必要な物を用意して提供するという契約だ。
取引相手としては対等だが、どちらかと言えば、一商会よりも冒険者ギルドのほうが立場が上なので容赦はいらない。
「冒険者ギルドはそんなに甘い組織ではないぞ? 最優先されるのはギルドと冒険者全体の利益だ。勘違いする者には下手に出ることはない!」
ギルドの理念を知らないで契約してたのかね?
護衛がなければ商会が潰れるかもしれない損害を負うかもしれないのにバカな商会だ。
商会員の教育をしっかりせずに、目先の利益ばかり優先してるんだろうな。
ギルドは理念を頑なに守るからこそ、依頼者や冒険者の信頼を得ているのに。
だから国からも仕事が来るし、腐るほど仕事があって人手不足なのに。
それでも復興の足しになる仕事を優先したから、こいつらの仕事を請けたんだ。
「この件はギルドに報告させて貰う。ギルドの判断基準に納得がいかずに暴言を吐く商会だと」
「待ってくれ! そんなことをされたら……」
余計なトラブルを避けるために、今後もこの商会からの仕事は受け付けないだろうな。
トラブルが続くと、冒険者ギルドの信頼を損ない、依頼者に不信感を持たれかねない。
だから有形無形の利益に反することは、ギルドは絶対に許さない。
「報告はギルド員の義務だ。他の冒険者が被害に遭わないように報告する必要がある。それと、仕事は最後まで責任持ってするから安心してくれ。冒険者ギルドは請けた仕事に手は抜かない」
さすがに何も言えなくなったのか、商会員は黙り込んだ。
こいつらはクビかもな。商会長もギルドに頭を下げるはめになるだろ。
今回の責任者のダニエルさんも叱責されて降格処分だろうな。最悪クビだけど。
文句を言っていた商会員は、自分たちの失態を上司に報告することもなく、愚かにも誤魔化せると思っているのかね?
「ありがとうございます。お蔭で助かりました。名乗るのが遅れましたが、ユートです」
間に入ってくれた冒険者のおじさんに礼を言う。
「フレッドだ。気にしないでくれ。ギルドの理念は君も理解しているだろう? 規約に則った行動だ」
それは知ってるけど、口先だけの理念を掲げて、いざという時に社員のために何もできない組織なんて珍しくないからな。
冒険者ギルドの好きな所だな。ギルドマスターも秘密を守ってくれたし。
だからフレッドさんに限らず、冒険者ギルドの人間は誇りを持って仕事ができるんだろう。
ギルドの後ろ楯があるお蔭で、こういった商人や貴族とかにも、指輪を売ってくれとか言われたことはない。
それからしばらくは大きなトラブルもなく、順調にユアンの街への行程を進んで行った。
それでも小さなトラブルはあり、今回の責任者のダニエルさんが、襲撃がないなら金の無駄だとブツブツ文句を言っていた。
こちらに聞こえるように言っていたが、面と向かって文句を言われたわけじゃないから、冒険者はみんなスルーして仕事に専念した。
護衛は抑止力の意味もあるんだけど、そんなことも解らないんだろうか?
それとも理解していながら、利益が下がるのが気に入らないから文句言ってるのか?
「やっぱり飛行円盤で移動するのと違って、凄く時間が掛かるな」
「アリス先生は体力的にキツいんじゃないですか?」
「結衣ちゃんだって文句も言わないで歩いてるんだ。アタシが弱音をはくわけにはいかないって~」
夜営の最中に見張りを順番にしてるけど、アリス先生は寝ててもいいんだけどな。
オレだけを働かせられないと言って、見張りに付き合ってくれている。
これが普通の旅なんだろうけど、便利な煌力製品に慣れたオレたちにはつらい。
これだけの集団を守るだけの結界を張るには、たぶん40個以上は必要だろう。
10億シリンは確実に必要だし、1晩で7万シリン以上の魔石が装置の数だけ必要になる。
とてもじゃないけど、1週間以上掛かる旅に使えないと思うので、見張りは必須だ。
「もうすぐ交代なんで頑張ってください」
「わかった……ふあぁぁぁ」
虫の声だけしか聞こえない中で、アリス先生のアクビは大きく聞こえるな。
オレは子供の頃に夜の森で修行させられたから、起きてるのは馴れてるけど。
そんなふうにつらい旅を続けて、4分の3程度の距離に差し掛かった頃に、オレの索敵で100人強の武装集団が待ち伏せをしているのを感じ取った。
「フレッドさん、1km先に待ち伏せです」
「来たか。やはり盗賊が増えてるな」
フレッドさんが他の冒険者に偵察を指示した。
オレの得意なことは事前に話しているので、すぐに行動に移す。
どうやら、偵察が得意なパーティーが向かうことになったようだ。
女性のパーティーで戦闘はそこそこだが、気配を消すのは上手い。
後ろから声を掛けられた時に、マリーナが気付かないでビックリしていた。
「1km先だと!? なんでそんなことが分かる! 嘘をついて仕事をした言い訳にする気か!?」
フレッドさんが商隊の責任者であるダニエルさんに、待ち伏せの報告をしていたら、ダニエルさんが騒ぎ出した。
もうこいつはダニエルでいいだろう。消えていきそうな無礼な奴に、礼儀の必要を感じないし。
理由を聞くだけでいいのに、余計な言葉が出るあたり、こいつの人間性は解る。
こいつは嘘をついて自分の失態を誤魔化したり、功績を大袈裟に伝えるタイプなんだろう。
自分がそうだから、そういうふうに他人も企むと思い込む。下衆の勘繰りというやつだな。
「いま調べているところです。文句はあとにしてください」
フレッドさんが宥めるが、ダニエルのアホはまだ騒いでいる。
上司の対応に力を得たのか、初日に文句を言っていたアホたちも騒ぎ始める。
上司がこの対応だから、自分たちがしても大丈夫だと思ったんだろうか?
「なあ勇人。あいつら殴っていいか?」
「先生が殴るならオレが殴りますよ?」
「ちゃんと我慢はしてるだろ~、大人なんだから仕事中に暴れたりしないって~、冗談だよ」
オレは6割くらい本気だけど。
「フレッドさーん! いたよ! 100人くらいいた!」
「よし! 先に気付けたのは助かったな。その数がいきなり仕掛けてきたら被害はデカかった。戦闘準備をしてくれ!」
報告を聞いたフレッドさんが、冒険者たちに指示を出す。
オレの戦闘能力を知っているので、オレが先制攻撃をすることに決まった。
よ~し、盗賊と一緒に商会のアホたちも黙らせてやるからな!




