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命の危険を感じたので、エリクサーが欲しい

「突然ですが体の調子が悪いんです」


 オレはでかいベッドの上で、横に寝ていた女性陣に告げる。


「風邪でも引いたのか? アタシが看病してやるからな」


 なんでちょっと嬉しそうなんだ。


「初の看病だ。アタシの家は誰も風邪とか引いたことないからな~。男の看病とかちょっと憧れてたんだ」


 ひょっとして家族全員バカなんじゃないだろうな? バカでも風邪を引くだろうから頑丈な一家なんだろうけど。


「いや、風邪じゃありませんよ? なんか夜営中に食べたメシがオレにダメージを与えたみたいで、あれから調子が悪くって」


 なんか体がダルいんだよ。力が入りにくくて。


「アタシたちの料理のせいか!」


「アリス姉様が味を知らない調味料を使うからよ!」


「結衣があの調味料を使いすぎたから毒になったのかも……」


 みんなして青い顔をしているが、そこまで酷い状態じゃない。


「一応、私のほうで扱いが危険な食材は()けておいたんですが~」


 パジャマ姿のレイラが、頬に手を当てて首を傾げて呟いた。


「姉様がいい匂いだって入れたハーブが原因じゃない? レイラがユイちゃんを止めてた時に、お肉が臭いからっていっぱい塗り込んでたし」


 結衣というと……入れすぎると毒になるやつか。


「そういえば、見掛けた時に食べられるって言われて採取したんだけど、まさかアタシの料理下手が原因だなんて……」


「別に大した後遺症じゃないですし、そこまで気にしなくても大丈夫」


 味のほうがヤバかったからな。


「このくらいなら、寝て起きれば回復しますよ。煌力を纏うと調子がよくなるし、回復効果もあると思います」


 煌力は神の力だから、それくらいの効果はあってもおかしくない。


「ほんとにごめんな~、勇人。アタシはもっと料理を練習するから」


「気にしないで下さい、本当に大丈夫ですから。それでなんですけど、この程度でわざわざ伝えたのは、病気や怪我をした時のことを改めて話し合ったほうがいいと思って」


 その時になって慌てるのはバカだ。

 もっと早く考えておくべきだった。

 オレもまさかメシでこうなるとは思わなかったから、油断大敵だな。

 地球とこの世界の食材の違いが、こんな事態を招くとは。

 よく考えたら地球の食材だって、摂りすぎると良くない物もある。


「そうだな~。故郷と同じに考えてると危ないかもな~」


「それで、いろんな病気や怪我に効く薬を常備しておきたいなと」


 魔法の薬とかならあるだろう。高いと思うけど。


「レイラお姉ちゃんなら知ってるよ! 結衣にいろんなことを教えてくれるから!」


「どうなんだっ、レイラ?!」


 自分のせいだと思っているのか、アリス先生が真剣な顔で詰め寄る。


「1番凄いお薬はエリクサーですが……材料が手に入らないと思います~」


 定番のエリクサーか。口の動きから別の単語を言っているようだけど、エリクサーに翻訳されたらしい。

 なら効果も地球の話と似たような効果なんだろう。賢者の石が必要とかか?


「エリクサーの材料は確か~……上位のドラゴンの生き血と~、10年に1度だけ咲くレクシオンの花の蜜を加工したもの、それと~……精霊がたくさん住む泉の水を、神官さまが3日掛けて聖水にしたものだったかと~」


 無理だな。

 上位のドラゴンなんて、四竜将が倒したとかいう話しか聞かない。

 倒すだけでも人類最強クラスの力が必要なのに、殺さずに血を抜くなんてどうしろってんだ。


「ドラゴンを大人しくさせるのはキツいだろ?」


「はい~、四竜将の方たちは1人で倒せるようですけど……それでも死にかけたそうですから~」


 アリス先生が可愛いネグリジェの裾を弄りながら、レイラを見上げて疑問を口にした。


「エリクサーの作り方ってあってるのか?」


 結衣の乱れた髪を直してあげながらレイラが答える。


「なんでも、人間に友好的なドラゴンが昔は居たそうなので~。今は寿命で亡くなったそうですよ? 140年くらい前だったかと~」


「おじいちゃんだったんだ~!」


「はい~、お嬢さま。優しい子供が大好きだったようで、病気の子供のために血を分けてくれたそうですよ?」


 今はいないんじゃな~。


「ドラゴンの生き血もそうだけど、レクシオンの花? っていうのも手に入らないんじゃないの?」


 マリーナの言う通りだよな。

 10年に1度しか咲かないんじゃな~。


「レクシオンの花の蜜は保存が効くので~、2年くらいですけどね。それに咲く時期も場所によって違いますから~」


 なんでも、咲いてから10年後に次の花が咲くので、Aの場所で9年前の夏に咲いたら、Aで咲くのは1年後の夏になる。

 Bの場所で7年前の冬に咲いたら、Bでは3年後の冬に咲くことになる不思議な花らしい。


「ですからたまに、ほんとにたまに売っているようですよ~。咲く場所は全て、凄く高い山らしいですけど」


 5000m以上の山でしか咲かないらしい。

 しかも数が少ないから、全部採取して全滅させたら死罪になるらしいので、採取していいのは5本まで。

 保存が効く2年以内に、5本以上売った場合は、取り調べを受けて、まず捕まる。

 複数の咲いている場所に行った記録がない限りは、その時点で有罪になり死刑だ。

 貴重な素材なので管理されているらしく、その場所でいつ咲くかも記録されているし、入山にも手続きが必要だ。


 厳しく管理されているため、市場(しじょう)に出回ることはほぼなく、王族や貴族の御用商人が入手して売るか献上する。

 欲しければ自分で採りに行くしか、一般人が手に入れる方法はないらしい。

 それに、高い山には巨大な魔物が棲んでいる可能性が高いそうなので、よっぽどの手練れでないと死にに行くだけだろう。


 ひょっとしたら、レクシオンの花は煌力で育つとかか?

 煌力の性質としては、神の力だけあって上のほうにいっぱいあるようだし。

 まあ天から降ってきてるみたいだし、高い山のほうが吸収しやすいんだろう。

 煌力収集施設が地上に出来たから、吸収しにくくなって高い山にしかないのかもしれないけど。


「聖水は手に入るのか? 作るの大変そうだけど」


 面倒なことが苦手なアリス先生は、早くも諦めの表情が浮かんでいる。


「聖水のほうは教会に注文すれば買えますよ~? 1瓶で120万シリンもしますけど」


 高いな。少なくともエリクサーを1瓶作るには、120万シリンは必要なようだ。


「そういえば、ドラゴンの生き血じゃないとダメなのは何でだ?」


 説明をしなかったから、レイラも知らないんじゃないかと思うが、一応聞いておく。


「理由は解明されていません。そのドラゴンが生き血でないとダメだと教えてくれたそうですから~」


 ドラゴンが死ぬのを嫌がってなんてことはないだろう。

 ドラゴンが普通の人間を恐れる必要はないし、何かしらの理由があるはず。


 …………やっぱり煌力しか思い付かないな。

 死んだら煌力の供給が途絶えてしまうだろうし、煌力が流れている状態で血を抜く必要があるんだろう。

 大きな生物は煌力で生きているみたいだし、酸素みたいに消費されてる可能性が高い。


 ドラゴンの生き血でないとダメなのも、ドラゴンが1番、煌力の吸収率がいいのかもしれない。

 だから最強の生物と呼ばれてるんだろうな。だとしたら、オレが煌力を目一杯集めたら、オレの血でも代用できるか?

 いや無理だな。オレは煌力が無くても生きていけるし、煌力が血に流れてるような感じもしない。


 意識的に煌力を体中(からだじゅう)に流したら、今より多くの煌力を体に留めておけるんじゃ?

 ひょんなことからパワーアップの糸口が見えたな。やっぱり知識は大事だな。

 知識は天に至る翼であると、シェイクスピアも言っているしな。偉人の言葉を実感するよ。


「エリクサーを手に入れるのは今は無理だな」


「はい~。ですから万能薬になさったらいかがでしょう? 1つ2000万シリンはしますけど、大抵の毒や病気に効くそうですから~」


 万能薬も作れる錬金術士が少ないから稀少で高いけど、あまり買う人はいないから普通に買えるらしい。

 普通は病気に合わせた薬を買うので、よっぽどの病気になった金持ちしか買わないだろうな。

 オレは念のために持っておきたいので、全員分買ってから、それぞれの指輪に入れておこう。

 また屋敷と結婚が遠のくけど、命には代えられないので仕方がないな。

 いつになったらプロポーズできるんだろ?

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