素材収集
街から徒歩で5日の距離にある森も、飛行円盤に乗れば僅か数時間で到着する。
冒険者ギルドでも情報のやり取りなんかに利用されているので、数は少ないものの毎日のように誰かが飛んでいる。
農村では珍しいので騒がれるが、大きな街では珍しくない。
お蔭で使いたい時に堂々と乗れるので、非常に便利な移動手段だ。
「凄く暗い森だな~、アタシは大人だから怖くないけど、結衣ちゃんは怖いだろうから手を繋ごう!」
内心では怯えているのに、頑なに認めようとしないアリス先生。
「結衣は叔父ちゃんにくっつくから大丈夫だよ?」
子供の結衣に強がりを言うと真に受けてしまうのだ。
「っ…………勇人は戦いがあるからダメだ! アタシが1番の大人だから、結衣ちゃんはアタシが守るんだ!」
「私が姉様の手を繋ごっか? 怖くないけど」
「アタシだって怖くないぞ! ただ結衣ちゃんの面倒を見たいだけだからな!?」
「ユイお嬢さまは私が見ますけど~」
バレてるのでどんどん追い込まれていくアリス先生。
目を泳がせながら、必死で言い訳を探しているようだけど、思い付かない。
「じゃ、じゃあ仕方ないな! 怖くないアタシは結衣ちゃんの面倒を見るのを譲ってやるぞ!」
結局アリス先生はビクビクしながら森を進むことになった。
枝を踏む音や、木の葉が揺れる音がするたびに、ビクッとなるアリス先生を不憫に思ったのか、レイラが結衣の反対側の手を掴むように促した。
プライドが傷付かないように配慮していたので、チョロ……んんっ、素直さに定評のあるアリス先生も上機嫌で提案に乗った。
「まっ、アタシみたいな大人に頼るのは当然だな~」
「姉様……可愛いけど大人っぽさはないわよ……」
機嫌を損ねないようにボソッと呟く。
そんなマリーナの言葉にまったく気付かず、跳ねるような足取りで歩いている。
結衣もつられてスキップをしながら歌っている。
魔物に気付かれそうだけど、どうせ戦うからいいかと思い、好きにさせておく。
「フフフッ……お2人とも可愛いですね~」
ニコニコ見守っているレイラの顔は、メイドというより母親みたいだ。
アリス先生のほうが、9歳も年上なのに世の無情を感じる。
「あっ、こっちに近付く角のある猪みたいな反応があるから気を付けてくれ。あっちの方から、あと1分くらいで来る。かなりの速度だ」
「結衣ちゃんとレイラはアタシと一緒に木の上に避難しよう! 魔法で援護するから」
結衣は自分で身体強化をして登ったけど、レイラの魔力はオレの倍くらいなので、大した強化は出来ず、少し手間取った。
アリス先生がお尻を押して、登るのを手伝ってあげて、ようやく登れた頃には、魔物が茂みから飛び出した。
「やあっ!」
先頭の1匹を斬り捨てたマリーナは、2匹目が飛び出しても慌てずに2匹目の首を落とした。
特長からしてソードボアだな。額から生えた角が剣のように斬れると本に載ってた。
こちらに突進して首を振ったソードボアをジャンプして躱すと、後ろにあった大きな木が斬り倒された。
メキメキと悲鳴を上げる大木が、轟音を立てて土煙を上げた。
「凄い切れ味だな」
「旦那様、私が倒すから見ててね!」
構えて攻撃しようとしたオレを制止して、マリーナがその剣で首を落としていく。
コイツらは上は見えていないようで、執拗にオレとマリーナだけを狙ってくる。
「はあっ!」
首を振るソードボアの剣を、根元から斬り飛ばして、逆手に握り直した剣を両手で脳に突き刺す。
続いて突進してきたソードボアを、すれ違い様に切り裂いた。
最後のソードボアが背後から突っ込んだので援護しようとしたけど、可愛いらしい声を聞いてやめた。
「おそくなれ~!」
気の抜けるような可愛い声に脱力したわけではないだろうが、ソードボアのスピードが半分以下になった。
少し焦ったマリーナだったが、動きが鈍くなったので、落ち着いて避けることができた。
今度はマリーナが背後から斬り掛かる。のろくなったソードボアには躱すことが出来るはずもなく、一撃で絶命させられた。
「えへへ、旦那様、どうだった?」
褒めて貰えるのを期待してるのがバレバレな表情で、マリーナが駆け寄ってきた。
「相変わらず剣の腕はいいな。あとは複数の敵を相手にする時は、背後を取られないようにな」
頭を撫でながら注意もしておく。
「うっ……結衣ちゃん、ありがと!」
「結衣も役に立つでしょ?」
結衣の魔法は確かに便利なんだけど、9歳の子供を戦いに駆り出すのはちょっとな。
便利な魔法だけど戦闘能力自体は低いから、あのテロリスト集団が相手だと危険すぎる。
「援護攻撃する必要もなかったな~。アタシの出番が」
「スカートがひらひらして、男性の視線を釘付けですね~」
2人とも戦いに関しては、あまり恐怖心はないみたいだな。
「スカートは短いほうが動きやすいもの! 下にショートパンツを穿いてるから大丈夫よ!」
赤い顔でチラチラオレを見ながら、レイラに向けて反論をした。
スカート以外は穿きたくないんだな。ショートパンツは空を飛ぶときに必要だと買ったやつだろう。
長いスカートのレイラ以外は、みんなショートパンツを穿いて、パンチラ対策をしているらしい。
ちょっと残念だけど、必要な物なので仕方ないと思う。物議を醸すのでこの件は口に出さないが。女の子の好きにすればいいと思うとだけ言っておく。
オレたちは目的地まで索敵をしながら歩いて、それ以降は魔物を避けることにした。
弱い魔物じゃオレの修行にもならないから、時間の無駄になる。
かといって、アリス先生たちが訓練するには強い魔物が多い森なので、目的を果たして別の場所で訓練したほうがいい。
魔物を避けて進むと、1時間もしない内に長いツタの反応にたどり着いた。
10本以上のツタが蠢いているけど、オレたちの方向に向いてるのは3本だけだ。
「あれを切って、持って帰ればいいのか?」
「違いますよ。根元から持って帰らないとダメなんで、オレが地面の下から引きずり出しますから、先生たちで本体を仕留めて下さい。ツタは傷付けないで下さいよ」
「わかった。燃やしたりしないように、風か水の魔法で攻撃するよ」
「私は姉様がツタに攻撃されないように、抱っこして逃げ回るわ!」
「抱っこか~…………触手プレイになるのはイヤだもんな~」
なにやらアリス先生がショックを受けているけど、自分でも避けられないのが判っているので、文句は言わなかった。
「話が纏まったところで、オレは行きますね」
「ユートさま~、お気をつけて……」
「叔父ちゃんは無敵だよね!」
レイラに抱っこされた結衣が、オレを信じてくれているが、無敵ではない。誰にも負けたくはないけど。
煌力を集めて空を飛ぶと、すぐに木々を抜けてデスアイヴィーのツタが見える。
オレの煌力に反応したのか、全てのツタがオレに向かって伸びてきた。
その内の1本を掴むと、ほんの少しずつだけど煌力が奪われていった。
「やっぱり煌力を吸収してるな。気合いを入れないと墜落しそうだ」
他のツタも何本かはオレの体に巻き付き、煌力を吸収していった。
オレは力を入れて、更に高く飛ぶ。ツタがピンと張り、徐々に反応が表れ始めた。
もう少しで引きずり出せるぞ。ツタの力が思った以上に強いけど、時間の問題だ。
オレの煌力が尽きる前に、こいつを引きずり出さないと負けるから、フルパワーだ。
1分以上の間、ツタと力比べをしていたが、ついにはオレの体が20mくらい上昇した。
今の高度は100m近いだろう。反応を確かめると、今まで無かった本体らしき反応がある。
成功したようなので、あとはアリス先生とマリーナが仕留めてくれるまで、この状態を維持だ。
また地面に潜られたら、アリス先生たちが攻撃できず、オレは煌力を奪われて墜落死だ。頑張って下さいよ、先生。




