修行ついでに仕事します
なんとかテロリストを退けて、オレたちの平穏が戻ったけど、工場の被害はかなり大きい。
オレの攻撃で鋼鉄の壁や床がメチャクチャだし、テロリストが逃げる時の爆発で、兵士が数十人殺されていた。
「だが君のお蔭で全滅は免れた。奴等の顔も判明したしな」
本人も怪我をしているのに、工場長のオジサンがオレたちを気遣ってか、そう言ってくれた。
仲間が何百人も殺されて、オレ以上に悔しいだろうけど、大人だからなのか、軍属だからなのか、その表情からは判らなかった。
「私も聞いたことがあるけど、【破滅の手】の二つ名持ちが現れたら、たいてい皆殺しにされてるらしいわ!」
貴族の娘だからか詳しいな。
顔は判らないのに、名前は知ってるのは犯行声明でも出してるのか? 疑問に思ったオレは、マリーナに尋ねてみた。
「顔も見るヒマもなく倒された生き残りの証言で知られたらしいんだけど……まとめて吹き飛ばされた人が、瓦礫の下で声を聞いただけだから、名前くらいしか判らなかったの」
基本的に皆殺しのようだけど、1人1人死んだか確かめるほどではないみたいだな。
「マリーナ君の言う通りだ。少なくとも、顔を見れるくらい近くで戦った者は全員死んでいる。君が初めてだよ」
本当にヤバい集団だな。
アリス先生たちに反対されても、戦力強化は絶対にしよう。
とにかく気配に敏感な斥候タイプがいれば、不意討ちが防げる可能性が上がる。
今回は索敵したから見付けられたけど、常日頃から索敵してるわけじゃない。
気付く前に攻撃されていたら、相当に危なかったと思う。
負ける気はないけど、オレたちの誰かが大怪我していた可能性はある。
「それでなんだが、頼みたい仕事があるんだ。冒険者ギルドに依頼するから、できれば君に請けて貰いたい」
「どんな仕事ですか?」
「ちょっと待った! テロリスト退治とかの危険な仕事はダメだぞ?!」
軽い気持ちで尋ねたオレに、アリス先生のストップが掛かった。
「大丈夫、それは我々軍人の仕事だ。依頼するにしても、どこにいるか全く判らない相手の討伐なんて、冒険者ギルドが請けないからね」
冒険者ギルドに限らず、ギルドは所属する人間の、延いてはその仕事全体の利益を守るために存在する。
冒険者が山賊と変わらない乱暴者だったり、身の丈に合わない仕事を受けて失敗すれば、冒険者自体の信用に関わる。
そうなると、冒険者に仕事を頼もうとか、冒険者ギルドや冒険者が街に来るのを嫌がられかねない。
それでは仕事として成り立たないし、冒険者という身分自体が消滅してしまう。
冒険者ギルドは利益が出ないと、組織を維持できない。
だからこそ、冒険者ギルドでは規約がしっかり有るし、それを破れば除名や逮捕なども有り得る。
冒険者同士の喧嘩なんかも止めるし、ギルドの外で喧嘩した場合は、規模にもよるが普通に犯罪として兵士に突き出されることも有る。
ギルドは超法規的な組織ではなく、あくまで税金を払って国に属する会社なのだ。法には従わなければならない。
「それなら安心だ。勇人が強いからって、危ないことはさせたくない」
嬉しいような、もっと信じて安心して欲しいような複雑な気分だ。
「旦那様でも2人相手だと心配だもんね」
「それほどの相手なんですね~、ユートさまたちが無事で安心しました~」
レイラのノンビリした口調を聞くとホッとするな。
結衣を避難させた時の焦った表情は、なるべく見たくないからな。
「叔父ちゃん、お仕事なの? 結衣も一緒に行ってもいい?」
「まだ請けるかは決まってないけど、あんな物騒なのが近くをうろついてるかもしれないから、オレから離れちゃダメだぞ? レイラたちも1人で行動しないようにしないと」
「うんっ!」
何を勘違いしたのか、結衣がぴったりと抱き付いてきた。
常にくっついてろという事ではないんだけど、オレを見上げる顔が嬉しそうなのでいいか。
「あらあら~、では私も怖いので離れませんね~」
「私は怖くないけど……未来の妻だから権利があるはずよ!」
悪ふざけで抱き付いてきたレイラに嫉妬したのか、マリーナも抱き付いてきた。
「こらっ、仕事の話の最中だぞ! あと人前ではしたないぞ!」
アリス先生に言われて人前だと思い出したのか、マリーナは赤くなって離れた。
レイラのほうは悪ふざけが過ぎたと照れた顔で、軽くペロッと舌を出して離れた。テヘペロを初めて見たよ。
「別に気にしなくてもいいよ。私くらいの年齢になると、若者の恋愛は微笑ましいからね」
仲人とかをしたがる、オバちゃんみたいな表情だな。
人の上に立っているだけあって面倒見がよさそうだし、部下の仲人を日常的にしてるのか?
「若者をからかうのはここまでにして、仕事の話なんだけどね、空中戦艦の材料の調達なんだよ。試してみたい素材があってね」
話を纏めると、戦艦の心臓部から煌力を各部に伝達するケーブルが欲しいそうだ。
既存の家庭に送るケーブルだと、空中戦艦を浮かせるだけの煌力に耐えられないそうだ。
ミスリルなんかを使うと材料が集まりにくいし、かなり高くなってしまう。
そこで煌力研究所から報告があり、煌力で生きている可能性のある、大きな魔物の素材を使うことにしたらしい。
あの所長、仕事は早かったんだな。ブツブツ言いながらも、報告はしてたようだ。
可能性という言い方から、オレの情報を鵜呑みにしないで検証するみたいだし。
目を付けた魔物は、デスアイヴィーという植物の魔物だ。
本体は土の下に居るそうだが、地面から突き出されたツタを利用して捕食すると思われていた。
ブラッドアイヴィーという下位の魔物と同じように、ツタで魔力や血を吸収しているのだと思われていたが、煌力を吸収しているんじゃないかと考えたそうだ。
大きさは本体でも5~6mあり、ツタを含めると60mくらいになるらしい。
自分でも動けるけど、基本的にはツタを伸ばして捕食するので、かなり長いツタだ。
獲物がいなかったり、ツタが届かない距離に獲物を関知すると動くそうだ。
強い魔物だそうなので、修行を兼ねて仕事をするのに丁度いい相手だ。
金が入らない修行より、金が入る修行をしたほうが得だしな。
「わかりました。冒険者ギルドのほうに頼んで下さい。オレが請けようと思います」
アリス先生を見ると、頷いてくれたので請けることにした。
報酬の話もしてないが、冒険者ギルドは不当な報酬の仕事を請けたりはしないので、報酬の話はする必要がない。
「報酬を値切る気はないけれど、聞いておかなくていいのかい? 貴重な品の相場は有って無いような物だよ?」
親切なオジサンだ。
「構いません。冒険者ギルドはギルド員の利益を守ってくれると信じてるので。それに、仮に安かったとしても請けるつもりですし」
「相場以上は出すが、安くても請けるのは何故だね?」
「空中戦艦が飛ぶところを結衣たちに見せたいんで、必要な材料が有ったら積極的に協力しますよ」
親のことで結衣が寂しがらないように、できるだけの事はしてあげたい。
「そうか……完成したらお披露目が有るはずだよ。でも君なら陛下にお願いすれば、乗せて貰えるかもしれないよ」
もっと手柄を立てれば大丈夫かもな。
「空中戦艦を完成させる手伝いでも十分な手柄になるし、今回のテロリストの件も陛下に報告しておくからね」
なんにせよ修行になりそうな相手とは、積極的に戦っていこう。
狙われてる以上は、今以上の戦力は必要だ。アリス先生たちにも修行を頑張って貰わないと不安だ。
結衣とレイラの護衛や戦力も雇いたいし、傭兵でも雇おうかな。
オレたちは、冒険者ギルドが正式に手続きを終えるまで、煌力や魔力の使い方を練習して過ごした。




