機煌都市マキナ
次の日もオレたちは子供たちと遊んでいた。
結衣がもっと友達と遊びたいと、珍しくワガママを言ったからだ。
そのため、オレたちは村に2~3日滞在することにした。
今日は村で飼っている馬に乗る。オレとマリーナとレイラが馬に乗れるので、順番に子供たちを乗せることになった。
後ろだと景色が見えにくいので、前に乗せてあげる。
「高~い!」
「いつもより遠くまで見えるよ?」
「ちょっと怖いけど面白いね!」
結衣から乗せてやろうとしたけど、小さい子から乗せてと言い出したので、年齢順にした。
怖がらせてもなんなので、のんびり馬を歩かせる。
馬は疾走させたほうが気持ちいいんだけど、小さい子なので仕方ない。
4人目で結衣の順番がきた。恐る恐る馬に近付いてきた結衣を引き上げる。
「叔父ちゃん、絶対に離さないでね?」
「大丈夫だ。仮に落っこたとしても、オレのほうが速いからな」
「落っこちたくないもん!」
そりゃそうだな。助かるからといって、わざわざ怖い思いをしたい人間は少ないだろう。
ゾンビに噛まれてもゾンビになりませんよ、と言われても、ゾンビ映画の世界には入りたくない。
結衣が馴れるまでは歩き、馴れてきたら軽く走らせてみた。
揺れる馬上で景色を眺める余裕がないのか、結衣はオレの腕にしがみついて目を瞑っていた。
「もう少し速度を落とすぞ。怖くないから見てみろ」
馬の速度を落とすと、結衣は目を開けて前を見た。
少し高めの丘があり、そこに向かってゆっくりと走らせた。
まるで空に駆け上がるような光景に、結衣は恐怖も忘れて声を上げた。
「叔父ちゃ~ん! 空を飛ぶのとは違うね!」
飛行円盤はフワッと真上に上昇するからな。馬で丘を駆け上がると、ジェットコースターみたいなワクワク感がある。
「みんなが見えるよ! 手を振ってる! レイラお姉ちゃんのお家も見える!」
丘を登りきると、視界いっぱいに広大な草原が飛び込んでくる。
村の男たちは畑に出たり、羊の世話をしたり、忙しく働いている。
昼飯を食べたら夕方になるまで働いて、暗くなったら眠る生活だ。
村の女性たちも、10代半ばにもなると結婚している人も多い。
昼飯の下ごしらえをしたり、井戸に1日分の水を汲みに行ったり洗濯をしたりと、1日が家事で終わる。
日本の生活が恵まれているのを実感する生活を、彼らは文句も言えずに何十年とすることになる。
生まれで差が付きすぎる世界で、オレは不自由なく暮らせることに、神様に感謝した。
それから5日間も村に滞在してしまった。
ロザーヌさんも娘と話が尽きないし、結衣も子供たちも遊びたい。
しかし目的があるのと、いつまでもお世話になるのは悪いから、先伸ばしていた出発を決めた。
結衣はまだ遊びたがっていたが、駄々を捏ねたりせずに納得してくれた。
「ユイ姉ちゃん、また来いよ!」
「もっと遊びたいな~」
「僕も兄ちゃんみたいに冒険者になるよ」
「また肩車してね?」
1人1人まとわりついて来る子供たちに、別れの挨拶を済ませると、子供の親たちが野菜やら肉やらを持たせてくれた。
「レイラ、しっかりお仕えするのよ?」
「もう生き甲斐みたいなものですから~。嫌と言われてもお世話しますよ~」
可愛いメイドに世話をされて嫌がる人は、我が家には存在しないのだ。
アリス先生もメイド好きになったし、オレも旨い飯が食えるので幸せだ。
「痛い痛い、髪を引っ張らないで~! あとお尻は旦那様の物よ!」
マリーナは抱っこしていた1歳児に、お別れを言った途端にツインテールを引っ張られていた。
絵を描くのに夢中なライラちゃんは、マリーナのウエストやお尻の形を確かめて、スケッチしている。
何でも女体が上手く表現できないと、ここ数日の間ずっと悩んでいた。
女体の凹凸が表現できず、マリーナの色っぽい腰からお尻のラインが難しいそうだ。
触って確かめるといいよと言ってしまった、オレの責任な気がする。
「ユート様、娘のことをよろしくお願いします」
「任せてください。楽しく仕事ができるように気をつけますから」
何度も何度も娘の心配をする姿を見て、結衣が羨ましそうにしていると、ロザーヌさんは結衣を抱き締めてオデコにキスをした。
スカートが汚れるのも気にせず、地面に膝を突いて目線を合わせる。
結衣の頬に手を当てて涙を拭うと、胸に引き寄せて、泣き止むまで離さなかった。
オレたちは名残惜しさを感じながらも、ドーレ村をあとにした。
機煌都市マキナに向かって出発してから、しばらくは元気がなかった結衣も、レイラが昼に作ったお菓子で元気になった。
また遊びに行きたいと言わないのは、また行くことは、結衣の中で決定しているからだろう。
オレもまた連れて行くつもりなので、それを理解しているからかもしれない。
昼下がりに少しだけ昼寝をしたオレたちは、急ぐために飛行円盤の上で夕飯を食べる。
米は色がアレなのでキツいけど、結衣のリクエストでレイラがオニギリを作ってくれた。
10年以上も慣れ親しんだ米が恋しいけど、味は普通のオニギリだったので、オレも結衣もよく食べた。
マリーナは何これ? という顔をしていたが、食べてみたら気に入ったようだ。
1人で旅をしていた時は、携帯食糧を食べて味に顔をしかめていたそうなので、オニギリを見て思い出したらしい。
しかし、予想したマズい味ではなく、美味しくて手軽だったので、レイラにオニギリのストックを頼んだ。
そんなふうに急いだ結果、次の日の夜にはマキナに近付いていた。
薄暗い中で一際明るい場所がある。煌力製品の明かりが当たり前のように街を照らしていた。
あの街では、誰もが煌力製品を使っているらしいので、かなり安く買えるんだろうな。
便利な製品があれば、なるべく全部買いたい。快適な家にするためにも、いろいろ見て回らないと。
明かりを頼りに道を急ぐ。到着する頃には完全に真っ暗だったけど、街の明かりでよく見える。
村だとこの時間は、燃料費の節約のために寝てる時間だけど、街の中はまだまだ賑やかだ。
門に並んでいる人も何人かいたけど、チェックは冒険者証を見せただけで、すぐに終わって中に入れた。
王から通達が有ったそうだ。チェックはいいから丁重に扱うようにと。
「やっと着いたな~! アタシは早く休みたいぞ?」
「アリスお姉ちゃん、おばちゃんみたいだよ?」
「おばちゃん!? 大人だからはしゃがないだけだよ? おばちゃんだからじゃないよ?」
小さい女の子同士の変な会話に、道行く人がぎょっとしていたけど、アリス先生はそれどころではない。
「いい? 大人は子供より疲れやすいの。結衣ちゃんも大人になったら解るから」
「まだ遊びたいもん。明るいから大丈夫だよ」
「遊ぶのは明日にしようね? 早く宿を取らないと」
アリス先生は休みたくて必死に結衣を説得している。
結衣は結衣で好奇心を抑えられないみたいで、やたらとピカピカした大きな建物を見ている。
離れた場所にあるのに、ここからでも目立つ大きさで、近くに居た人に聞いた話だと、カジノらしい。
煌力を動力源にした機械で賭け事をするそうだ。年齢制限があるそうなので、結衣は行けない。
「ほらほら、結衣ちゃんはダメなんだから宿に行こうね?」
「む~。結衣も遊びたいのに」
むくれた結衣を抱っこしているオレの代わりに、マリーナとレイラが宿の位置を聞いてきてくれた。
ちょっと値段は高めだけど、オレのために煌力製品が充実しているホテルを聞いてきたらしい。
「それなら早く行こう! 結衣も夜食を食べような」
「……そういえば、お腹すいてる」
遊ぶ場所はあるみたいだけど、オレの興味は煌力製品を見ることにある。
煌力製品で出来ることは、オレにも出来ることかもしれない。
パワーアップのためにも、研究している学者になんとしても会いたい。
まずは宿の煌力製品を見てみよう。そんな気持ちが出たのか、早歩きでホテルに向かった。




