レイラの実家
領都カレイラを出発して2日、オレたちはカウニスハーナ王国、王都スケイルレーセ方面に向かっていた。
レイラの故郷は王都から馬車で4日の距離にある、ドーレ村という所だ。
カレイラからだと馬車で3週間くらい掛かる距離だけど、飛行円盤だと3日くらいで到着できる。
レイラの父は早くに亡くなり、母親のロザーヌさんと2人で慎ましく暮らしていたそうだ。
「慎ましくなんて上品なものじゃないですよ~、貧乏なだけです~」
気を使った表現なんだけど、本人は気にしてないんだな。
あと、超能力みたいな察知能力はなんなんだよ。
「メイドの嗜みです~」
絶対に違うと思うが、追究するのはなんとなく怖いのでスルーしよう。
最近はほんとに遠慮がなくなってきたな。いいことだけど。
慎ましい暮らしをしていた所に、病気になった王妃が立ち寄って、気に入られたのがメイドになった切っ掛けだと言っていた。
その時12歳だった彼女は、現在まで6年間王城で働き、母親に仕送りをしていた。
村に行く商人に、手紙と一緒に送って貰っていたらしく、帰省するのは6年ぶりらしい。
王城で働くための作法などを覚えるのに必死で、帰省する余裕がなかったそうだ。
「お給金も上がりましたし~、いまはユートさまの所で生活費も出していただいてますから~、仕送りを増やしました~」
オレが褒美で貰うはずだった5億シリンが、彼女の給金として払われる。
仕送りを増やしたり、毎月手紙を送ったりと気が利く女の子だ。
いまも飛行円盤を器用に操りながら、たまにオレの上を飛び、パンチラのサービスをしてくれる出来たメイドなのだ。
アリス先生たちにバレないように見せてくれるので、オレが怒られることはない。
「アタシも親孝行すればよかったな」
27歳になっても恋人もできずに心配させてたらしいからな。
オレだって兄貴に何も返せなかったから、結衣のことは守らないと。
兄貴と血の繋がりはないけど、娘として大事にしてた。オレにとっても可愛い姪っ子だし。
陽が傾いてきたので、今日も夜営の準備を始める。
何回かの夜営を経験して、完全に役割分担が決まった。
オレとマリーナがテントの設置などの力仕事。レイラと結衣が料理をして、アリス先生は風呂の準備をする。
「アタシにも料理させて欲しいぞ? なんでお風呂のお湯係なんだ?」
それは料理が下手だからです。
「アリス先生が1番、火の魔法とかが上手いじゃないですか」
「煌力製品でやればいいじゃんか!」
それはもっともだ。しかし、アリス先生の料理を旅の最中に食べるのはリスクが高いのだ。
「色っぽいアリス先生と、早く風呂に入りたいんです」
相変わらずの適当な言い訳だが、アリス先生は大人扱いされると喜ぶ。
「ま、まあ今日も一緒に入るか! 恥ずかしいけど、大人として男のエロさに理解はあるぞ?」
他の男に騙されないように、マリーナかレイラに気をつけておいて貰おう。
張り切って風呂の準備を始めた先生は、料理を作りたいのを忘れたようだ。本当に心配になってきた。
「アタシは魅力的だからな~。オッパイだって膨らんでるしな!」
確かに小さいし、服の上からだと判らないけど、膨らんでいるのは事実だ。
「叔父ちゃん、味見して?」
結衣が差し出してきた肉を食べてみる。
ソースも焼き肉のタレっぽいので油断した。
「……やたらと酸っぱいぞ?」
「だめか~、焼き肉のタレみたいになるようにしてみたんだけど、見た目が似てるだけだね!」
結衣の創作だったか。
見た目を似せるのは大事だけど、味のほうを大事にして欲しいもんだ。
オレが飯の見た目を気にしているから、結衣は研究しているので文句は言えないが。
「お口直しです~」
レイラが差し出してくる茶色い液体を飲む。
甘い。果物のジュースみたいだな。
「ミックスジュースですよ~。いろんな果物を混ぜたんですよ~?」
色がキツいけど美味しい。
「レイラ、私にもジュースちょうだい!」
風呂用のテントを設置したマリーナが、自分にもくれと言い出した。
「レイラは優秀ね、褒めてあげるわ!」
「ありがとうございます~、奥さま。でも、ユートさまが買った煌力製品で作っただけなので~」
ミキサーみたいなやつだな。そういえば買ったよ。
結衣もアリス先生もジュースを飲んで、料理の味見をしながら準備を進めた。
明日の昼過ぎには到着するので、食事と風呂に入ったあとは早く寝ることにした。
快適な温度と煩い音と攻撃を防ぐ結界。煌力製品がないと現代人に旅はつらいな。
機煌都市にどんな煌力製品があるか楽しみだ。そんなことを考えながら、オレは眠りに落ちた。
翌日の昼飯を食べたあと、やっと村に近付いてきたのか、畑が見え始めた。
10mくらいの高さから見ると、けっこう広い畑のようだし村人が100人以上働いてる。
機械がないから大変そうだ。下を向いて雑草などを摘んでるから、オレたちには気付いてない。
「村の人です~。ちょっと老けましたね~」
「勇人、今日はメイドはお休みにして、自由に過ごさせたらどうだ?」
「アリスさま、無理して働いてるわけではないんですよ~? ユートさまたちのお世話は、もう日常になりましたから~」
レイラにしてみれば、働いてるというよりは生活の一部みたいな感覚なのかね?
「お世話しないと~、ムズムズします」
ムズムズ? 欲求不満みたいな感じか?
オレも戦いの訓練をサボると落ち着かないからな。
村の畑を越えると、牧歌的な村が見えた。
上空にいるオレたちを、村の子供たちが指を指して騒いでいた。
ゆっくり飛んで回ると、走って追い掛けてくるのが可愛いもんだ。
ちなみに、村に近付いてきた時に女性陣は、ショートパンツを穿いてパンチラ対策をしていたので、パンツが見たくて追い掛けてきているわけじゃない。
レイラの家の上空に停止すると、騒ぎに気付いて、中から30代前半に見える女性が出てきた。
質の悪そうな服を着て、継ぎはぎだらけのエプロンをしていた。
仕送りの額を聞いたら大半を送っていたのに、無駄遣いとかしない人なのかな?
「お~か~さ~ん! 帰ったよ~!」
脅かさないように声を掛けてから、ゆっくり下りた。
「レイラ? お休みを貰ったの? 6年も帰ってこないなんて…………親不孝な娘ね!」
金だけじゃ親孝行にはならないらしい。
6年ぶりの再会に抱き合いながら喜ぶ母娘。
「……そちらの方たちは? お友達?」
オレたちを見て娘に尋ねる。
「違うよ~。私の仕える方でユートさま、アリスさま、マリーナ奥さま、ユイお嬢さまだよ~」
1人ずつ紹介されたのでお辞儀をする。
マリーナはスカートを摘まんで挨拶してたし、結衣は気付かないで村の子供たちと遊んでいる。
飛行円盤に乗った子供たちが、家にぶつかりそうになったので、ぶつかる前にキャッチした。
「あら? ユートさまという男の子が消えたわ」
レイラのお母さんは、ノンキに頬に手を当てて首を傾げている。
「違うよ~、あっち! 速く動いただけだってば~」
レイラも見えていなかったはずだけど、すぐに気付くあたり、スーパーメイドだな。
「ユートさま、紹介しますね~。母のロザーヌです~」
「いつも娘がお世話になってます。のんびりした娘なのでごめんなさいね?」
のんびりしてるのは口調だけで、仕事は速いんだよ。
「こちらこそお世話になってますよ。毎日の食事も美味しいですから助かってます」
「それなら良かったです。立ち話もなんなので、狭い家ですが入って下さいな」
ロザーヌさんの誘いはありがたいけど、親子水入らずで話して貰うことにした。
王城のメイドを止めたことは手紙で知っているだろうけど、詳しくは書いてないそうだしな。
「気を遣っていただいて、レイラにもよくして下さるし、親としてお礼を申し上げます」
2人が家に入るのを見届けて、結衣が遊んでいるほうへ歩き出した。
「兄ちゃんと姉ちゃんも一緒に遊ぼう!」
「お兄ちゃん肩車して?」
「私は小さいお姉ちゃんとおままごと!」
「誰が小さいんだ~!」
アリス先生が怒って追い掛けると、キャッキャッと騒ぎながら逃げて行ったので、みんなで鬼ごっこをした。




