魔力検査を受けたくないオレがいる。テンプレを待つオレもいる
無事に入ることができたオレたちは、入り口のすぐ傍にある広場を見回し、街の雰囲気に圧倒されていた。
レンガでできた古めかしい建物。煙突なんて初めて見た。
そして遠くに見える大きな屋敷。領主か町長の屋敷か?
露店の店員の呼び込みを煩そうに躱しながら武装した男たちが闊歩する。
その偉そうな態度のわりに、美女の呼び込みにはデレッとする姿は、情けない大人だと思いながらも、人間はどこの世界でも変わらないんだなと、オレを安心させてくれる。
人間の体に動物の耳や尻尾を持つ獣人、小柄なのに筋骨隆々なドワーフ。
人型の竜のような竜人。背中に羽のある有翼人。結衣が羽を記念に貰っている。勝手に動かないように言っておこう。
ファンタジーゲームやアニメの光景が目の前にあり、存在感を発する。
あちこちで陽気な声が聞こえて、真っ昼間から酔っ払いが肩を組んで歌う。
異世界人は自由に生きてるな。日本人ではなかなか難しい生き方をしてる。オレも頑張って自由に生きよう。
「勇人がいつまでもオークを引きずってるのも不便だし、冒険者ギルドに行こっか?」
オレより先に復帰したアリス先生が声をかける。
「そうで……そうだな。いい加減重いし。結衣、オレから離れるなよ」
「うん! 見て見て、羽のお姉さんからもらったんだよ」
好奇心旺盛で困る。迂闊に異世界の人に話し掛けるとは。しかし、この羽はキラキラ赤く光っているな。あの翼じゃ人間サイズは飛べないだろうから、魔力を利用してるのかもな。
「結衣、危なそうな相手や場所には近づくなよ」
またフラフラしそうな結衣に注意してから、冒険者ギルドに向かった。
「道がわかんないな! でもアタシは迷子じゃないぞ!」
腰に手を当て平らな胸を反らして開き直る、なんか全てが小さい人。アリス先生について行ったオレがバカだったのか……。
「ここが冒険者ギルドじゃないですか? 看板に書いてあるし」
本当に字も読めるな。しかし、道を聞いた人にギルドに登録することを言ったら、魔力検査があるらしいので不安だ。
オレの魔力は低いし、バカにされたらムカつくしな。まぁ絡んできた奴をぶっ飛ばすのはテンプレか。オレが反撃するより先に、アリス先生がぶっ飛ばしそうだが。
ドアを開けてギルドに入ると、武装したゴツい男たちがオレたちに視線を向ける。
オークを引きずってるのを見て、さりげなく武器に手を掛けている人は、油断もなさそうなところがベテランっぽい。
かなりの広さなだけあって、冒険者が結構な人数いても、狭苦しい感じはしない。
左右を見ると、真っ白な漆喰の壁には依頼票が貼ってあり、所々抜けた部分はすでに誰か受けた依頼なんだろう。
難しい顔をして依頼票を眺める冒険者たちの目は、命懸けなだけあって真剣だ。
しかし、この世界の人は黒目が多いな。髪の色は地球よりバリエーションが多いが。ほとんどが黒目か茶色、緑色が少しいるくらいか。
「アタシたちは冒険者ギルドに登録に来たんだ。誰でも登録できるんだよね?」
物怖じしない先生である。厳つい顔をしたオッサン連中の視線を物ともせずにカウンターの美女に声をかけた。
「オレとこの2人を登録してください。他に稼ぐ当てがないので」
カウンターにしがみついた先生の後ろから声をあげる。
「承ります。まず、この用紙に必要事項を記入してください。代筆が必要なら私が記入します」
言われた通りに記入していく。必要な項目は名前と年齢、得意な武器や特技など。
武器や特技などは、斡旋する仕事に関わるらしい。得意な人に斡旋するんだろう。
このペンは熱を利用して紙に焦げ目を付けて書くペンのようだ。魔法の道具か煌力製品だろう。
魔力も感じるが、取り付けられた魔石からで、金属製のペンの本体からは、転移の時に受けた神の力を荒々しくした感じの力がある。これが煌力だろう。
オレは特技に武術全般と書いた。1番得意なのは格闘だけど。
アリス先生は魔法と計算、翻訳と書いている。そういえば魔物の言葉も解るんだった。アリス先生はちゃっかりしているな。
結衣は料理がちょっとだけできるよ! と元気いっぱいな字で記入している。
「…………えっ!…………はい、確認しました。ギルドカードを発行しますので少しおまちください。その間に魔力検査をしましょう。そのオークも買い取りを希望されるなら買い取りカウンターへ」
アリス先生の年齢の所で驚いたようだが、すぐに持ち直したあたり、さすがプロだ。
しかし、ついに来てしまった。アリス先生や結衣は魔力が強いので大丈夫だろうが、オレは普通の人と同じくらいらしいからな。
オークはもちろん買い取りに出す。オークに番号札が貼り付けられ、オレにも同じ番号札が渡される。
受付嬢がカウンターの下から妙な機械を出す。金属板からコードが伸び、その先に握る部分が。
「これを握って、先に付いている空の魔石に魔力を流してください」
「まずアタシからやる。危険はないと思うけど、念のためだからな!」
それから小声で「アタシの魔力を知られたら、勇人の魔力をバカにする奴も少なくなるかもしれないから、アタシが先だ」と言った。いろいろ考えてくれているらしい。テンプレイベントが起きないかもしれん。
「じゃあやるぞ? む~~~~~~」
気合を入れているのだろうが、小さい子が拗ねているように見えるのがアリス先生のクオリティーだ。ホッペを膨らませているので尚更だ。
しかし、そんなことを思っているのはオレくらいだろう。アリス先生の瞳が真っ赤に染まり、体から赤い炎のような魔力のオーラが吹き上がる。結衣は風圧で乱れる髪を気にしている。
「凄いですね! 数値が1万を超えましたよ。1万2471です。1級の最上位の魔力です」
職員たちは飛びそうな書類を押さえ、注目をしていた冒険者たちからざわめきが起きる。
魔力値を普通にバラしているが、守秘義務とかないのか? それとも、見た目で魔力の強さが判るから、隠す意味がないのか?
「はぁ~、ちょっと疲れた」
アリス先生は一息吐いて、力を抜いた。
「これならオークを倒せるのも納得ですね」
「ブタさんは叔父ちゃんが倒したんだよ。アリスお姉ちゃんじゃないよ?」
アリス先生が叔父ちゃんとは勇人のことだと告げると「失礼しました」と謝ってくれた。
「次は結衣にやらせて! 面白そうだもん」
「では、これを握ってくださいね」
結衣に装置が渡され、魔力を計る。
「えぇぇぇぇぇい!」
ふんすっ、と鼻息が聞こえそうな気合で魔力を込める。可愛い眉毛が、逆さのへの字みたいな形になっていて微笑ましい。
「こちらのお嬢さんも凄い魔力です。8921。3級の最上位で、もう少しで2級の下位です。頑張って魔力を上げてくださいね」
気合を入れる結衣が可愛いのか、受付嬢もニコニコして応援していた。
「はーい!」
両手をあげてバンザイしている結衣のおへそを隠してから、オレも装置を握る。
「それじゃあオレの番だ。オレの魔力は低いから期待しないでくださいよ」
あらかじめ告げると、オークを倒せるのにまたまた~、なんて顔をしている。
オレを信じないでオレの言葉を信じてくれよ。事実なんだから。
注目を集めながら魔力を込める。アリス先生や結衣と違って体はまったく光らない。
「えぇっと、瞳の色も薄いですね。故障じゃないようです。あの、その~…………すみません104です。10級の下位です」
シーンと静まり返ったギルド内の空気が寒い。
「あっ、えっと、その、確かに冒険者にしては低いかもしれませんが、普通の戦えない人より少しだけ高いですよ!」
アリス先生の年齢にも、あまり動じなかった受付嬢すら動じるオレの魔力って。ある意味すげえな!
「おい! お前!」
痛いほどの沈黙を破り、1人の冒険者がオレに近付いてきた。テンプレイベント来ちゃったか?
今日から昼の12時に予約投稿してます。