盗賊団壊滅
勇人が歯を食いしばり、残り少ない魔力を煌力に変える。
今の勇人が1度に集められる力を超えて、限界以上の力を振り絞った。
頭目が少しずつ押されていく。驚愕に染まった顔を悔しげに歪めて、獣のように唸った。
「ぐうぅぅああああ!!」
もう一押しと更に振り絞った勇人は、集めた煌力に体が耐えられず吐血した。
勇人の制御力を超えた力が、煌力を修得する前のように体を壊していく。
「くっ! オレは負けない!」
崩れ掛けた体を持ち直し、最後の力で拳を突き出した。
すべての力が拳に集中して、無防備になった体に、激突した力で砕けた石が傷を付ける。
しかし勇人のフルパワーの前に、頭目の斧にヒビが入る。
そこからは脆かった。斧を砕かれ、魔力の方向が狂った頭目の攻撃は勇人を逸れた。
外れた魔力が大地を縦に割り、勇人の拳は頭目の顔面を捉えていた。
敵の攻撃で煌力を消耗した拳だが、歯をへし折り、頭目の体を大きく吹き飛ばした。
弓なりに空中を舞った頭目の体は、アジトの石壁に叩き付けられた。
「はぁはぁはぁ…………勝った、オレの勝ちだ!」
拳を突き上げた体勢のまま、勇人が勝利を宣言する。
「やったぁぁぁぁぁ!!! 勇人が勝った~~~~!!」
アリスが喜びの声を上げると、周りの人々も勝利を喜んだ。
その声に倒れていた手下の体がピクリと動いた。
倒れたまま、小型のクロスボウを取りだし、消耗した勇人に狙いを付ける。
「死―――――」
「遅い!」
クロスボウを放とうとした手下に背中を向けたまま、指先だけを向けてサイレント・キルレーザーを撃つ。
青い光線が腕を貫き、勇人の背中を狙った盗賊はクロスボウを取り落とした。
「ぐあっ、痛えぇ!」
光線の先をアリスたちが見ると、腕を押さえて苦しむ男がいた。
「弓を撃とうとしてたのか! こいつめ!」
アリスが魔力を纏って飛び蹴りを食らわせた。
うつ伏せで苦しんでいた男の背中に、アリスの小さな足が突き刺さる。
背中を反らすほどの一撃に、男は白目を剥いて血を吐き、気絶した。
「アタシの生徒に卑怯なことするな!」
可愛い声が戦場の空気を吹き飛ばし、みんなの笑い声が上がった。
やっと終わった。
帰って結衣に回復して貰わないと。
「イテテ。さすがにもう魔力の欠片もないよ」
ポーションを飲んでおこう。結衣の回復魔法のほうが効果が高いし、魔力回復ポーションにしよう。
アリス先生もいるし、魔物が来ても大丈夫なはずだけど、アリス先生の手に負えない魔物だったら、煌力がないと勝ち目がないからな。
「勇人、敵に気付いてたんだな~! 体は大丈夫か?」
「止めを刺してない敵がいるのに油断しませんよ」
他の連中が動けないうちに、早く拘束してしまおう。
洞窟の中には誰もいないようだし、助けた男たちに荷馬車を全部持ってきて貰った。
その間にオレが盗賊たちを鎖で縛っておく。誰かに任せると人質に取られる可能性があるので油断しない。
荷馬車に縛った盗賊たちを乗せ、男たちで見張りながら進む。
気が付いた盗賊は、男たちがオレに報せると殴って気絶させていく。
乗馬経験のある女性たちは馬を牽いてくれて、子供は荷馬車に乗せた。
街までの道は意外にも平穏だった。
オレが不思議がっていると、アリス先生が疑問の答えを教えてくれた。
「あんな力がぶつかり合ってたんだぞ? 動物だって魔物だって逃げ出すよ」
それもそうだな。自分のことって意外に気付かないよな。
「それで……血を吐いてたけど大丈夫なのか?」
「大丈夫ですって。何回聞くんですか?」
「こういうことは心配しすぎで、ちょうどいいんだ!」
母親か!
「また服をボロボロにしたし、勇人の服を買い足さないとだな」
やっぱ母親みたいでつらいな。
小学生みたいな姿で所帯染みないで欲しい。
「パンツもよく破くし、10枚で1500シリンの安いのを買おうかな?」
オレのパンツの値段がどんどん下がっていくな。稼いでるのに切ない。
最終的にパンツを穿くなとか言われないだろうか? なんで死闘のあとにパンツの心配をしなきゃならないんだ。
結衣や先生のパンツは1枚1万シリンとかなのに…………必要ないブラジャー買うならオレにも高いパンツを買って欲しい。
「なんか不穏な気配がするぞ?」
こんな小学生みたいな人にも女の勘ってあるんだな。
先生の胸ってブラジャーすると柔らかい感触がまったく分からないんだから、ノーブラでいいじゃん。成長もしない気がするし。
「アタシのオッパイをジロジロ見て…………エロいな!」
なんで嬉しそうなのか解らんけど、女の勘って外れることも多いな。
女の勘はなんか怪しいと思うから聞くだけで、ピンポイントで当てる人は少ないよな。
「ユートさん、盗賊が起きましたぞ!」
先生のオッパイが成長しない件や、オレのパンツ安い問題のことは今度考えるとして、今は無事に街に戻ることを考えよう。
オレはもぐら叩きのように、気が付いた盗賊たちを殴りながら街に急いだ。
街の壊された壁が見えると、女性たちから安堵のため息が漏れた。
夕陽を背に、たくさんの荷馬車を連れて歩くオレたちを発見した兵士が、馬で駆け寄ってくる。
「ユート殿、おかえりなさい! 凄い成果ですね!」
馬を下りた兵士たちが、敬礼をして引き継いでくれた。
捕まっていた人たちも、ホッとしたように荷馬車を渡していた。
兵士はオレに馬を貸してくれて、先に街に帰って傷の手当てをするように言ってくれた。
ありがたく馬を借りたオレは、鐙に足を掛けて馬上の人となる。
アリス先生を引き上げて、前に乗せた。
「後ろじゃないのか? オッパイが当たるぞ?」
「先生の胸―――じゃなくて背が小さいから邪魔になりませんし」
胸の感触なんてしないし、前に乗せて抱っこしてるほうがいいと思う。
「ユートさん、改めて後日、お礼を」
「それは結構です。仕事の一環なので。早く家に帰って家族を気にしたほうがいいですよ」
助けた人たちに答えて、軽くお辞儀をしたあと、馬の腹を軽く蹴り街に戻った。
壊された道は最優先で瓦礫を片付けたらしく、馬で走るのに支障はないけど、事故を起こさないように常歩まで速度を落とした。
借りていた小屋に帰ると、結衣たちは3人とも帰っていて、夕飯を作っている途中だった。
「叔父ちゃん、お怪我してるの? すぐに治すね!」
飛び付いてこようとした結衣がオレの怪我に気付くと、飛び付くのを止めて、回復魔法を使い始めた。
「旦那様が怪我するなんて、強い盗賊だったの?」
「めちゃめちゃ強い奴でさ~、疲れてたし殺さないようにしてたとはいえ、勇人がまさかのギリギリだったんだよ」
アリス先生が戦闘の詳細をマリーナに話し出した。
「ユートさま、お風呂を入れましたから、体をさっぱりさせてくださいね。ご飯もすぐにできますよ~」
小屋の外にテントを張り、炊き出し用のデカイ鍋を設置して風呂にしたらしい。
風呂と聞いてアリス先生も入りたがったので、一緒に入ることにした。
オレの傷の確認をしたいらしく、ぺたぺた体を触っていたので落ち着かない風呂だった。
「それじゃあ、みんな助かったんだ! よかった~」
「そうですね~。ユートさまと盗賊の戦いはハラハラしましたね~」
アリス先生の話を聞きながら飯を食べる。
結衣やレイラは楽しそうに聞いていた。
「そんなに苦戦したなら私も行けばよかった……騎士の名折れよ!」
どうやらマリーナは騎士として、旦那のピンチにその場にいないことが悔しいようだ。
食べ終わっても、食器を洗いながらブツクサ言っていた。
結衣を抱っこして眠ると、日常に戻った感じがするな。はぁ疲れた。




