盗賊団との戦い
暖かな陽射しが勇人たちの体を優しく包んでいる。
その暖かさを夢見ていた人々は、安堵感から大地に崩れ落ち、無事に助かった喜びを噛み締めて泣いた。
そんな人々を見ながら、勇人は己が手に入れた力を誇りに思い、神への感謝を胸に宿した。
一際輝く太陽は、神からの祝福のように降り注ぎ、勇人の体を温め、来る盗賊との戦いへの準備となった。
「皆さんは隠れていてください……アリス先生、彼らの護衛を頼みます」
洞窟に鋭い視線を向けて、静かに闘志を高める勇人に気圧された人々は、アリスの指示に従って離れた場所に下がった。
アリスは結界発生機を使い、勇人の背中を見守る。
その目はとても澄んでいて、勇人の敗北など考えてもいないように静かだった。
「さっさと掛かって来い! それだけの数がいて怖いのか?!」
洞窟の奥から様子を伺っていた盗賊たちは、勇人に挑発されて熱り立った。
頭目に、全員が集まるまで仕掛けるなと言われたことも頭の片隅に追いやっていた。
勇人も全員が集まっていないのを知っていたので、集まる前に数を減らすために挑発をして誘い出したのだ。
10人以下なら煌力を使わずとも倒す自信があり、それ以上は身体強化を使わざるを得ない。
魔力に不安のある勇人は、ランドを超える魔力を感じる頭目が来るまでに、少しでも数を減らしておきたかったのだ。
「お頭が来るまでもねえ!」
「ガキ1匹くらい俺がぶっ殺してやるぜ!」
8人の盗賊がアジトを出て喚き散らす。
「御託はいいから掛かって来い!」
勇人の鋭い声に反応して一気に襲い掛かっていった。
勇人は1人目を最小の動きで攻撃を躱して急所を打って悶絶させた。
一瞬で相手との間合いを計算し、狙う順番を決めているのだ。
基本はカウンターを使い、相手の力を利用した攻撃で体力を温存している。
同じタイミングで仕掛けて来る敵には、自分から攻撃に移り連携を崩す。
数十秒で8人全員が気絶させられたのを見て、アジトに潜んでいた盗賊が救援を躊躇った。
このまま、頭目に言われたように集まるまで待つか、と仲間を見回す。
「弱い者イジメはオレは嫌いだ! 臆病者のお前たちと違ってな! 怖いなら投降しろ!」
これで捕まるならよし、投降しないのなら掛かって来いという気持ちで挑発する勇人。
いままで弱者を欲望のままに殺してきた盗賊たちにとって、このような態度は看過できるものではなく、激怒した。
「いい気になるんじゃねえ!」
「俺達が何人いると思ってやがる!」
「てめえみたいなナマイキ野郎を何人殺してきたか教えてやるぜ!」
簡単に挑発にのってくる盗賊を見て、勇人は呆れた表情で言い放つ。
「お前たちの弱い者イジメに興味はない! 口だけの男ほど惨めなものはないな!」
「ぶっ殺す!」
頭に血を上らせて武器を振り上げる。
勇人は冷静にそれを見つめ、降り下ろす直前に手首を打って武器を落とした。
武器を失った手を空振りした盗賊に、少しだけ煌力を込めた手刀を食らわせ意識を奪った。
勇人は武器を落としたあと、そのまま斜め前に一歩進んで、首の後ろを狙える位置に移動していたのだ。
まだ煌力が右手に残っている間に、他の敵を次々と攻撃していく。
あまりの事態に付いていけず、協力して戦うどころか、勇人に誘導されてお互いの動きを邪魔し合う。
動きの止まった相手など、勇人にとって敵にはならない。
戦っている間に、盗賊に散発的な救援が来たが、仲間が誘導されて密集していたので攻撃できなかった。
数が減ったら1人追加で戦線に加わる、という勇人の思惑通りの行動をしてしまっていた。
数十人を倒した所で、戦場に怒鳴り声が響き渡った。
「俺様の命令を忘れたのか!! 俺様の攻撃のために戦えばいいんだよ!!」
頭目が出てきて改めて命令をする。
手下の盗賊たちが攻撃を連続で行って、頭目がその隙を突いて攻撃した。
手下を犠牲にして、頭目が一撃に賭ける戦い方のために、この盗賊団は手下の数が多いのだ。
「仲間を犠牲にして戦うなんて……さすがは盗賊に堕ちるだけあるな!」
「うるせえ! 勝ちゃいいんだよ! 俺様がいれば手下なんかすぐ集まる!」
頭目の斧を捌きながら会話する。
ちょくちょく手下が攻撃をしてくるので、頭目の攻撃が勇人を追い詰めていく。
頭目を攻撃しようとする勇人に、手下が攻撃をして邪魔をするという厄介な戦術に、勇人は頭目を無視して手下を狙うという戦術で対抗した。
体力の消耗は激しくなるが、積極的に走り回り、頭目に攻撃をされないように手下を倒していった。
足を止めてしまえば、盗賊たちの連携を食らうが、勇人が動きを止めなければ、動きの予測など高度なことができない盗賊には連携などできないのだった。
「クソッ!! なんでだ! なんで当たらねえ!」
「そのガキを止めろ!」
「囲んで倒せ!」
勇人を囲んで動けなくしようとしたが、勇人は1人2人倒したら、敵を倒すチャンスに固執せずに囲みを抜けて別の敵を狙った。頭目の足では追い付けない。
「お前ら! 何してやがる! ちゃんと囲め!」
頭目が苛立って怒鳴るが、勇人を囲むには手下の実力が足りなさすぎる。
戦術的に手下を使い捨てにしてきたので、実力者はすぐに抜けてしまう弊害が浮き彫りになった。
「はぁはぁはぁはぁ」
息が上がってきた勇人に、チャンスとばかりに盗賊が殺到した。
勇人の青い瞳が再び濃い青色に変わる。その瞬間―――――
「ディストラクション・フィールド!」
勇人の体から、ドーム状に青い光が放たれた。
「うわぁぁ」
「ぐあっ」
「キャアァァ」
走り回って手下を攻撃して回ったのは、怒らせて全員を集めるためだった。
範囲は拡げられる技だが、そのぶん消耗も増えてしまう。
血走った目で殺到した盗賊は、まんまと勇人の罠に掛かり全員が吹き飛ばされた。
頭目との戦いに備えて消耗したくなかった勇人は、手加減していたので気絶はしていない。
情報のために殺すわけにはいかないので、頭目を倒すような威力だと、手下は死んでしまう。
だから勇人は頭目にダメージを与えるのは諦め、消耗を最小限にして放ったのだ。
「お、お前たち! 情けねえ手下共だ! また集め直さなきゃならねえじゃねえか!」
自分の作戦が失敗したのに気付かず、手下の不甲斐なさばかりを責める。
「お前に今後の心配など必要ない! お遊びはここまでだ!」
勇人の瞳が怒りに燃え、青い輝きが増した。
「俺様がお前みたいなガキにやられるわけがねえ!!」
頭目の瞳も火が着いたように赤く染まり、2人の視線が交錯する。
2人の力に暴風が巻き起こり、倒れて呻いていた手下たちを吹き飛ばした。
離れた場所で見守っていたアリスたちも、あまりの力に結界ごと後ずさる。
「もうちょっと離れたほうがいいかも……」
アリスの言葉に、全員が更に下がった。
「「いくぞ!!」」
2人が同時に相手に向かって跳ぶ。
頭目が振り上げた斧を全力で降り下ろす。
勇人は真っ向から拳を放った。
「ミーティア・ストライク!」
青い光の尾を引く拳と、炎が形を持ったような斧が激突して、バチバチと火花が散る。
その力が拮抗して相手に届かず、周囲に飛び散り破壊を撒き散らした。
大地が砕け、木々は薙ぎ倒され、暴風が砂塵を巻き上げる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
お互いに更なる力を振り絞り、破壊の規模を拡大していった。
勇人も頭目も、これまでの戦いで消耗をしている。一瞬でも隙を突かれれば、勝敗は一気に決まるだろう。
2人の視線はお互いだけを捉え、決して逸らされなかった。




