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盗賊のアジトに潜入

 抱き締めたアリス先生の体の震えが伝わってくる。

 オレは死体を見ても、敵が死んだくらいにしか思わないので変なのかもしれない。

 この震えている小さな女性を守るためなら、人殺しなんて気にしないだろう。


 やっぱりアリス先生の言う通り、戦闘バカなのかもな。優先順位がハッキリしてる、戦士の思考だ。


「……もう大丈夫。涙を拭くから離してくれ。泣いてないけど」


 涙を拭くって言ってるじゃん。素直なのか素直でないのか解らん人だな。


「それじゃオレは、後始末してきます」


 アリス先生を抱えて木の上から飛び下り、死体が見えない位置に下ろす。

 そして死体に近付き、草むらまで引きずって行った。

 死体が見付かれば警戒されて奇襲が失敗するからな。

 他の斥候は手早く倒しておこう。次はオレが殺る。


「待たせてゴメン。大人なのにな……」


「大人でも初めはキツいですよ。日本で暮らしてれば普通はないことですし」


 大抵の人はパニックになると思う。


「お前に人殺しさせる前に、自分でやろうと思ったのに…………アタシは自分が情けないぞ」


 そんなこと考えてたのか。


「先生、いつでも守ってくれる人がいるとは思えませんし、オレも経験しとかないと、いざという時にオレが困りますよ。だから気にしないでください」


「……そうだな! 気持ちを切り替えて必要なことと割り切ろう!」


 やっぱり先生は前向きで可愛いな。

 拳を突き上げる姿を見ると、子供っぽいのも魅力の1つだと思う。気にしなくていいのに。


 次の斥候に近付き煌力を集める。

 オレの体に力が満ちていくのを感じた瞬間、背後から襲い掛かった。

 斥候2人の頭を掴み、首をへし折る。骨の砕けるゴリッとした嫌な感触が伝わってきたが、戦闘に集中しているオレには気にならなかった。


「ゆ、勇人、大丈夫か? 苦しくないか? お腹を撫でてやろうか?」


 別にオレは腹痛ではないんだけど、テンパってるな。

 チョコチョコと走り寄ってきたアリス先生を見てホッコリしたくらいだし。


「蚊を潰すのと変わりませんよ。オレに取って盗賊は害虫にも等しい存在なので」


 オレたち家族の平穏を乱す奴の命に興味はない。

 そう考えるオレは、日本人としては異常なのかもしれないけど、この世界では普通だ。


「蚊を潰すとか言うな。この世界だと戦いは普通のことだけど、お前には戦いだけじゃないんたから」


 鍛えた技を存分に振るえる世界に来て、少し浮かれてるのかもしれない。戦いに溺れないようにしないと。


「わかりました。1番は先生たちですからね」


「だからっ! そういうことを言うなって! 照れるじゃんか!」


 隠密行動中は迂闊なことは言えないな。騒がしくなるから。

 そっぽを向いて、赤くなった顔を隠そうとしている先生は可愛いので、またやるけど。


 死体を隠したあと、次の斥候を狙いながら徐々にアジトに近付いていく。

 深い森の奥に、巨大な洞窟がある。見張りが居ないのは、こんな場所に見張りを立てると、アジトだとバレるからだろう。

 敵の接近は斥候役が警戒しているので、外に見張りを立てず、中に警備を立てて侵入者を防いでるようだ。


「先生、洞窟の中の入り口の近くに敵が4人いるから、先に釣り出してから倒そう」


「釣り出すってどうやって?」


「ちょっと離れた場所にゴブリンが10匹ほど居るから連れてきます」


 そいつらに盗賊を(おび)き出して貰う。


「先生はゴブリンに、メスゴブリンが人間に捕まったと説明してください」


「ゴブリンに話しかけるのか? 神様の力で通じるしゴブリンはアホだから信じそうだけどな~。ゴブリンは天敵だし」


「お願いしますよ。洞窟の中に武装してない、捕まった人がいる感じなんで気付かれたくないんですよ」


 反応が見つかってから、あんまり動いてない反応が固まってるんだよな。身を寄せ合っている感じだ。


「わかった、人質がいるなら言われたようにする!」


 思わず、いい子いい子してしまいそうなくらい素直で助かるな。


 先生に隠れて貰い、オレ1人でゴブリンの所へ走る。

 ゴブリンの集団の前に飛び出すと、木の実を採取していたゴブリンたちが騒ぎ出した。


『人間だ! 1人しか居ないぞ!』


『腹が減ったし食おう!』


 相変わらず人間を食料としか見てないな。

 思わずゴブリンに遭遇したみたいに、オレは背を向けて逃げ出した。


『逃げるぞ! 追え!』


 ゴブリンがオレを見失わないように、速度を抑えて走る。

 付かず離れずの距離を保ち、洞窟内の見張りが交替するまで連れ回した。

 見張りが交替したからしばらくは侵入に気付かれないだろう。

 オレはアリス先生の所へ到着する直前に、ゴブリンから見えない位置に移動した。


『あっちに行ったぞ!』


 計画通りにアリス先生の居るほうへ向かう。

 ゴブリンたちが木に遮られて見えないようになったら、アリス先生の声が聞こえてきた。


「ちょっと待ってくれ! メスゴブリンが向こうの洞窟に捕まったんだ! 助けてやってくれ!」


『なんだって! 相手は誰だ?! さっきの人間か?』


『さっきの人間はこっちに逃げたぞ。あいつに決まってる!』


 よし、上手くいってるな。


『お前1人だけ逃げられたんだな?』


『俺たちがすぐにお前の仲間を助けてやるからな! 待ってろ!』


「えっ? えっ? 仲間?」


『お前は腹が出てなくて色気がないから見逃されたんだな?』


『チンチクリンなのは魅力だが色気がないからな! 足も長めで変だし』


「はあぁ~~~?」


『すぐに仕掛けるぞ! 人間を殺せ!』


『おお!』


 そうなんだよな。最初にゴブリンに会った時に、アリス先生はメスゴブリンと間違われた。

 ゴブリンは目も鼻も悪いみたいで、シルエットで判断しているらしく、アリス先生はゴブリンにしては足が長く、腹も出てない色気のないゴブリンに見えるんだ。



 オレはすぐにアリス先生の所に行き、洞窟に向かうゴブリンを追い掛けようとした。


「ちょ~っと待ってくれ。アタシの勘違いだと思うけど念のために()いとくぞ?」


 アリス先生の雰囲気が悪い。魔力が炎のように体から噴き出して、1歩1歩ゆっくり近付いてきた。


「アタシがゴブリンみたいな体格だから立てた作戦じゃないよな?」


「………………」


「も・ち・ろ・ん、違うよな? ゆ~と?」


「……当然です! オレがそんな成功率の低い作戦を立てるわけないじゃないですか! ゴブリンがアホなのを考慮に入れた騙し討ち作戦ですよ」


 笑顔だけど妙な迫力に圧されて、下がりながら弁明する。


「……今は人質を助けないとだから見逃すけど、あとでしっかり訊くからな?」


 ふう。窮地は凌いだぞ。あとは忘れてくれるのを祈ろう。


「それじゃゴブリンを追うぞ!」


 駆け出すアリス先生の背中を追い掛け、オレは祈った。

 どうか盗賊が強くて、アリス先生が忘れてくれるくらい時間が掛かりますように。



 2分くらいで洞窟に到着すると、剣戟(けんげき)の音が聞こえてきた。

 洞窟の中で戦っているらしい。洞窟の奥から近付いた反応があっさり引き返したので、ゴブリンだったと報告に向かったんだろう。

 足取りが遅いようだけど、10匹程度のゴブリンに襲われたところで騒ぐことじゃないからな。


 ゴブリンの気配が次々と倒れていく。ピクリとも動かないので死んでるはずだ。

 オレは洞窟の入り口の上の壁の出っ張りを掴んで、剣を抜いて待つ。


「ゴブリンなんか何匹いたところでザコだな!」


「まったくだ。ゴブリンってのは何でバカなんだろうな」


「弱いくせに相手の力も考えずに襲うからな」


「まだ居るかもしれん。外を調べるぞ」


 出てくる。タイミングを間違えないようにしないと。

 武器を(ぬぐ)いながら盗賊たちが出てきた。入り口から出た所で左右を見渡している。オレにはまったく気付かない。


「居ないな」


「ああ、ゴブリンロードじゃあるまいし、そんなに居ないだろう」


「結局いつものことかよ」


「退屈しのぎにはなったじゃねえか」


「そうだな。帰るか」


 盗賊たちが引き返した瞬間に静かに飛び下り、奴らの背後を取った。

 一撃で4人の首を切り落とし絶命させると、アリス先生を手招きして呼んだ。


「やっぱり凄いな~」


「死体は放置して侵入しましょう。気付かれてもゴブリンにやられたと思うでしょうから」


 ゴブリンに死体を隠すような知恵はないからな。オレたちの侵入に気付かれなければいい。

 死体に気付かれても、仲間の死体を片付けて替わりの見張りを立てるだけだろう。


「わかった、勇人の後ろに付いてく」


 オレは気配を探りながら、洞窟の中を進んで行った。

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