街に到着
オークを倒したあと、オレたちは2~3時間は歩いた。
その間に何組かの商隊とすれ違ったり追い越された、街に近付いてきたのかと期待したけど、それから1時間以上は歩き、ようやく街の壁が遠くに見えてきた。
「やっと見えた~」
「叔父ちゃん、抱っこして?」
アリス先生も結衣もヘトヘトだな。まあ無理もないけど。オレも疲れたし。
「結衣、抱っこ疲れるからオンブしてやる。アリス先……アリスは悪いけど、もう30分くらい頑張ってください」
結衣をオンブしてやりながらアリス先生を励ましたら、「アタシは抱っこなんて頼んでないだろ!」と怒られた。
「叔父ちゃんの背中はらくちんだねっ!」
まだ9歳だからな。何時間も歩いたり魔物に遭遇したのに、よく我慢したもんだ。オレは鍛えていてよかった。
アリス先生は身体強化で魔力を使いきったし、鍛えてなかったら結衣を背負って歩くなんてキツいだろうな。
「あっ、そうだ。勇人、アタシに敬語もダメだぞ? 門番に説明するのは、見た目が大人な勇人なんだから」
確かに。アリス先生に敬語を使ってたら誤魔化しが半端になる。
「そんなに大きい街じゃないで……ないな。情報は揃うか?」
まだ慣れないから敬語が出そうだ。
「中世くらいの文明なら小さい街ってわけじゃないんじゃないか? アタシは世界史担当じゃないから詳しくないけど」
日本でも東京みたいに人が密集してる所ばかりじゃないからな。
「お洋服は売ってるよね? 叔父ちゃん、可愛いお洋服を買ってね? このお洋服だと動きにくいもん」
「確かに目立つ格好かもしれないな。すれ違った人たちの服装を見た感じだと」
魔物の石は高く売れるのか? ゴブリンはともかくオークは少し期待できるか?
「結衣ちゃん。まずはホテルが先だぞ? お金に余裕があったら服も買ったほうがいいけど」
アリス先生も服は欲しいだろうしな。日本の服は、今着てるやつだけだし。金を稼ぐのに手っ取り早いのは魔物を倒して石を売ることだ。服が汚れたり破れたりするかもしれん。
こっちの給料って月ごと? それとも日払いか? 金はすぐに必要だから日払いの仕事じゃないと受けられない。
「考えれば考えるほど問題が多いな」
「そうだけど、勇人が悩むことじゃないぞ。アタシが働くから危ないことはしちゃダメだぞ」
頭を抱えていると、オレの呟きを聞いたアリス先生がそう言ってオレに釘を刺す。
オレが戦えるのは知っているはずなのに、教師だからかオレを子供扱いしているのか、ちょっとムッとするな。アリス先生の立場は解るけど、仕返ししよう。
「アリスは見た目が小さいから、雇って貰えないんじゃないの?」
「こらっ! アタシは先生だぞ! 大人なんだぞ! 酒場とかで働けるはずだ!」
酒場は無理だろ。日本なら身分証があるので、公務員とかなら小さい先生でもなれるだろうけど、異世界じゃな。
子供が働けるか判らないし、働けたとしても子供の賃金じゃ3人で暮らすのは無理だ。
「街が近付いてきたから、オークと石を出しとくんだぞ」
街まで1㎞を切った辺りで、アリス先生が唐突に収納の指輪からオークの死体を出すように言った。
「身分証を落とした設定なのに収納の指輪を持ってたら、何で収納の指輪に入れとかないのかって突っ込まれちゃうだろ」
なぜ? と思っているとアリス先生が指摘する。そういえば不自然だな。
「それなら収納の指輪は隠しておくほうがいいか」
「そうだぞ。結衣ちゃんのも外しておくんだぞ」
言われて結衣の指輪を外そうとしたら、結衣は疲れたのか眠っていた。
「結衣、結衣。街に近いから、そろそろ起きろ」
優しく揺すって起こすと、眠そうに目を擦りながらも自分の足で歩いてくれた。
「ん~…………おはよー叔父ちゃんとアリスお姉ちゃん」
「おはよう結衣ちゃん。勇人はオークを引きずっていかないといけないから、ごめんだけど少しだけ頑張ってね?」
結衣の指輪を外しながら涎を拭いたりしている。
オレは周りに人がいないのを確認して、オークを出したら指輪をしまう。ポケットは破ってしまったのでアリス先生に渡した。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ…………んっ。や、やっと着いたか」
オークを引きずって疲れ切ったオレとしては、さっさと街に入って水を飲みたい。生水は危なそうなので安全を確かめてからのほうがいいだろう。
「勇人、お疲れ~。列に並ぶぞ~」
「結衣も手伝いたかったのに~」
結衣やアリス先生が手伝うと目立つしな。権力者の性格も知らずに目を付けられたくない。
しかし、オレがオークを身体強化もせずに引きずってきたために、すでに目立っている気がするが。
商人だと門番の数が多いほうみたいだ。商品をチェックされている。収納の指輪を持ってる商人は、指輪も調べられるようだ。
アリス先生は収納の指輪をパンツの中に隠していたから予想していたんだろう。
ポケットや、チェーンで首から掛けていないかなどは調べられているが、パンツの中までは調べないようだ。
商人でない人のチェックは甘いのは何でだ? 税金の取り方が違うのか?
それとも、関税みたいな税金はなくて、麻薬とか禁制の品を調べてるだけか?
商人によって、払う金額は変わっているので、やっぱ関税はあるのか?
「ん? どうしたんだ勇人」
黙りこんだオレを心配して、アリス先生がオレの目を下から覗きこんだ。
「商人は人によって払う金額が違うのに、オレたちと同じ列に並んでいる人は、金額が同じでチェックも甘いのは何でかと思いまし、思ってな」
オレはどうしても解らなくて、アリス先生に素直に聞いた。
「アタシも知らないけど、商人のほうは税金を誤魔化せないように商品を把握したいんじゃないか? 行商人だと国を移動することもあるからな。あと馬車の重量によっては道が荒れるし、道の修理費用の通行税が変わるんじゃないか?」
なるほど。所属する身分や職業によって徴収の仕方が違うのかもしれないな。自国に住む人からは取りっぱぐれない徴収の仕方なんだろう。
収入のあった時点で徴収される仕組みなのかもしれない。源泉徴収とか言うんだっけ?
商人は仕入れの金がないと商売に支障が出るから、税金の徴収方法が普通の人たちとは違うのか? 商人ギルドとかで一括しているのかな。冒険者は日雇い労働者みたいに徴収されるのかも。
「お待たせしました。身分証の提示をお願いします」
ようやくオレたちの番になった。意外に丁寧な対応だけど、門番としては正しいと思う。
街に人が来なくなっては困るだろうし、お忍びで権力者が通る可能性や、実力者が通る可能性もある。
傲慢な態度をとって印象を悪くすると、自分の立場が危うくなりかねんし。
「身分証なんですけど、魔物に襲われた時に服が破れて、いつの間にか落としちゃって。財布も」
「すごく恐かったの!」
結衣が1番怖がってたのは、アリス先生だが。オレも100年の恋も醒めるかと思ったぜ。
3人分まとめて持っていたことも告げると、門番は少し考えるような顔でオレの服装とオークの死体を見て納得した。
「魔物を倒して稼ぐつもりなのですが、オレたちの税金などはいくらですか?」
「ああ。冒険者になりに街に出てきたということですか?」
やはり冒険者という職業があったか。
「後ろの2人は妹さんですか?」
「黒髪の子は兄夫婦の娘で、金髪の子は近所の子です。オレたちは親にはもう会えないので一緒に頑張ろうかと」
嘘を信じさせるコツは、真実を混ぜることだと本で読んだのでやってみる。
「そうでしたか。若いのに2人も面倒を見るなんて大変ですね。……君たちの入市税は1人小銀貨1枚、1000シリンですけど払えますか? 払えないなら立て替えて後日に払うこともできますが」
宿代もあるし、借りたいけど借金は嫌だ。
魔物の素材や石で払うことはできるか聞いたら、魔石なら可能とのことなのでオークとゴブリンの魔石で払う。魔石が正式名称なのか。
オークはなかなか大きい魔石だったので1万シリン、ゴブリンの魔石は1つ1500シリンだった。
「では入市税を引いて1万4500シリンです。確認を」
結衣とアリス先生は女性の門番が、オレは男の門番が服の上からチェックした。
「危険物などは持っていないようなので、もう街に入ってもいいですよ。ようこそユアンへ」
街の名前はユアンというらしい。いろいろな情報を集めないと、どこかでボロが出そうだ。