褒美で生活は安泰だ
数日間の城でのグータラ暮らしに慣れたアリス先生は、未だにメイドメイド言っている。
褒美を天の錫杖からお金に変えて、そのお金でメイドを雇おうかなどと真剣に悩んでいる。
そんな城暮らしも明日には終わる。
謁見の日がようやく来たのだ。
そのあとに祝賀会が行われ、飲み食いをしてから明日には城を出る予定だ。
謁見の時は正装をするらしく、今は出来上がった衣装を合わせている。
結衣もドレスにはしゃぎ、お付きのメイドが苦労して着せた。
アリス先生に用意されたドレスは子供っぽく、よく似合っていたが、メイドたちの可愛いと言う絶賛を微妙な顔で受けていた。
マリーナは貴族なだけあって、ドレスも着なれているのか、可愛いながらも優雅さが隠せない。
作法を確認しているのか、カーテシーをしながら挨拶の練習をしている。
オレも中世の騎士とかが着てそうな礼服を着せられた。
ブーツが窮屈だし、首に巻いたヨダレ掛けみたいなネクタイ? が邪魔くさいな。
こんなの着て祝賀会に出ても、飯が喉を通りそうもないな。
着替えを終えて、お互いの衣装を見せ合っていると、時間がきて近衛騎士が呼びに来た。
メイドを連れ謁見の間に向かう。先導する騎士はドレス姿の女性陣を気遣ってか、ゆっくり歩いている。
まさか騎士が、歩くのが遅いなどということはないはずだ。
広いので5分は歩くはめになり、馴れないヒールを履いている結衣とアリス先生は、オレが抱っこして連れて行った。
途中でオッサンたちと合流して、その似合わない格好をした冒険者たちを茶化しながら進む。
階段を上がると、広い空間に巨大な扉がある。その両端に槍を持った兵士が直立不動で待っていた。
「冒険者さま御一行、到着なさいました!」
恐らく中に居る人に伝えているんだろう。中に居る気配が慌ただしく動いた。
兵士が扉を開けると、立派な絨毯が玉座まで続き、左右に貴族らしき人たちが並んでいた。
騎士に先導され、絨毯の上を歩く。騎士の人とメイドたちは絨毯を避けて進んだ。
この日、絨毯の上を歩いていいのは、オレたちと陛下だけだと、絨毯の外を歩いていたレイラが、小声で教えてくれた。
30mくらいは歩き、玉座の前まで辿り着くと、まだ跪かなくていいらしい。
メイドたちが小声で作法を教えてくれるので、なんとか格好が付きそうだ。
玉座の後ろには、左右に分かれて近衛騎士が立っている。感情が見えない真顔だ。
結衣と一緒にキョロキョロしていると、奥の扉の前に立っていた騎士が、扉を開けた。
「サイラス・ロードリック・カウニスハーナ陛下、御出座!」
「跪いてください。面を上げよと2回言われたら顔を上げてかまいません。ラクにしてよいと言われたら最低限の礼儀で大丈夫です」
事前に軽く聞いていたが、本番で咄嗟にできないので、メイドに改めて言われ、片膝を突く。
護衛の近衛騎士以外は、周りの貴族も全て片膝を突いて顔を伏せた。
顔を伏せる理由は、かなり前の王が、玉座に向かう時にコケたらしく、家臣は笑わないように我慢したらしい。
なので準備できたよという合図があるまで、顔を上げない作法を作ったらしい。
王が恥を掻かないようにするのと、笑って立場が悪くならないようにと、お互いのためらしい。
王の足音が、階段を上がる足音に変化した。
椅子に座る音が聞こえて、王が口を開く。
「面を上げよ…………構わぬ、面を上げよ」
2回言われたので顔を上げる。
30代後半くらいの渋いヒゲのオジサンが居る。
柔和そうなオジサンなので、結衣が怯えたりはしないだろう。見た目ならランドのオッサンのほうが恐いだろうからな。
「宮廷作法など必要のない民に、作法を守れなど無茶だろう。ラクにせよ。余も作法を気にせず歓談したい」
ラクにしていいと言われたので、貴族が立ち上がる。メイドも立っていいと言うので、オレたちも立ち上がる。
自分からは話し掛けずに、王の言葉に返事すればいいらしい。
「冒険者たちよ。此度の国への貢献、余も嬉しく思う。褒美を取らすゆえ、受け取ってくれるな?」
受け取ることは決まっているのに改めて聞くのは、この褒美に満足してますよ、というアピールを周りにするためらしい。
あの国の王は満足な褒美も出せないと言われたら、この国のために働こうと思う人が少なくなるそうなので、対外的なアピールが必要らしい。
「はっ。有り難き幸せに御座います」
ランドのオッサンが代表して答えてくれたので、オレたちはボーっとしていよう。ボーっとはダメか。
「うむ。此度の功績は多大な物だ。もう少しでヴォールディア帝国に奇襲を受ける所だった。帝国は周囲の国を狙っているのだ」
今回の件も帝国の仕業と見られているそうだが、証拠がないので文句も言えないらしい。
国境での小競り合いはいつものことらしいが、今回は国軍を動かしていたら、本格的に戦争になっていたらしい。
それでオレたちの扱いが凄くいいのかな? 王も事後処理を終えて、すぐに謁見ってことになったらしいし。
祝賀会の準備もしていたそうだから、時間が必要だったというのも有るだろうけど。
「……ほう。それではユートとやらがゴブリンロードの相手をしたと言うのか。それは凄いな!」
オレが考え事をしている内に、ランドのオッサンが、王に請われて武勇伝を語っていたらしい。
「ユート、歳はいくつだ? 見たところ若いようだが」
「オレは16です。もう半年もすれば17になりますけど。それと、オレだけで戦ったわけじゃありません」
王に聞かれたので普通の言葉で答える。
王も嬉しそうにニコニコして、ウンウン頷いているので問題ないようだ。
「若いのに謙遜する必要はない。若い者は自信を持たなければな。そちが居なければ倒せなかったとランドは申しておる」
別に謙遜ではなく事実なんだけど。
「何にせよ、我が国にはゴブリンロードを十数人で倒せる兵はおらぬ。素晴らしい功績だ」
国が助かったからか、王は上機嫌らしい。
褒美に男爵位があった事を考えると、かなり喜んでいるだろう。
それからも、オレたちの武勇伝を聞きたがったが、結衣のお腹が鳴ったので早目に切り上げてくれた。
「すまぬな、ユイ。子供がいるというのに長話をして。ユートたちの活躍が聞きたくてな」
王が恥ずかしそうにお腹を押さえている結衣に声を掛ける。
「結衣は子供じゃなくて、レディーだからだいじょぶです!」
「フフフッ、これは失礼した。レディに対する物言いではなかったな」
優しい王でよかった。
「では祝賀会の時間もある、略式で褒美を渡そう。1人ずつ呼ぶので前に出よ」
ここでもメイドが小さな声で教えてくれた。
大臣に呼ばれたら前に出て片膝を突いて、顔は上げたままで待つそうだ。
年齢順に呼ばれているらしい。16のオレは最後に呼ばれる。
年齢はマリーナと同じだけど、マリーナ自身は爵位がないから貴族ではないけど、貴族の娘なので先だ。
アリス先生がオレより先に呼ばれた時は、並んだ貴族も驚いていた。
「最後にユート殿。前へ出られよ」
言われて王の前に出る。
「ユートへの褒美は希望通りメイドの派遣だ。誰を希望する?」
「ええっ! メイドさんが家に来るのか!」
アリス先生が小躍りして喜ぶ。
「んんっ、それでユート殿、希望するメイドは?」
大臣が咳払いして話を戻す。
「はい。オレに付いてくれたレイラを希望します。さすがは王妃殿下の選ばれたメイド。とても快適に過ごせました」
「うむ。ではレイラよ、そちは異動だ。今後の職場はユートの所だ。給金は国から出す。特別手当ても付けるので励むがよい」
レイラはあまりの事態に驚いているが、オレは世話役の騎士ダリルさんを通じて、知っているので驚かない。
ダリルさんと相談した結果、職場環境が悪いからではなく、王妃が選んだ優秀なメイドだから派遣する、という形になった。
これで波風が立つこともなく、レイラの職場環境は変わり、給料アップまでする。
「……どうした、レイラ。異動は不服か?」
驚いて固まっているレイラに王が声を掛ける。
「い、いえ! 滅相もございません。ユートさまにお仕えいたします」
珍しく慌てているレイラを見ると、これが素のレイラなんだろうな。
「レイラ、結衣の世話は任せるから、よろしくな」
「はい! ユートさま、ありがとうございます!」
嬉しそうに頭を下げるレイラ。褒美を変えて貰ってよかった。




