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オレたちの日常

 数日間のメイドの世話で、すっかりダラケてしまったアリス先生。

 部屋に行くとメイドに通され中に入る。

 ソファーにワインを飲んで酔っ払ったアリス先生がいた。


「あ~、久々に大人扱いされた~。メイドさん大好き~」


 メイドはプロ根性が凄かったのか、アリス先生が年齢を伝えてもピクリとも驚かず、ワインなどはお飲みになりますか? と聞いてきた。

 オレから見ても表情に変化もなく、びっくりして硬直するでもなく、流れるような実に見事な応対だった。


 それに気をよくしたアリス先生は、毎日ご機嫌でワインを飲んでいる。

 最初は大人っぽさを意識して、アタシって色っぽいか? と言いながら物憂げな感じで飲んでいたが、雨の日に遊びに行けずに退屈そうな子供みたいな可愛い顔ですねと言ったら、やさぐれて酔っ払っらいになった。


「メイドさんはいいよな~。アタシを大人扱いしてくれるし……はっ! そうだ! メイドさんを100人雇おう! 勇人、もっと稼いでくれ!」


 いよいよアホなことを言い出した。

 あんたは有閑マダムか。


「稼ぎはしますけどね、メイド100人は多いですよ。屋敷があるわけでもないのに」


「む~、なら50人は?」


 とてて~とオレの所に走って来て、服を掴んでおねだりする。

 お菓子売り場によくいる、子供みたいな可愛さがある。


「50人も必要ないですよ。ギルドの部屋を借りてる内は仕事がないですから」


 王の対応を見てからだけど、今の扱いを見る限り、傲慢ではないみたいだから、家を借りてもいいかな。

 王都に家があれば生活に便利だし、結衣も退屈しないで留守番できそうだ。


「なんにせよ、メイドは1人が限度ですよ。50人なんて無理ですって」


「ちぇ~。右を向いても左を向いても、上を向いても下を向いても、メイドさんが大人扱いしてくれる夢が……」


 アリス先生は小さいから上を見てもメイドは居るだろうが、下は居ないと思う。



 結衣の部屋に遊びに行くと、テレビに釘付けでメイドに世話をされている。

 正確には煌力送受信映像モニターと言うらしいが、オレたちはテレビと呼んでいる。

 まだ煌力の電波っぽいものを飛ばす技術が低くて、王都と機煌(きこう)都市マキナにしか発信されていない。

 発信する設備は機煌都市にしかないし、受信するにもデカイ設備が必要だからだ。

 テレビを見るにはテレビを買ってきて、契約をすれば誰でも見れる。


 オレも煌力を感じて遠くを探るのは1kmくらいまでだし、形が判る程度だ。

 ちなみに機煌都市マキナは煌力製品の研究開発をしている街らしいので、オレも煌力を理解してパワーアップするために行ってみたい。


「結衣、メイドが片付けてくれるからって、お菓子をポロポロ溢すな」


 こちらの世界では娯楽が少なかったから仕方ないが、テレビを見ながらお菓子を食べて、メイドに口を拭いて貰うのは注意しとかないと。


「あむあむ……ごめんなさい、叔父ちゃん」


「オレに謝るんじゃなく世話してくれた人にな」


「うん! メイドのお姉ちゃん、ごめんなさい。あとありがとうございます!」


 結衣がペコリと頭を下げる。


「滅相もございません。ユイさまのお世話はしっかりさせていただきます」


 メイドも頭を下げるが、オレからすると違和感がある。結衣もアレ? って顔をしている。

 テレビに映る可愛らしい女の子が、そんな2人をニコニコして見ているようだった。しかし可愛い娘だな。アイドルか?



 マリーナは部屋には居なかった。

 毎日のことなので練兵場に足を向ける。

 廊下に飾られている絵は高そうだが、オレにはさっぱり解らないので、レイラが教えてくれた。

 どこそこの戦いを切り取った物だとか、神の御姿を想像で描いた物らしい。

 神の絵は全然似ていないのでアレだが、戦場の絵は臨場感が有っていいな。


 途中で貴族に娘を紹介されたりしながら、練兵場に到着すると、金属音がかなり煩い。

 砦にも有った結界で、音が漏れないようになっていたので油断した。


 マリーナは女性騎士と勝負しているが、かなり圧倒していて余裕が見える。

 腕はほんとに良いんだよな。時々ドジだから安心して見てられないんだが。


 突き出される剣をしっかり受け止め、鍔迫(つばぜ)り合いからふっと力を抜いて崩すマリーナ。

 前によろけた相手の腹を柄尻(つかじり)で打つ。そのまま首筋に剣を添えた。


「それまで!」


 終了の合図を聞いて、戦っていた2人は騎士の礼を交わす。

 マリーナ付きのメイドがタオルを渡すと、汗を拭き始めた。

 途中でこちらに気付いて走り出すが、急に止まり、汗をしっかり拭いて、収納の指輪から出した香水を使う。

 匂いが気になるようだけど、ゴブリンロードの時に凄い匂いだったから、汗の匂いくらい気にならないんだけどな。


「旦那様、お待たせ! ……香水を買ったんだけど、この香りは好き?」


 恐る恐る聞いてきたので、首の辺りを嗅いでみる。


「そんなに匂いを嗅がないでよ! 恥ずかしいでしょ!」


 どうかと聞いてきたからなのにな。

 真っ赤になってモジモジしているので、あまり近付かずに嗅いだ。

 あまりキツい香りではなく、ケーキみたいなふんわりした甘い香りだった。


「なんか美味しそうな匂いで腹が減るな」


「……微妙な感想だけど……気に入ったならよかった……」


 赤い顔のまま、小声でホッとする。


「そうだ! 旦那様も毎日訓練してるでしょ? 騎士たちと戦っていかない?」


 確かに修行はしてるけど、実戦訓練はしてないからやっといたほうがいいか。

 オレは騎士たちに声を掛けて、訓練に参加させて貰った。 騎士団長を含めた騎士と兵士全員と同時に戦ってみると、ゴブリンロード軍団とは違った手強さを感じる。


 ゴブリンの群は強化された力と、恐れを知らない防御を捨てた猛攻だが、騎士団は連携が上手い。

 とくに防御に徹すると、オレも身体強化しなければ、こじ開けることが難しく、直撃を入れるのに数撃を必要とする。

 殺すつもりで攻撃すれば簡単だろうけど、手加減していると少し厄介だ。


 仕方ないので戦法を変え、騎士団長などの指揮官から倒していった。

 すると連携が崩れて、一撃目で直撃を許すようになり、あとは時間の問題だった。


 最後の兵士を蹴り倒すと、マリーナが跳びはねながら喜んだ。

 500人くらいいたが、1時間は掛かっていないので、それほど疲れてはいない。


「英雄の力は凄まじいな。手加減されたあげくに我が隊が全滅するとは」


 騎士団長が兜を脱ぎ、手を差し出してくる。

 汗に濡れた手に力は入っていないので、相当疲労したんだろう。

 握手のあと、騎士団長は部下を怒鳴り付け、訓練のやり直しをし始めた。

 騎士団長自身も基礎訓練をして、体力を鍛えるつもりらしい。

 オレがあまり疲れてないのは、体力が化け物じみているのではなく、無駄を極限まで省いて戦っているからなんだけどな。


「すごいすごい! 旦那様が最強よ!」


「ユートさま、汗をお拭きください」


 マリーナが首に両腕を回して抱き付いて、レイラはどこからかタオルを持って来てくれた。

 戦う予定は無かったから、戦闘中に持ってきたか、予想して用意していたか。



 ランドのオッサンたちも捜してみたが、街に呑みに出たらしく部屋に居なかった。

 城で呑めばいいのに、上品な場所だと楽しめないそうで、安い酒場で宴会するらしい。


「あれ~? ん~? あははははは」


 部屋に戻るとアリス先生と結衣が居て、酔っ払っいがフラフラとオレに近寄り、顔を凝視して笑っている。


「勇人が増えた~! これで稼ぎは3倍だ~! メイドさん1000人雇うぞ~!」


 雇うメイドの数が増えてるな。


「はいはい、アリス先生。酒瓶を抱えてないで、水を飲みましょうね」


 ウイスキーらしき瓶を抜き取ろうとすると、アリス先生が抵抗したので、指先で煌力を使い、意識を刈り取った。



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