メイドの事情
敬語を使っていたら、客のオレに敬語を使わせたら叱られてしまうと言うので、普通に話すことにした。
食事も風呂も用意しているらしいので、とりあえず旅の垢を落としたい、ということで風呂に案内して貰う。
オレの前を静静と歩くレイラ。背がオレの胸の辺りまでしかないので、前がよく見える。
「お客さまはお風呂がお好きなんですか?」
歩きながら振り返って、間を持たせるように会話する。
「オレは入れるなら毎日入りたいよ」
「お風呂って気持ちいいですよね! 私も好きなんです。村では入れなかったですから」
レイラは村出身のようだ。
「王城で働くなんて優秀だな。村人が王城に勤めるのは難しいんじゃないか?」
礼儀作法が必要なはずだから、実家が裕福なのかもしれない。
「えっと、優秀かは分かりません。ですが珍しいのは確かです。私はコネみたいなものです……」
「村人にどんなコネが?」
「……昔、王妃殿下が視察をなさいました。その帰り道にご病気になってしまいまして、それで私の村にいらしたんです」
なるほど、休んでいったのか。
「それで、村長の家にお泊まりになったのですが、村長の家には女手がなくて、お付きの侍女の方も村では勝手が分からず、私がお世話させていただくことに」
王妃の侍女なら貴族の出なんだろうから、便利な道具が家にあったんだろう。
「それで王妃殿下が褒美にと、王城に呼んで下さったんです。お蔭様で実家に仕送りもできます」
さすがに王妃には付かないんだな。
しかし働くのが褒美って、オレなら嫌だけどな。
風呂に着くと、レイラが服を脱ぐのを手伝ってくれる。子供じゃないんだから、別に必要ないんだけど。
タオルを腰に巻き風呂場に向かう。レイラも付いて来るらしい。
メイド服のスカートの裾や袖を捲り、桶でお湯を汲んでくる。
座ったオレに優しくお湯を掛けながら、熱くないか聞いてきたりと、行き届いていらっしゃる。メイドすげえな。
「メイドって大変だな。オレは気楽な冒険者でよかったよ。オレにはとても無理だ」
「馴れれば大変ではありません。私には冒険者のほうが大変だと思います。今回だって命懸けで国を守っていただいて……戦う力のない私は何もできませんから」
得意なことだとお互いに大変とは思わないんだろうか?
男だから手に入れた力を使いたくなるのは、当然だと思うので、戦うのは嫌いじゃない。日本じゃ武術の使い道もないしな。
「下はいいよ。恥ずかしがってるし」
「いえっ! お世話をするように言い付けられておりますので」
と言っても、オレも15~16歳の女の子に洗って貰うのはちょっとな。
「オレも恥ずかしいし、あとは自分でやるよ」
そう説得して外で待って貰った。
全身をしっかり洗って、湯船に浸かると、旅の疲れが抜けていく。
レイラの説明では、湯を出す煌力製品に僅かに回復の力があるらしく、店では滅多に入荷しない最高級品だそうだ。
疲れが癒えるまで湯船に浸かり、のぼせたので風呂を出る。
脱衣所に出て体を拭いていると、外から女の子の話し声が聞こえた。
「……ですから、お客さまのお世話をしているのです!」
レイラの声だが、憤ってるような調子だ。
「あなたみたいな田舎者の平民が、英雄のお世話なんて出来ないでしょ!?」
「私が田舎者なのは確かですけど、お世話を任されたのは私です! 私たち戦えない者のために命懸けで戦って下さった方ですから、誠心誠意、お世話をさせていただきます」
別のメイドと喧嘩中か? オレの世話をするのを揉めているようだけど。
相手は貴族出身の行儀見習いのメイドか? なんでオレの世話で揉めるんだ?
英雄って言ってるから、英雄が好きでレイラに文句を言ってるのか?
「あなたには勿体ないって言ってるの! そこを退きなさい!」
「いいえ、退きません! お客さまは寛いでいらっしゃいます。誰もお通しできません」
貴族相手に立場が悪くなるんじゃないか? 割って入ったほうがいいか?
それとも、オレがかばうことで、余計に立場が悪くなるのか? 女子の嫉妬は怖いと言うしな。
喧嘩に気付かないふりで、タオルをくれと言えば喧嘩は止まるかもしれない。
「レイラーーー! タオルをくれるか?」
風呂場に戻って叫ぶ。
少ししてから、レイラが脱衣所に入ってくる。
「濡れてないタオルを巻いて上がるから、着替えを手伝ってくれるか?」
「はい、かしこまりました。すぐにお拭き致しますね」
気配が遠ざかって行ったな。さすがに客の前で喧嘩するわけないもんな。
無事に風呂を上がり部屋に戻る途中、少しだけ事情を聞いてみた。
「聞かれていたんですね……申し訳ございません。お見苦しい所を」
「立ち聞きして悪いな。風呂から上がったら言い争う声が聞こえたんでな」
「そうでしたか。ユートさまがお気になさる必要はございません。あのような場所で言い争いを始めた私が悪いのです」
突っ掛かってきた相手が悪いと思うが、客には責任の所在は関係なく、不快にさせるのがダメだということだろう。
「で、あのまま逆らい続けたり、オレがかばったりすると立場が悪くなるんじゃないかと心配してな、あんな方法で中断させたんだ」
根本を解決しないと意味はないけど、悪化するよりはマシだからな。
「ああいうことは普段からあるのか?」
「……はい。愚痴になってしまいますが、本来、私のような者が居る場所ではございません。ですので、よく思われない方はいらっしゃいます。しかし、王妃殿下に褒美と言われては断ることもできずに」
給料がよくても職場環境が悪いんじゃなあ。
メイドさんとすれ違ったので話を中断して部屋に急いだ。
部屋に戻ると、続きを促す。
「お飲み物を用意致します。何になさいますか?」
風呂上がりで喉が渇いていたので、冷たい水を頼んだ。
水を一口だけ飲んで話を聞く。
「実家は貧しいので、仕送りができるのは感謝していますが、正直に言いますと窮屈なのです。ここに来て作法などを習いましたが、生まれは貧しい農家なので」
場違い感があるんだな。
オレも地球に生まれたのが間違いな気がしてたし、武術が振るえず窮屈さは感じていたし。
オレを養ってくれた兄貴には悪いけど、今はとても充実している。
「オレには普通に話してくれて構わないぞ。その話し方が窮屈なのはオレも同じだし」
「そう言っていただけるのは感謝いたします。ですが王城のメイドですので」
別の仕事に就くのは無理だろうな。お前の褒美は気に入らないと言うようなもんだ。
どうしたもんかな。オレから伝えても角が立つしな。
お前の所の職場環境が最悪だから、別の仕事を用意してやれよと言ってるからな。
「あまり気になさらないで下さい。英雄のお心を煩わせては……」
仕方ない。まずは腹ごしらえをしてから考えよう。
レイラに食事にすると伝えて用意して貰う。
ラビットボムの肉は見た目も凄く旨そうだったが、微妙な見た目の食事も多い。どれも旨いのが切なくなるな。
いい加減に食事に慣れないと、偉い人との会食とかでヤバいことになりそうだ。
「美味しかった、ありがとう」
「では、お下げ致します」
食器を持ってレイラが部屋を出ていく。
窮屈な居場所で生きていくのはツライよな。オレならとても耐えられない。ゴブリンロードに2~3発殴られるほうがマシだな。
案内役のダリルさんに会いに行こう。いろいろと聞きたいこともあるし、頼みもある。
書き置きを残して部屋を出る。近くのメイドにダリルさんの仕事場まで案内して貰い、ダリルさんに確認してから頼み事をした。




