連携訓練
完全に疲れを取るため、2日間まったく仕事をしなかったオレたちは、新しく仲間に加わったマリーナとの連携訓練をしていた。
マリーナも冒険者ギルドに所属を移し、オレと先生も戦闘ランクが上がったから、仕事も兼ねての討伐依頼を受けた。 現在は、討伐対象がいる場所に行くまでに弱点が判明してしまったので相談中だ。
「アタシがもっとちゃんとしてれば……ごめんな~」
つり目気味の可愛い目が、たれ目になるほど落ち込んでしまった。
結衣はウサギの魔物が可愛いかったので、ニコニコしている。
「可愛いくせにむかつく! ぴょんぴょん避けて当たらないじゃない!」
そうなんだよ。小さくて素早い魔物に、アリス先生は魔法がさっぱり当てられず、マリーナにいたっては全速力で走らないと追い付けもしない。
そしてそんな体勢で剣を振っても、上手くいくはずもなく、ムキになるうちに顔面から木に激突してしまった。
「身体強化しても命中率が上がるわけじゃないもんな~。アタシはダメ教師だ……」
「対人訓練しかしてないんだから! アタシが不器用だからじゃないから!」
「またウサギさん来ないかなぁ?」
アリス先生はもう教師じゃなくて冒険者だし、マリーナのドジの片鱗は出会った時に見てるから誤魔化しは無理だろ。
結衣はウサギに会いたいのかもしれんけど、アリス先生たちは会いたくないと思う。
「素早い奴はオレが倒すということで」
「生徒におんぶに抱っこじゃカッコ悪いだろ~。カッコつけるために禁酒してるのに」
酒を飲むのがカッコ悪いのではなく、酔っぱらうのがカッコ悪いんだと思う。
て言うか、アリス先生はカッコつけてもしょうがないと思うんだが。可愛さを推せばいいと思う。
そう伝えると、「それじゃあ寄ってくるのはロリコンなんだよ……」と、借金で首の回らない工場経営者みたいな顔で言った。
諦めた人間の乾いた笑顔は、こっちまで落ち着かない気分になるな。
もはや首を括るしかない、みたいな顔で言われても。
「動きを止めてから撃つか、広範囲攻撃か、先読みして当てるしかないですよ?」
案1。マリーナが追い回して、止まったタイミングでアリス先生が撃つ。
おそらく連携が未熟でマリーナに当たるか、当たるのを恐がって撃てない。
案2。広範囲で避けられない攻撃をする。
おそらく広範囲攻撃だと味方を巻き込んだり、壊したらダメな物まで壊しそう。限定された状況でしか使えない。
案3。動きを先読みして着地のタイミングや、跳んでる最中を狙う。
そもそも、出来ないから当たらない。
「地道に頑張るしかないな~。それまで勇人に任せるよ」
まるで死ぬ間際の老人のような穏やかな表情だな。
軽く小石を放ってみる。
「いたっ! なにすんだ! 先生がキライなのか?! 悲しいぞ」
「いや、嫌いになるわけないでしょ? 動く物に反応できるかな、と思って投げたんですけど、根本的に反射神経が鈍い気がしますね」
練習してもムダな気がしてきた。
「なんだ、そうか! キライになっちゃったのかと思って焦ったぞ?」
すぐに誤魔化される人だな。見た目もあって心配だ。
なんにせよ、すぐに解決する問題ではないので、目当ての魔物を間引きに行こう。
「ねえ、叔父ちゃん。さっきのウサギさんのお名前はなあに?」
煌力を探って見つけた魔物の巣に向かって歩いていると、結衣が疑問をぶつけてくる。
「あれはラビットボム。速いんで倒しにくいし、一撃で倒さないと自爆する。そのうえ肉がメチャクチャ美味しいらしくてな。高価なんだ」
ちょっと惜しかったけど、生息数は多いらしいので、また見つかるだろう。
「可愛いのに食べちゃうの?」
やっぱり子供を連れて狩りはアレかな?
「結衣ちゃん。可愛いけど飼えないんだよ。それにお肉は自分で獲らなくても、誰かが獲ってくれる。お蔭でアタシたちがお肉を食べられるんだから、ひどいと思わないで感謝して食べようね?」
言葉に詰まるオレに代わって、アリス先生が現実を教えてくれた。
甘やかすのはよくないと思ってても、つい甘やかしてしまうな。
「……う~…………ウサギさんも好きだけど、美味しいご飯も好き!」
何かが結衣の中でせめぎ合っていたみたいだけど、食欲に負けた? 食欲が勝った?
とにかく美味いメシに勝てる生物って、そんなに居ないよな。
「ニードルウルフの群はもうすぐだ。背中の毛を硬くして飛ばすから気を付けろよ」
風下から近付いて、もう100mくらいの位置で確認を取る。
「アタシが炎の広範囲魔法で毛を燃やすから、止めは勇人とマリーナでな!」
「わかったわ姉様! 私がみんなに近寄らせない!」
準備が終わったので、結衣が強化魔法を掛けてくれた。
「みんなかたくなれ~」
気の抜ける結衣の声と共に、オレたちの体に魔力の薄い膜が張られた。
みんなを付けると全体魔法になるらしいが、結衣の魔法の原理はよく解らん。
「じゃあ撃つからな? ファイアウェーブ!」
前に突き出したアリス先生の両手から、半円に放射された炎の波が、ニードルウルフの背中を焼いていく。
キャンキャンと負け犬みたいな声を上げて、背中を地面に擦り付けて消火に必死だ。
オレとマリーナが飛び出し、次々に仕留めていく。
ラビットボム相手には発揮されなかったマリーナの剣が、ニードルウルフには威力を発揮した。
新調した剣を思うように操って、一撃で首を刎ねている。やっぱり腕は悪くないんだよな。
「まもってあげる!」
後方で響いた結衣の声に振り向くと、1匹の討ち漏らしがアリス先生に飛び掛かっていた。
しかし、結衣が張った結界魔法に阻まれて、透明な壁に張り付いていた。
「ストーンランス!」
そこにすかさず、アリス先生が魔法で攻撃をする。
あの2人なら大丈夫そうだ。オレはマリーナのフォローをしよう。
「やあ!」
前だけ見て首を飛ばしているマリーナ。
その背中に襲い掛かるニードルウルフを蹴り殺していく。
アリス先生も魔法の練習をしているのか、オレたちから離れた位置にいるニードルウルフを撃っている。
外れても焦ることなく次を撃つ。微妙に曲がっていたりするので、撃ったあとに操作する練習だろう。完成すれば命中率は格段に上がるだろう。
10分もせずに200匹ほどの群を全滅させると、ニードルウルフの死体を収納していった。
ゴブリンロードの軍と戦ったから、物足りない相手だったな。
「仕事は終わったし、あとは帰って魔法の練習をしよう! アタシの魔法がもう少しで上手くいきそうなんだよ」
まだ余裕はあるけど、実戦で練習は危ないので賛成だ。
「私も! 早く帰って剣の手入れをしたい!」
新調したばかりなので大事にしたいのは解るけど、女の子が剣を大事にするのは、日本人には違和感が。
女の子の言い分に逆らってもムダだと思うし、オレも魔法の練習は必要だと思うのでギルドに報告に帰った。
受付けに報告をすると、王からの遣いが来ていると言われたが、先に人払いされた奥の倉庫に連れていかれて、ニードルウルフの死体を全部出した。
肉は食べないので、毛皮と牙が売れるらしい。ついでに指輪に入れっぱなしだったオークも買い取って貰った。
避難民がいるのと、ゴブリンロードとの戦いで消費したので、食糧が不足しそうだったらしい。
復興に必要なので、木などの魔物の素材なども少し高く買い取りしているそうだ。
査定する間、王都から近衛騎士が待っている応接室に通された。
ノックして入ると、ソファーから立ち上がった近衛騎士が胸に手を当てる礼をした。
「初めまして。陛下から御言葉を賜っております。お伝えしてもよろしいでしょうか?」
近衛騎士も偉そうじゃないな。よかった。
オレたちはソファーに座り、近衛騎士の言葉を待った。




