帰還
砦に帰還したオレたちを、兵士が歓声で出迎えた。
すぐに医務室に向かうように言われたが、重傷者を優先してもらって、治療道具だけ借りて部屋に戻った。
マリーナも自分の部屋があるんだけど、オレたちの部屋に泊まるつもりのようだ。
「オレが手当てをするんで、怪我を見せて下さい」
「お前のほうが酷い怪我じゃん! アタシが先に治療してやる!」
アリス先生が駄々を捏ねたので、マリーナから治療することにした。
「服を脱ぐけど、ジロジロ見るのは結婚してからだからね!」
ゴブリンは汚いから、早く消毒とかしておいたほうがいいよな。消毒だけは先に全員のをやっとこう。
「ちょっと! 無視しないでよ」
考え込んでいたオレに真っ赤になったマリーナが詰め寄る。
「まずは消毒だ。バイ菌が入ったら困るし……これを飲むのか?」
解毒薬と書かれた小瓶から3粒取り出して、アリス先生とマリーナに渡した。
「ゴブリンは毒なんて持ってないわよ?」
「効能的には抗生物質の代わりになるはずだ。念のために飲んどけ」
水差しからコップに水を注ぎ、アリス先生が持ってきてくれた。
3人で薬を飲み、手をお湯とセッケンで洗ってから傷薬を塗る。前に温水発生機を買っといてよかった。
煮沸消毒した布を当てて包帯で固定した。結衣が居たら浄化して貰えるんだけど。
「今日はもう寝ようか?」
「……私はお風呂に入りたいな」
眠そうながらも汚れを気にするあたり、女の子は大変だな。
「お風呂は明日、包帯を替える前に入ればいいじゃんか」
アリス先生は人一倍体力がないので、もう目蓋が落ちそうだ。
どのみち、傷が塞がってからのほうが痛くなくていい。傷に沁みて風呂が気持ちいいどころじゃないし。
3人とも下着姿のままベッドに潜り込むと、マリーナが気を失うように眠った。
アリス先生は自分の小さな胸を見て、マリーナを羨ましそうに見てから毛布を被っていたが。アリス先生よりは大きいからな。
はぁ、オレも死ぬほど疲れた。明日には血も固まってるだろうし、風呂でゆっくりしたい。
ぐっすり寝て疲れを取ったオレたちは、風呂に入ってさっぱりしたあと、包帯を替えて司令官の所に向かった。
部屋に入るとランドのオッサンたちが居て、司令官が書類仕事をしながら話をしていた。
「呼び出してすまんな。報告は部下から聞いているが、冒険者諸君からも聞いて上に報告しなければならん。論功行賞に必要でな。我が主から報酬が出るだろうが、主から陛下にも報告するので王都に呼ばれるかもしれない」
伯爵としても国に報告しないと、復興資金の援助とかも貰えないだろうから仕方ない。
国の危機だったから、王としても何もしないわけにはいかないだろうし、ワガママは言わないでおこう。
「主からは冒険者としての依頼料が出る。この依頼達成証をギルドに持っていけば払われる」
いま書き上げた書類を差し出す。
ランドのオッサンが代表して受け取り、収納の指輪に入れた。
「それとマリーナ殿だが、傭兵ギルドに所属しているで間違いないな?」
「はいっ。戦争で活躍すれば騎士になりやすいので」
傭兵ギルドは戦いに関係する仕事をメインにしているので、ランクは戦闘能力に直結する。
「傭兵ギルドにも戦争に参加して欲しいと依頼を出してあるから、その依頼を受けて、遅れて参加したということか?」
「第一陣に遅れてしまったので、慌てて出発したんです!」
傭兵らしき人も参加していたけど、数は少なかったな。
負けそうな戦には行かないという判断の傭兵が多いのか?
「それならば傭兵ギルドのほうから報酬を受け取って欲しい。こちらは個別に評価されて報酬額が決まる。戦功を確認するのは、君の場合は簡単だから、すぐに決まるだろう」
冒険者が受けた仕事は成功報酬なので、先に決まっていた報酬額が払われる。
傭兵だと基本報酬額に、活躍に応じた追加報酬がプラスされるので査定が必要なんだろう。
「今回は本当に助かった。あとの処理は軍が行うので、領都カレイラでゆっくり休んで欲しい。馬車を用意するので使ってくれ」
帰るのはいつでも構わないらしいが、オレたちは明日にでも出発することにした。
報告が済んだので、司令官に挨拶をしてから部屋を出る。
廊下を歩いていると途中にある窓の外が気になった。
覗いて見ると、飛行円盤に乗った伝令が、砦を出て行くのが見えた。
飛行円盤はやっぱり欲しいな。魔力の節約にもなるし、移動時間が短縮できる。
それぞれの部屋に戻ったオレたちは、朝飯を食べていないのを思い出して、昼飯には早いが用意して貰った。
戦場なので簡素なものだったが、昨日から食べていないので美味しかった。見た目は慣れないけどな。
「それで先生。マリーナも仲間に入れていいですよね?」
「当たり前だろ! 確認されると思わなかったぞ!?」
心外だとばかりに声を上げたアリス先生を見て、マリーナは嬉しそうに顔を赤くしている。
「ま、まあ、私は未来の第2夫人だし、と、当然よね!」
ちゃんとこっちを向け。照れんな。
「第2夫人って謙虚だな~。性格からしてグイグイきそうなのになぁ?」
「……だって…………姉様が恐いし……」
マリーナのボソッとした呟きにまったく気付かず、アリス先生は首を捻っている。
なんにせよ序列は決まっているようなので、オレとしても安心だ。
復興作業が落ち着く頃にでも、アリス先生に結婚を申し込んでみよう。
翌日、兵士に見送られて砦を出発した。
帰り道は順調で、魔物に何回か襲われただけで領都に帰ることができた。
門番は伯爵から命令されていたのか、ギルドカードを確認したら、すぐに通してくれた。
冒険者ギルドに到着すると、冒険者たちに歓声をもって迎えられた。
こんなに早く決着するとは思わなかったらしく、領都まで攻めて来るんじゃないかと、街の人も不安になっていたそうだ。
ひとしきり冒険者たちと話していると、騒ぎを聞きつけた結衣が、寝ぼけ眼を擦りながらロビーに出てきた。
「あ~、叔父ちゃんだ! おかえりーーーー!」
つまづいてコロコロと転がりながらも、そのままの勢いで起き上がり、飛び付いた。
オレの顔にしがみつき、大喜びしている。
「無事でよかった~、心配したんだよっ! 叔父ちゃんのバカーーー!」
「はははっ、ちょっと苦しいぞ…………結衣、心配かけてごめんな」
街の人が不安になれば、結衣だって不安になるよな。そこまで気が回らなかった。
危険から遠ざけて、心配させないように何も教えなくても、子供だってバカじゃない。
「……あれ? 叔父ちゃんたち、ケガしてるの? 結衣が治してあげるね?」
包帯に気付いた結衣が、ピョンと飛び下り、包帯の上から傷に手を触れて言葉に魔力を込めた。
「いたいのとんでけ~」
相変わらず気の抜ける言霊だな。
体が光に包まれると、痛みが消えた。すぐに包帯を外して見ると、傷が有ったように見えないくらい綺麗に治っていた。
「アリスお姉ちゃんたちも治すね!」
治療の間にマリーナが仲間になったことを伝える。
「マリーナお姉ちゃんだね! 結衣は結衣ですっ!」
元気よく両手を上げて挨拶をする結衣に、マリーナはメロメロになって抱き付いた。
「ユイちゃん! 私とも仲良くしてね? お姉ちゃんだよ!」
妹が欲しいって言ってたからな、お姉ちゃんって呼ばれて嬉しいんだろう。
ぎゅっと抱き締めて頬擦りするマリーナを引き剥がして、オッサンたちも治して貰った。
受付けに報告して報酬を貰い、ギルドに間借りした部屋に入ると、ヌイグルミが飾ってあるのを見て、プレゼントし忘れていたのを思い出した。
「アリス先生、ゴタゴタして忘れてたけど、前に街に補給しに帰った時にヌイグルミを買っといたんです」
指輪からクマのヌイグルミを出して渡すと、一抱えもあるヌイグルミに抱き付いた。
「可愛いな~、名前はなんにしよう…………決めたぞ! ルドルフにする!」
ジョヴァンニといい、厳つい名前だな。
ベッドに転がってヌイグルミをモフモフしている姿は、紛うことなき小学生だ。
その日オレたちは、久しぶりに結衣の料理を食べて、のんびり過ごした。




