決戦!ゴブリンロード
巨体が跳び上がり、勇人目掛けて降ってくる。勇人は大きく跳び距離を空けたが、地面が砕けて足を取られた。
援護に向かおうとしたランドも、剣を突き立てて揺れに耐えている。
魔法を放ったアリスは狙いが逸れ、自信は転んでしまう。
助け起こそうにも、マリーナも膝を突いて立ち上がれない。
足を取られた勇人にパンチの連打を叩き込む。勇人は必死に避けようとするが、ゴブリンロードの攻撃のたびに地面が砕け、まともに立ち上がれない。
転がりながら逃げる勇人を、怒涛の攻撃で追い詰めていく。
地上戦ではまともな勝負にならないと悟った勇人は、魔力の消費が激しくなることも仕方がないと決意し、空中に飛び上がった。
勇人は魔力消費が早くなるので身体強化は行わず、攻撃だけに煌力を使用することにした。
瞳の色が元に戻り、拳に光を宿して構える。一撃食らえば大ケガをしてしまうだろう。
ゴブリンロードの激しい攻撃を掻い潜り、攻撃を当てようと間合いに飛び込む。
地面への攻撃が止まったお蔭で、アリスが魔法の援護を再開した。
勇人に当たらないように援護する技量を持たないアリスにとって、とてつもない集中力が必要な戦闘だった。
自分に近寄るゴブリンに気付くことなく、勇人とゴブリンロードの激しい攻防から目を離さず、援護攻撃のタイミングを伺っていた。
マリーナが居なければ、とっくに噛み付かれていただろう。
ランドが背後をから近寄り、ジャンプして首を狙うが、裏拳を食らい弾き飛ばされた。
裏拳を放った左側が、ガラ空きになった一瞬を見逃さず、勇人は一気に間合いを侵略した。
「閃空乱撃!」
突撃の威力をプラスした顎への一撃から、無防備な喉に連打、回し蹴りを連続して叩き込み、飛び回りながら全方位から攻撃を畳み掛ける。
仕上げとばかりに顎を蹴り上げてから、額に肘打ちを食らわせた。
爆発する額から血を流しながら、ゆっくりと倒れていく。勇人は一旦距離を取って煌力を収集した。
視界の端にランドが跳び上がるのが見えたゴブリンロードは、両腕を体の正面に持ってきて防御の姿勢を取った。
振り下ろされた大剣が腕に食い込み、唸り声を上げたゴブリンロードは、ランドの大剣を掴み、ランドごと投げ飛ばす。
先程と同じように飛ばされたが、またもランドはすぐに立ち上がる。
フルパワーの身体強化で防御していたので、少々のダメージを負っただけですんだのだ。
自分の役目は隙を作ることと定めたランドは、防御に全力を傾けていたので、攻撃力が足りないのは理解していた。
スピードが遅いので、自分の攻撃は防がれるだろうと予測し、吹き飛ばされるために攻撃を仕掛けている。
ランドが作ってくれる隙を突き、アリスの風の魔法が連射された。
勇人が力を溜める時間稼ぎなので、威力より手数で攻めている。
風の刃が無数に襲う。ゴブリンロードに取ってはたいしたダメージではないものの、食らうたびにかすり傷が付くので鬱陶しそうにしている。
力を溜めた勇人が再び突撃した。
勇人がゴブリンロードにギリギリまで近寄ると、風の刃が止まる。
すぐにゴブリンロードは迎撃をしようと拳を振った。
外側に避けた勇人は、ゴブリンロードの腕で自分を隠し、側頭部に強烈なハイキックを食らわせた。
「煌刃烈波!」
キックでよろけたゴブリンの目に、真っ直ぐ伸ばした煌力の刃を突き刺した。
『グオォォォォォォォ!』
突き刺した刃を横薙ぎに振り、傷を広げた。それでは終わらず、首筋、全身の関節を斬り付けて、動きを鈍らせていく。
それからは距離を取ってアリスの魔法で削っていった。勇人も光弾を撃ちダメージを与える。
動きの鈍くなったゴブリンロードには躱すことが困難になり、何発も命中するようになった。
ランドの攻撃も当たるようになってきて、戦況は徐々に勇人たちに傾いた。
一方的な攻撃を受け、ゴブリンロードはこのまま倒されるかと思われたが、ニヤリと笑ってアリスとマリーナのほうに走り出した。
地面を強く踏みつけ破壊し、地上からは自分に近付くことが出来ないようにするという、魔物召喚士に使役される魔物の知恵を発揮した。
厄介な遠距離攻撃を繰り返す弱者を、先に倒そうと考えたのか、怒りに満ちた顔で小さな獲物を目指す。
アリスが魔法を撃ち込み迎撃を試みるも、更なる魔力を纏って防御力を上げたゴブリンロードには効いていない。
勇人はアリスたちを守るべく、飛行してゴブリンロードに突撃を急いだ。
アリスに向かって拳を振り上げた、巨大なゴブリンの前に回り込もうとした瞬間、急に振り向いた。
その顔には愉悦が浮かび、罠に掛かった獲物を見下しているようだった。
ゴブリンロードへと突撃を仕掛けていた勇人に、急な方向転換など出来るはずもなく、援護も期待出来ない。
アリスの魔法は溜める時間がなく威力が足りない。
砕けた地面を速く走ることの出来ないランドは攻撃が届かない。
勇人は一瞬の内に判断し、攻撃を避けられず致命的なダメージを受けることを覚悟した。
回避は不可能と理解した勇人の行動は速かった。
相手の攻撃を受け流すために力を抜いて飛行を止め、両手を突き出した。
ゴブリンロードの拳が触れる瞬間、煌力を両手に集めて受けた。
「リベンジ・ブラスト!」
この技はカウンター技である。
触れた相手の拳が爆発し、勇人は吹き飛ばされた。
砂塵を巻き上げながら数百m先の森に突っ込み、木々を薙ぎ倒しながら姿が見えなくなった。
「ゆ、勇人ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「あっ、あぁ……」
「チッ、ロードォォ! 俺が相手だぁぁ!」
アリスとマリーナが勇人の下に走り出し、それを狙うゴブリンロードの注意をランドが引いた。
アリスの背中を追うマリーナが、いち早くゴブリンの接近に気付いた。
「待ってアリス姉様! ゴブリンが襲ってくるから!」
アリスの所に群がるゴブリンを、マリーナと冒険者が阻止しようと向かう。
半分はゴブリンロードのほうに走り、ランドの援護をした。
ランドは攻撃を受けるので精一杯だった。
弱っているとはいえ、もともと巨体なりのパワーがあり、体重自体も強力な武器だ。
勇人を攻撃するのに魔力を使い切っていなければ、とても受けられなかっただろう。
他の冒険者が気を引こうと攻撃をしてはいるが、ゴブリンロードは自分に有効な攻撃手段を持っていないことを理解していた。
冒険者たちを無視して、自分にダメージを与えることの出来るランドを執拗に狙う。
攻撃を諦めた冒険者たちは、ランドに直撃しそうな攻撃を代わりに受け止め、吹き飛ばされた。
半分の冒険者が抜けて均衡が崩れ、アリスとマリーナはゴブリンに囲まれていた。
「どけぇぇ! 勇人の手当てをしなきゃ死んじゃうだろ!」
「数が多くて私1人じゃ防ぎ切れない! アリス姉様ごめんなさい!」
魔法が間に合わず、また、接近され過ぎて思い切った魔法が使えない。
アリスとマリーナに小さい傷が増え始めた。冒険者も魔力が切れて対処が遅れている。
アリスも魔法を使うのは諦めて、身体強化で戦うことにしたようだが、再びゴブリンロードの支配を受けたゴブリンは、強化されていて思うように当たらない。
「兵士のおっちゃんたちも手一杯か……。ランドのおっちゃんも殺されそうだ」
アリスの顔に焦りが濃くなった。
マリーナは剣が折れてしまい、馴れない徒手空拳で殴り飛ばしている。
「うおぉぉぉぉぉ!」
ランドの叫びに振り向くと、ゴブリンロードの足の下で必死に耐えていた。
「おっちゃん!」
魔力を溜めて援護をしようとしたアリスは、背中から殴り倒されて魔力が霧散した。
他の冒険者もランドを潰されまいと、自らゴブリンロードの足の下に入り、一緒に支えた。
倒れたアリスに噛み付こうとしたゴブリンをマリーナが体当たりで邪魔する。
「ぐっ、もう力が入らねぇ……」
冒険者たちは膝を突いて、限界が近い。
誰もが目を瞑り諦め掛けたその時、森の方角から青い閃光が放たれた。
ゴブリンロードの顔に光が突き刺さり、大爆発を起こした。
煙が晴れるとゴブリンロードの顔面が抉れているのが見える。
1歩2歩と後ろによろめき、膝と両手を地面に突いた。
「オレを殺さないと、お前に勝ち目はないぞ!」
服が破れ、血を流しているが、勇人は堂々とした足取りで戦場に舞い戻った。




