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死闘

 戦場のあちこちに怒号が飛び交う。

 血飛沫が舞い金属のぶつかる音が響く。

 兵士たちが崩れ落ち、友の倒れるさまを見て激情をその顔に映し、ゴブリンの体に武器を突き立てていく。


 戦場では人の死など珍しくもなく、友の死体すら踏み越えて突き進む。

 無念の表情で横たわる兵士を見つめ、勇人とアリスは感情のままに飛び出したかった。

 しかし、彼らは自分達をゴブリンロードの下へ導くために命を懸けたのだ。

 そう思うと飛び出すことなど出来ず、ただ唇を噛み、拳を強く握りしめるしかなかった。


「負けるな! ゴブリン共なんかに故郷を奪われてたまるか!」


「戦場で仇などと言わねえ! ただ国を! 家族を守るために殺しやる!」


「ぐあぁっ! お、俺を喰ってる間に、こ、殺すんだ!」


 兵士がどんどん倒る。しかし(ひる)むことなく敵を殺していった。

 死にゆく友の最期の言葉は、まるで自分の命を捧げた呪いの儀式のように仲間の心を縛りつけ、更に戦いへと(いざな)った。

 血に染まる口元から覗く仲間の体に目を背け、ただひたすらにゴブリンの心臓を狙う。

 日本からやって来た勇人とアリスに取って、それは地獄の光景だった。

 まだ若いマリーナも顔を青ざめ、体を震わせてる。悔しさなのか恐怖なのか、その表情からは読み取れない。


「戦場がつらいのは解るぜ。さっきまで話してた奴が倒れて動かなくなりやがる。……だからこそ俺たちは負けられねぇ! あれの仲間入りしちまうからな」


 ランドはこのまま戦わせるのはマズイと思い、忠告するように言い放つ。

 勇人はその言葉を受け、そういう場所なのだと改めて気を引き締めた。

 自分が死んだら結衣はどうなる。アリスの心に重荷を背負わせてしまう。

 そんな考えが脳裏を()め、かつてない緊張が勇人を固くしていた。

 そんな強張(こわば)った勇人の指に、小さく柔らかな温もりが触れた。


 勇人がそちらを向くと、アリスの包み込むような優しい瞳があった。

 それだけで勇人の体から余計な力は抜け、かわりに熱が満たしていく。


「そんな思い詰めるな。アタシを守ろうなんて100年早いぞ? アタシは先生なんだからな。みんなで生き残るんだ。死んだら許さないぞ!」


 自分が死んだら、などと考えていたのは、自分の命を懸けてアリスを守ろうという心の裏返しである。

 そう見透かされたような、バツの悪さについ視線を逸らしてしまう。

 日本にいた頃から、勇人はアリスのこの目に見つめられるのが苦手だった。

 いつも真っ直ぐ見てくるので、心にあるやましさを見られているようで恥ずかしいのだ。


「わかってますよ。先生もマリーナも死なせずに、自分も守ります」


 少し拗ねたように答えた勇人を見て、無邪気な顔で笑った。


「私だって死なないから! 私を守って死んだりしたら一生許さないんだからね!」


 いい雰囲気の2人に交ざりたいのか、マリーナも必死にアピールしている。

 勇人の服を引っ張って、自分も構って欲しいと騒ぐ子犬のようだ。

 そんな若者たちを見て、ランドももう大丈夫だと戦場に意識を向けた。


 強化されているとはいってもゴブリンはゴブリン。一致団結した軍隊の前には、たいした敵ではなかった。

 しかし数は倍近い。長期戦になれば疲れから崩れ出すかもしれないので予断を許さない。

 司令官は次の手を打つために部隊を徐々に後退させていった。


 腹を空かせているゴブリンは、目の前の人間を殺して喰おうと追いすがった。

 左右に分かれた軍の真ん中に突っ込み、門の正面に纏まってしまう。

 正面に来たゴブリン目掛けて、砦から出撃したランスナイトが突撃を開始した。

 馬の突進力と身体強化された騎士のランスの前には、ゴブリンなど木っ端も同然。

 布を引き裂くようにゴブリンの群を蹴散らしていく。左右に分かれた軍もすぐさま挟み撃ちにして、ゴブリンに追い討ちを掛けた。


 正面のゴブリンを突破したランスナイトは、戦場を縦横無尽に駆け巡り、ゴブリンの集団をズタズタにしていく。

 バラけたゴブリンに兵士が襲い掛かり、各個撃破を繰り返していると、ついにゴブリンロード自身が前に出てきた。


 重い鎧に包まれた30mの巨体が地面を揺らす。

 馬が怯え出し、ランスナイトの部隊が乱れ始めた。

 巨体にも関わらず、あっという間に距離を詰めたゴブリンロードが、ランスナイトを踏み潰した。

 体格に見合った巨大な剣を振ると、何十人もの騎士たちが馬ごと吹き飛ばされる。

 味方のはずのゴブリンまで一緒に攻撃しているあたり、同族意識はなく、主人の勝利しか考えていない。


『人間共! よくも騙してくれたな! こうなれば砦を奪い取り、王国軍が出てくるまで人間を殺してやる!』


 勇人たちには理解できるが、他の人間には理解できず、ゴブリンロードの咆哮に、ただただ気圧されていた。

 主人に潰されまいと散ったゴブリンたちは、ロードの支配からは解放されたようだ。

 チャンスとばかりに勇人たちが門から出撃した。マリーナと冒険者が近付くゴブリンたちを相手にして、ロードと戦う4人の体力を温存する。


 兵士もゴブリンも区別なく殺してまわるロードに、兵士は堪らず撤退を始めた。

 そこへ冒険者組が到着して、逃げる兵士の援護にまわる。勇人とランドがロードの正面に立ち、ロードの剣が届かない距離にアリスとその護衛のマリーナが。


『貴様はあの時の小僧! 人間の分際で生意気な!』


 勇人に騙されたことに気付いたロードは、激昂して勇人に怒鳴り付けた。

 勇人はそれを無視して瞳に力を宿した。

 ランドもそれに続いて身体強化を全力で(おこな)った。


 2人が左右に分かれてロードの死角に移動する。ロードは勇人に憎しみの目を向けたので、勇人が前方、ランドが背後を取る形になった。

 勇人がロードに向かって走り出した。ロードは機敏な動作で剣を振り下ろす。

 少しだけ後ろに下がると、巨大な剣が地面を斬り裂いた。

 すかさず剣の上を走り、ロードの腕を伝って顔面に肉薄する。

 拳を叩き付けるも、少し()け反っただけで傷を付けることはできない。

 ロードの左手が勇人に迫る。防御姿勢を取った勇人に拳が当たる瞬間に、ランドの剣が膝の裏を斬り付けた。


 薄く切れただけでたいしたダメージではないが、ロードがバランスを崩した隙を狙い、勇人が指先から光線を放った。

 その光は狙いを外さず、ロードの右目に突き刺さるかに見えたが、ロードが腕を上げて防いだ。


 勇人とランドが着地し距離を取るのを見計らって、アリスが(はな)った炎の玉が、腕を下ろして目の前の敵を踏み潰そうとしたロードの顔に直撃した。

 炎を払いながら呻き声を上げてアリスを睨み付ける。アリスに向かって剣を振り上げるが、ランドの攻撃に気付いて標的を変えた。


 足を引きランドの攻撃を避けるが、下げた足と逆の、真っ直ぐ伸びきった膝の裏に、勇人の飛び蹴りが決まった。

 いきなり膝裏を蹴られたロードは、(こら)えられずにバランスを崩して後ろに倒れた。

 突き出た岩に背中をぶつけて、ロードが苦しむ。その隙を逃さず総攻撃を掛けた。


 アリスの氷の魔法がロードを地面に張り付け、ランドの剣がロードの右手首を突き刺す。

 あまりの痛みにロードが剣を離し叫び声を上げる。その口の中に、空を飛んでいた勇人から光弾が放り込まれた。


 爆発した口から折れた牙が飛び散る。

 ロードの体に着地した勇人は手を休めず、煌力を纏った拳を連続して叩き付けた。

 勇人の拳が命中するたびに、小さく爆発が起こる。シャイニング・ブラストの連続攻撃だ。


 勇人が離れて息を整え、煌力を集め直している間に(いかづち)が降り注いだ。

 金属の鎧を伝って雷撃がロードを貫く。動かなくなる敵を警戒して、勇人たちは散開して備えた。


 氷の戒めを解き、ゆっくりと立ち上がるゴブリンロード。表面に魔力を纏っていたが、鎧はボロボロにヒビ割れ、地響きを上げて崩れ落ちた。

 立ち上がったゴブリンロードに太陽を(さえぎ)られ、勇人たちを闇に包んだ。


 口から血を垂らし、瞳を爛々と光らせ、周囲数十kmの動物が全て逃げ出すほどの咆哮を上げた。

 勇人だけを静かに見詰め、ダメージなどないかのような俊敏な動きで突進をする。

 ――――体力勝負では絶対に勝てない。誰もがそう理解した。

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