全軍出撃
マリーナはアリス先生を上だと認めたのか、アリス姉様と呼ぶことにした。
よっぽど怖かったらしく、改めて第二夫人がいいと言ってきた。
それからオレは何度も補給を繰り返し、アリス先生と一緒にゴブリンを減らしていく。
今日もランドのオッサンとマリーナを抱えてゴブリンの真っ只中に飛び込んだ。
オッサンに貰った剣を振り回し、2~3匹の首をいっきに飛ばした。
マリーナも魔力を温存しながら、剣技でゴブリンを圧倒している。
ランドのオッサンは力強く大剣を振り抜き、周りのゴブリンの胴を上下に裂く。
飛び掛かるゴブリンの横を駆け抜け、置き去りにするように斬り殺していった。
血が噴き出すよりも速く、次の敵を斬る。顔面を縦に斬り、そのまま次の敵に幹竹割りを放つ。
剣で斬り掛かるゴブリンには、剣を弾き飛ばして他のゴブリンに当て、突き刺した剣を抜くと同時に次を斬る。
流れ作業のようにゴブリンを処理する。時々アリス先生の援護を受け、息を整えてから再開する。
周りを見ると、息をつくタイミングでマリーナが間に入り、オレに近付くゴブリンを優先して斬っている。
ナイトリール王国の騎士は連係して戦うのが上手いと聞いた。
その途切れない攻撃で相手を休ませず、屈強な部隊でも壊滅させるとか。
こっちの世界では馬に乗って戦うよりも、身体強化して戦うほうが小回りが効くので、ナイトリール王国では突破力が必要な場面でしか活躍できない。
乗り物としても飛行円盤のほうが速いので、裕福な人ほど馬に乗らない。
ラクをしたい時は馬車に乗るが、速度が必要な時は飛行円盤に活躍の場を奪われるらしい。
マリーナがゴブリンの死体につまづいて、転びそうになった瞬間、今度はオレが割って入る。
体勢を立て直して後ろに下がるタイミングで、アリス先生の援護射撃がくる。
門の近くまで下がり、オレとオッサンで戦線を支えた。
「ユート、そろそろマリーナの嬢ちゃんの疲労も限界に近いみてえだ。門の中に連れてってやれ!」
「わかった、こいつは置き土産だ! トラップボム」
オッサンの前に光の玉を100以上ばら蒔き、マリーナの所まで下がる。
オッサンにも門まで下がるように言って、マリーナを抱えて飛んだ。
門まで下がるオッサンを追い掛けてきたゴブリンが、光の玉に触れると爆発を起こす。
逃走用に編み出した技なので、実戦で使ってみたら、思いの外有効で、警戒してオッサンを追うのをやめた。
「……ありがとう、未来の旦那様。やっぱり男の人の体力には勝てないみたいだわ」
汗で張り付く前髪を直しながら、恥ずかしそうにオレを見る。
「200以上のゴブリンを斬ったんだから十分だ」
そう慰めてから戦場に飛び降り、トラップボムを前方に飛ばした。
警戒して近付かなかったゴブリンも、不意を突かれて反応できず、数百匹のゴブリンが粉々になった。
接地型と思わせて誘導型の技なんだよね。おまけに触っても大丈夫な玉もあって、オレが触ると煌力を集め直さなくても回復できる。
「すげえ器用に戦うな、ユート! もうおっちゃんより強いな」
素直に認められるオッサンはやっぱ大人だな。オレにはまだ無理だ。
ゴブリンロードから命令があったのか、ゴブリンの軍勢が離れていった。
敵からすれば、時間を稼いでオレたちの戦力を集めるのが目的なんだから、数が減り過ぎるのは困るんだろう。
ゴブリンロードの体格とパワーなら、砦を壊すのも簡単なはずだ。時間稼ぎなのは間違いない。
退いていくゴブリンたちに向かって、可愛い声が上がった。
「エターナル・グレイシア!!」
キンという甲高い音がして、半径数百mが氷に包まれた。何千ものゴブリンが氷漬けになり、周囲の温度が急激に下がった。
凄い魔法だけど、こっちまで寒いな。息を吐くと白い。
「アリスの嬢ちゃんも無茶苦茶するな。酒が欲しいぜ」
アリス先生もオレと同じで、近くに味方がいると強力な攻撃はしにくいんだな。鬱憤が溜まってたのかもな。
オッサンと氷を眺めていると、氷にヒビが入り粉々に砕け散った。
ゴブリンの魔石まで粉々じゃん。もったいないな~。凄いけどさ。
オレ、この魔法を食らったら防げるかな? 体にさえ届かなければ凍結することはないと思うけど。
防御技も考えておこう。アリス先生以外にも強力な魔法の使い手はいるかもしれないし。
少なくとも、ゴブリンロードを使役できる奴がいるのは間違いないんだし。
騒ぐ兵士たちに手を振りながら、小さな胸を張るアリス先生。ロリコンにしかチヤホヤされないから嬉しいのか?
オッサンを抱えて砦に戻ると、オレたちもチヤホヤされたので、兵士たちはロリコンではないようだ。
「私はあんまり活躍できなかった……」
「それを言うならおっちゃんだってユートたちみたいには出来んさ。でもそれでいいんだよ。俺達は組んで戦ってるんだから、2人が技を放つためのサポートさえ出来れば、十分に役目を果たしたんだ」
チームって役割分担だしな。アリス先生の近接戦闘は力押しだし。
オレは魔力が低いから、魔力が切れたら煌力も集められないからな。
現状、オレは煌力を使うのに魔法のサポートが必要だ。自力では使えない。
そうなるとザコしか倒せないから、一転して大ピンチになるので節約しながら戦うしかない。
「仲間がいないと、オレはすぐに魔力切れで戦闘能力が落ちるからな。マリーナのお蔭でまだ魔力はあるぞ」
「アタシなんか勇人のサポートは、離れた所から魔法を撃つしかないからな~。マリーナが羨ましいけど、人それぞれだな!」
オレたちは攻撃力が高いぶん、継戦能力は低いから節約は必須事項だ。
普段から気を付けてないと、ザコで力尽きた後に強敵と戦闘なんて死ぬしかない。
魔力を節約するために仲間と一緒に戦うか、1回の制御魔法で集められる煌力を増やすか、どっちかしないと先々で困ることになりそうだ。
結婚はともかく、マリーナを仲間にするのは必要かもな。魔力の多い前線メンバーは欲しい。
敵が離れて射程範囲外に行ったので、明日からはオレが上空から敵を減らすことになった。
それを不満に思ったアリス先生が、飛行円盤を借りて練習している。
スカートの中が見えないように、下にドロワーズを穿いていたので見物してもあまり楽しくない。
「う、うわわっ! ぶつかる~~~~~!」
砦の壁に激突する前に受け止めた。
「怖かった~。ありがとな!」
オレにしがみついて見上げるさまは、庇護欲を誘う。
涙目をゴシゴシしてるので、マリーナがハンカチを渡した。
「ちょっと! アリス姉様ってほんとに27歳なの? 可愛くてずるいわ!」
それをオレに言われてもな。
「マリーナも美少女だし、羨ましがらんでも……」
「えっ、ほんと! ま、まあそうよね! 私だって可愛いもん! 旦那様の好みでよかったわ!」
うーん、マリーナは結婚する気だな。
好みなのは確かだし、健気と言えば健気で結婚するにはいい相手かもな。
もっと金を稼いで養える力をつけたら、先生に結婚を考えて貰うかな?
マリーナについても、その時に話してみるか。早く結論を出さないと失礼だし。
朝早く起きてゴブリンを蹴散らす。物資が少なくなると補給に向かい、結衣と遊ぶ。
何回か繰り返すうちに、ゴブリンの数も2万を切った。
一向に来ない援軍、どんどん減っていく部下に痺れを切らしたのか、ゴブリンロードが動き出した。
「全軍出撃!! ゴブリン共を蹴散らし、ゴブリンロードまでの道を開くのだ!! 冒険者たちを無傷で送るのが我が軍の役目!! 奮起せよ!!」
司令官の号令と共に門が開き、兵士たちが飛び出す。槍兵が前衛を務めゴブリンを突き刺していく。
その後ろから弓兵が一斉に矢を放った。武装すらしていないゴブリンにも関わらず、ロードの強化のお蔭か弓ではダメージがない。
真っ直ぐ飛ばすならともかく、上に飛ばしてるぶん威力が落ちてるし、牽制にしかならないみたいだ。
武装したゴブリンには牽制にもなってない。
身体強化した槍兵がこじ開け、弓から剣に持ち換えた兵士が止めを刺す。
ゴブリンロードまでの道はまだ遠いけど、オレたち冒険者は待つしかない。頼むからあまり死なないでくれよ。




