ゴブリンロードを観察
「あんなにいっぱい……、あのまま砦に行ったら……」
まあ、見つかったら追い掛けられて、囲まれただろうな。
攻撃するためにお姫さま抱っこをやめて、小さな子供を抱っこするように左腕に座らせた。
「マリーナ、今から攻撃するから、しっかり掴まってろよ」
マリーナが首に手を回し、強くしがみついたのを確認して、攻撃を開始した。
インフィニティ・レインの練習にもなるし、敵も減るし丁度いい。
右手から連続して光弾を放ち、次々とゴブリンを木っ端微塵にしていく。
「きゃあ!」
爆風に煽られて、マリーナが悲鳴を上げる。まだ飛びながら攻撃すると、コントロールが甘くなるな。
体全体から煌力を発揮しながら、手の平に集中して押し出す感じなので、器用さが必要だ。
方向転換する時に、一瞬だけ攻撃が止まってしまう。
「むちゃくちゃな攻撃するな~! 女の子は大事にしてよ!」
音と爆風に怯えながらマリーナが騒ぐ。
「大事に抱っこしてるだろ? 集中力が要るんだから静かにしてろよ」
「死ぬ! もうちょっと高く飛んでよ!」
1人ならともかく、マリーナを抱っこしたままだと高い位置から狙いにくいんだよな。
「先に砦に下ろしてから戦うことにする」
「最初からそうしなさいよ!」
オレとしたこどがうっかりしてたな。
「ユート殿、お帰りなさい! その女性は?」
砦の上に着地すると、兵士が駆け寄ってきて、マリーナのことを尋ねてくる。
「この娘はマリーナ。ここに来る途中でゴブリンと戦ってた」
「ゴブリンと……。ゴブリンが他所に行かないように戦わなければ被害が増えそうですね」
ゴブリンロードに統率されてる奴は大丈夫だろうけど、そうでなくなれば、軍を無視して街や村を襲うかもな。
「オレはもう少し減らしてくるから、この娘を部屋に案内してください」
そう言って飛び上がると、ゴブリンに光弾を振り撒き蹴散らしていく。
ついでなのでゴブリンロードにも攻撃を仕掛けようと、正門のほうに飛んだ。
砦の尖塔の間を抜け、兵士に手を振って鼓舞しつつ、砦の正門から500mほど離れた位置に居るゴブリンロードを、上空から観察した。
ゴブリンロードはマザーより少し大きいくらいだが、目に知性を感じる。
奴もオレを観察しているようで、視線を外さない。嫌な目だな。
マザーよりも筋肉質で、技量も有りそうだ。武装も巨大な剣と全身鎧で固めている。
間違ってもゴブリンに用意できる物じゃないな。魔物召喚士の契約したゴブリンを育てたんだろう。
この事件は人為的なのは確実だな。だとしたら援軍を断って正解かもしれない。
援軍が出発したら戦争が始まりそうだ。ここは囮みたいなものだろう。
国の端に近い位置に軍を集めて、手薄になった所を狙うつもりかも。
『そこの人間。我と勝負したいのか?』
ゴブリンロードが話しているが、言葉は解らないふりをしておく。作戦とか大声でゴブリンに命令するかもしれないし。
「キーキー喚くな! 下等なゴブリンふぜいが!」
『こちらに知性があるのも解らないか。どちらが下等なのか』
よし、掛かった。
偽の作戦でもでっち上げてやる。
「こんな下等生物など援軍が来れば一網打尽だ! 覚悟しろ! はっはっは!」
これでオレたちが援軍を待ってると思わせられるはず。あとは司令官に伝えて、他の場所を警戒してくれるように書簡を送って貰おう。
「だが、下等生物など援軍が来る前にオレが倒してやる! 手柄はオレの物だ!」
そう叫んで1発だけ光弾を撃った。
ゴブリンロードは避けるまでもないとばかりに、左手で軽く払った。
腕で爆発するが、ダメージはない。かなり硬い鎧みたいだ。
『功を焦るか。これならば主様の作戦も成功するであろう』
やっぱり作戦か。司令官に言葉が解ることを秘密にして、さっきの考えを伝えてみよう。
「たかがゴブリンのクセに生意気な! 今日の所は見逃してやる! いずれ我が国の全軍で蹴散らしてやるぞ!」
『ふっ、愚かな。まんまと主様の作に嵌まるか。カウニスハーナ王国も終わりだ!』
やっぱオレたちの援軍を待ってるようだ。近くに主人の気配はしないな。
1kmくらいなら、煌力を通じて生き物の居場所が解るはずだが、近くに居なくても操れるのか、操る必要もなく命令だけでいいのか。
ゴブリンロードの周りに居るゴブリンたちを、腹いせのように倒してから、砦に戻った。
オレは副官や代官と一緒に倉庫に向かい、持ってきた物資を渡した。
あとは毎日ゴブリンを倒して、敵に逃げられないくらいまで減ったら、砦の全兵力で攻撃を仕掛ける。
オレたち冒険者組は、兵士がゴブリンロードまでの道を開けてから出撃してロードを倒す。
「……納得できる推測だ。エイベル様に報告して対処していただく。以前に援軍を断った理由の補強になりそうだ。陛下にもご納得していただけるはずだ」
先程の報告をすると、司令官は理解してくれて進言してくれることになった。
司令官から直接、王に報告はできないので、伯爵経由になる。
お役所仕事みたいで時間が掛かるな~。国の危機でも手順が大事とか、大人は面倒臭いな。
報告書を書き始めた司令官に挨拶して、オレは自分の部屋に帰った。
部屋に着く前にマリーナに見つかってしまい、ほっといたせいで拗ねられた。
「私をほったらかしにして危ないことしないでよね!」
そっぽを向いて文句を言っているのか、心配しているのか判らない拗ね方だ。
兵士に、オレが飛んで行った方向にゴブリンロードが居ると聞いて捜していたそうだ。
「私は騎士なんだから! 旦那様を1人で危ない敵と戦わせないわよ!」
本人はゴブリンロードと戦うつもりのようだが、マリーナは近接戦闘しか出来ないならやめたほうが。
「ゴブリンロードはデカイぞ。剣で戦うのは危ないって」
「う…………魔法はちょっと苦手だけど、身体強化すればクマと殴り合いできるわ! 傷をつけることもできるわよ……」
最後のほうは自信なさそうだ。
「周りのゴブリンを近付かせないようにする役目ならいいぞ」
「う~ん、それも大事な役目だし、旦那様の言うことだからいいかな?」
やっぱ単純なタイプだけど、騎士を目指してるだけあって戦いに大事なことは判ってるな。
貴族の教育を受けているからか、旦那に尽くすのも当然と思ってるみたいだし。旦那じゃないけど、彼女の中では決まったことなのか?
男冥利に尽きるけど、今のオレはアリス先生が好きなんだよな。もう一度言っておくか。
「わかってるってば。それでも騎士の国の女は、強い男が好きなの!」
解ってるなら何度も言うのは失礼か。真面目に考えておこう。
しかし、ナイトリール王国ってやっぱ騎士の国なんだ。名前からそうじゃないかと思ってたんだよ。
マリーナにいろいろ聞きながら部屋に戻ると、アリス先生が料理を食べながらメモしていた。
「あっ! 勇人! 帰ってきたんだな~。無事でよかった!」
「ただいま帰りました。……ところで、何してるんです?」
「料理の研究だ! 大人として栄養のことも考えないとな。勇人も結衣ちゃんも育ち盛り…………誰だ?」
横に居たマリーナに気付いて尋ねる。小首を傾げているのが子供っぽい。
マリーナもそう思ったのか中腰になって、アリス先生に目線を合わせて話し掛けた。
「私はマリーナ。あなたは?」
「アタシはアリスだ!」
「可愛い名前だね!」
完全に年下だと思ってるな。アリス先生も感じ取ったのか少し機嫌が悪くなった。
「アタシを子供扱いするとひどいぞ……」
アリス先生の雰囲気が悪くなる前に、マリーナを止めよう。
「マリーナ、マリーナ……。アリス先生は27歳だ……」
「ええっ、27歳?!」
オレが小声で伝えたかいもなく、マリーナは驚いた。
部屋にアリス先生の魔力の波動が満ち始める。マリーナもヤバいと気付いて言い訳を始めた。
「ど、どーりでせくしーだと思ったわ!」
酷い言い訳だったが。




