再び戦場へ
帰ってきたオレは、ギルドマスターに説明をしてから部屋に戻った。
「アリスお姉ちゃんは帰らないの? 結衣がお料理作ってあげようと思ったのに」
オレたちが居ない間はずっと料理の練習をしていたらしい。披露したくてしょうがないんだろう。
「アリス先生は砦で魔法の実践訓練みたいなことをしてる」
戦ってると言うと心配するので、微妙に誤魔化した。
「結衣も魔法考えたよ! 叔父ちゃんたちを守ってあげるね」
オレの膝の上に向かい合って座り、キラキラした目で見上げてくる。
結衣は戦わなくてもいいよ、と言いたいが、この顔を見ると言い出せない。
「あ、ああーっと、そうだな。頼もしいぞ!」
「えへへ。結衣の魔法を見せてあげる!」
オレの言葉に張り切ったのか、魔法を実践してみせた。
相変わらず気の抜ける言霊だけど、オレの全能力を10倍くらいにする支援魔法は、正直助かるだろうな。連れて行かないけど。
冒険者ギルドの受付嬢に、毒などの知識も教えて貰ったらしく、解毒魔法なども修得していた。冒険者たちで練習したらしい。
なんでも、怪我をして帰って来た冒険者に回復魔法を掛けたのが切っ掛けだったそうだ。
気の抜ける言霊で一生懸命回復してくれる結衣は、冒険者たちに大人気らしく毎日プレゼントを貰ったりした。
部屋に物が多いのは、なるべく収納の指輪を使わないように言い聞かせていたからだ。いい子だ。
「オレは明日また出掛けるけど、1人で外に出ないようにな。外に出たい時は受付のお姉さんか、冒険者のおじさんたちに連れて行って貰うんだ」
人気者だし、変な冒険者に付いて行こうとしたら止めてくれるだろう。
「わかったよ……。結衣が強くなったら助けてあげるから、死んじゃやだよ?」
「オレは大丈夫。毎日修行してるし、なるべく安全に戦うから」
頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じ、オレに抱き付いてグリグリした。
やっぱ寂しいよな。でもゴブリンロードを放っておくと領都まで来るかもしれないし。
その過程でゴブリンが100万匹とかになったら、さすがにどうしようもない。
砦を囲んでいたゴブリンも、最初に遭遇したのと別物って感じで殺気立っていたからな。
飢えてるせいか、ゴブリンロードの能力かは判らないけど、恐怖とかも感じてないみたいだった。
死を恐れない強化された100万のゴブリンなんて、国の総戦力でも勝てないかも。
早目にマザーゴブリンを倒せてよかった。ゴブリンロードがいる限りまた出現してしまうから、そっちも早く倒さないと。
「すぐに平和になって、結衣とアリス先生とオレの3人でのんびり暮らそうな」
「うん! それでね、結衣がお料理するの。働く叔父ちゃんたちに美味しいご飯作るよ」
死亡フラグみたいなことを言ってしまったが、作戦通りいけば大丈夫だろう。
作戦通りいかないフラグみたいなことを思ったけど、あの状況で作戦通りにしない兵士とかは居ないはず。これもフラグっぽいが。
オレの攻撃を目の当たりにしたら、さすがに勝手な行動をする兵士は居ないと思いたい。
「今からお料理するね。いっぱい作るから、指輪に入れて持ってってね」
「頼むな。パンとか屋台で買っておいた串焼きじゃ力が出ないからな」
そう言うと、嬉しそうにオレの膝からピョンと飛び下り、厨房に向かった。
こっちの料理は見た目が微妙なのもある。紫色の米とか、味は同じでも食べるのに勇気がいる。
肉は普通なのが救いだよ。麺類も小麦粉を焼いて作るんじゃなく、粘液みたいなのを焼いて作る赤いプニプニ物体だしな。
ペペロンチーノを注文して、赤いプニプニ麺が出てきた時は注文間違えたかと思ったよ。
「叔父ちゃん、できたー。運ぶの手伝って」
ドアを開けて結衣が言う。厨房に付いて行き、料理を見る。
「叔父ちゃんも結衣も大好きなオムライスだよ!」
結衣は見た目をまったく気にしていないのか、とても嬉しそうだ。
オムライスは紫色の米をどどめ色のケチャップで炒め、普通の卵で油断させる料理になったのだ。どどめ色のハートマークが異様なオーラを放っている。
普通の赤いケチャップみたいな見た目のやつは、味がシロップだからな。仕方がないとはいえキモい。
他にもカラフルなスープ、やたら刺々しい野菜炒め、玉ねぎみたいな色の葡萄をデザートに。
スープはいろいろなスープがあるけど、結衣は虹色スープが好物だ。
「う、旨そうだな。結衣、ありがとう」
「えっ! 見た目は美味しくないよ? 味は美味しいけど」
気を遣ってお世辞を言ったのに、美的センスがおかしいみたいになってしまった。子供相手にお世辞は無意味か。
結衣は昼飯をもう食べたらしく、オレの分だけだ。砦に持って行く分も作るらしく、また料理を始めた。
一口目が勇気いるな。味は大丈夫だと理解していても、初めて食べる物は戸惑ってしまう。
部屋に運んで2分は悩んだ後、スプーンを突き刺した。恐る恐る口に運ぶ。
「屈辱的な気分になる見た目なのに旨いんだよな……」
腐った食事を食べなければ生きていけない遭難者の気分になる食べ物は間違いだと思う。
女の子は可愛いし、いろんな種族がいて楽しいんだけど、食事だけは何とかならんかなぁ。
「あっ! いつの間にか食べ終わった……」
見た目さえ普通なら、夢中になって食べてもこんな気分にならないのにな。腐ったご飯を貪り食ったような気分で、なんか屈辱だ。ここは雪山ではなく街なのに。
結衣が作った1週間分の料理を収納すると、オレは結衣と一緒に買い物に出る。
アリス先生にジョヴァンニの代わりになるヌイグルミを探しに行った。
「結衣はこれ! これがいい!」
持って来たのはウサギのヌイグルミで、耳が長くて垂れている。大きさは20cmくらいなのに、値段は14万シリンと非常に高い。
「いいけど、オレが出掛けてる間はいい子で待ってるんだぞ?」
「結衣いい子にしてるよ! 叔父ちゃんありがとう!」
アリス先生の分は、1mくらいあって抱き枕に出来そうなクマにした。
ほんとにヌイグルミって高いな。アリス先生が躊躇するわけだ。
オレたちは高性能な収納の指輪があるので、大量の素材を持ち帰れるから簡単に稼げるけど、普通の冒険者や庶民じゃ手が出ない。
「叔父ちゃん、アリスお姉ちゃん喜ぶかなぁ?」
買ったばかりのヌイグルミと手を繋ぎ、オレを見上げてくる。
オレもヌイグルミと手を繋がされ、ウサギのヌイグルミが連行される宇宙人みたいになっている。
「欲しがってたし、喜ぶよ」
子供っぽいが、言わないでおけば機嫌はいいはずだ。
周りの人がジロジロ見てくるので、帰り道でずっと考え事をしていた。ロズウェル事件で宇宙人を連れていた人ってこんな気分だったんだろうか? と。
その夜は結衣と一緒に寝て、結衣の作る不気味旨い食事を摂ってから、街を飛び出した。
勇人が砦を出発したあと、アタシはゴブリンに魔法を撃つ。帰って来るまでに数を減らせば、アイツの負担も少しは減るはずだ。
まったく、勇人のヤツ、なんで1人で飛び出すんだ! 骨折までして~!
心配ばかり掛ける教え子の八つ当たりみたいになってるけど、ゴブリンはアタシの天敵だ。
あるていど倒すと、警戒して離れるな~。射程が足りなくなって、煌力砲とかいうのも届かないしな~。
アタシもそんな遠くまで攻撃できないもんな。新しい魔法の練習しないと、生徒ばっかに任せらんないぞ。
アタシがおとなしくしてたら、勇人を死なせずにすんだんだから、2人のことはアタシが守らないと。
ゴブリンロードが命令してるせいで寄ってこないじゃないか!
ゴブリンはアタシを怒らせる天才だな~。反対側のゴブリンに八つ当たりだ!
勇人が帰って来たら、一緒に空からぶっ飛ばしてやる。アタシをチンチクリン扱いした恨みは忘れないぞ! ゴブリンのバ~カバ~カ!




