作戦会議、なぜオレも?
風呂に入ってさっぱりしたあと動きやすい普段着に着替える。
汚れた戦闘用の厚手の服は女性兵士がまとめて洗ってくれるらしい。
部屋に戻り、収納の指輪から食糧を出して食べる。砦の食糧は温存したいだろうし、断った時にお礼を言われたので正しい判断だろう。
「結衣ちゃんはご飯食べてるかなぁ? 寂しがってるかも」
「寂しいでしょうけど、お腹減ったら食べますって」
「そうだな~。でも結衣ちゃんがいないと寝るとき寂しいな~」
アリス先生は結衣と同じベッドで寝てるからな。というかアリス先生が寂しかったのか?
「1人で寝るの寂しいんですか? アリス先生って実家から通ってましたっけ?」
たしか1人で暮らしてるって言ってたはずだけど。
「アタシはジョヴァンニと一緒に寝てたんだ」
ジョヴァンニ? 寄ってくるのはロリコンばかりと言ってたからロリコンか?
「クマのヌイグルミだ!」
「…………ああ、はい。今度ヌイグルミをプレゼントしますね」
「こっちだとヌイグルミはちょっと高いんだ。フワフワの生地が高いらしくて」
高いったって、金は3等分して指輪に入れてるし、オレの収入は知ってるだろうに買えばいいじゃん。
オレが死んでしまった時に備えて、オレは必要分だけ残して結衣の指輪に入れているけど。
それでもヌイグルミくらい買えるはずだ。
「こんな世界だし、老後の心配がな~」
見た目小学生が老後の心配をしてると違和感が凄いけど、成人女性っていうか三十路にあと数年だもんな。
食べ終わって、しょーもない雑談しているとノックの音が聞こえた。
「アタシがいく! 怪我してるんだからな!」
立ち上がろうとしたオレを制して、アリス先生がドアを開けた。
「ユート殿とアリス嬢、お休みのところ失礼します。司令官から作戦会議に参加して頂けないかと」
会議か。……何でオレみたいな民間人を?
「アタシは戦争なんて、わかんないぞ」
「オレは構いませんけど、民間人ですよ?」
兵士が理由を知ってるかは判らないけど、一応聞いてみた。
「はい。おふたりの力が必要なので、意見を聞いて補給の計画を立てたいと」
「そういうことなら、行きます」
「アタシも」
オレたちの出来ることを知らないと、作戦なんて立てられないもんな。
「ありがとうございます。2時間後に迎えに来ますので失礼します」
敬礼をして出て行く。
走り回って大変だな。
「時間までデザートでも食べてよう! ミカンにするか?」
そう言って毒々しい見た目の果物を出す。皮ごと食べるのに蜜柑の味なんだよな。未だに慣れない。
逆に蜜柑みたいな見た目の食べ物は、野菜として使われてる。色はピンクだけど。
そのせいか、アリス先生の料理は不味いままだし、結衣も苦労している。
「見た目は気持ち悪いけど美味しいな~」
幸せオーラが出そうなほど、ユルい顔で食べているアリス先生を見ながら、砦に到着した時の戦いを思い出していた。
あの時は気絶したからな。スターダスト・フォールは未完成の技だな。今は使いこなせない。
もっと消費が少なくて、コントロールしやすい技じゃないと厳しいな。
煌力を手元から離して使うと、凄まじい集中力が必要だ。倒れた原因だろう。
そして消費も激しい。狙いが甘いから無駄をなんとかして消費を減らさないと。
同じ効果でなくても近い効果が欲しい。
スターダスト・フォールの利点は、攻撃の起点が判りにくいため不意打ちになること。
上から撃つので後ろの敵も狙えること、そのため範囲が広いこと。
集中力さえ有れば、殴り合いをしながらでも使えるから戦術の幅が広がる。
うーん。マザーゴブリンの所に行く時に、空を飛んで光弾を降らせたな。
スターダスト・フォールの利点がほぼ消えるものの、効果は似ている。
よし、あれを…………えーと、インフィニティ・レインと名付けて使うか。あれなら手元から撃つ分、狙いが定まりやすいし集中力もあまり要らない。無駄弾も減ったら消費も減る。
あとは怪我さえ治ればな。片腕じゃゴブリンロードと戦うのは危ない。
回復魔法は難しいからな。アリス先生も苦手だし、高位の神官とかが使うらしいから戦場に使い手が居ない。
攻撃魔法のほうは理解しやすいからな。逆に回復魔法は理解しにくい。結衣はなぜか得意だけど。
炎なんかは見たまんまだけど、回復魔法は見た目は光ってるだけだもんな。
考えていたら、2時間経ったようで迎えが来た。
女性兵士に案内されて会議室に着くと、ランドのオッサンたちも揃っていた。
「これで全員だな。ユート殿、怪我をしているのに悪いな。皆もご苦労。厳しい戦いだが、頑張ってくれ」
扉の真正面にある円卓の奥に座って、40歳くらいのおじさんが挨拶した。
モーガン・フレッカーという名前で、領軍の司令官を務めている。
オレたちも席に着くと作戦会議が始まった。まずは副官から状況の説明をされる。
「状況は極めて危険と言わざるを得ません。現在の戦力は1万人ほど、負傷兵が1500人弱、負傷兵の世話に800人、死亡した兵が227人」
10万のゴブリン相手だと、攻撃に移れそうにないな。食糧もいつまで持つか。
「食糧はあと2週間分ほどなので、冒険者の皆様に何とか輸送をして頂くしかありません。王都からの援軍は一月は掛かるはずです。水は戦闘を考えなければ、魔法で対処可能ですが食糧だけは、なんとしても補給が必要です」
食糧補給をするには、なるべく早く砦を出て領都に戻らないと。どんなに急いでも馬車だと往復1週間ちょっと必要だ。
「時間の短縮のために、領都に飛行円盤で連絡しましたので、砦から3日くらいの位置で合流できる手筈です」
そうか、向こうからも運んで貰えばいい。砦に送れる戦力はもうないけど、食糧を送るだけならできる。
副官は指輪の性能を知らないから、オレたちなら3日じゃなく2日で大丈夫だろう。
「問題は砦を抜けることと、戻ることです。戻るのは先日の戦いから見て大丈夫だと思われます。しかし砦を抜け出すのに力尽きてしまえば、ゴブリン共に追っ手を掛けられ負けてしまいます」
それなんだよな。ゴブリンに追ってこられると終わりだ。
「追っ手を防ぐには、こちらも出撃するしかありませんが、戦力が足りませんから出撃が無理なのです」
どうしようもないな。
「そこで冒険者の皆様に意見を聞きたいのです」
オレの怪我が回復するか、指輪の性能をばらすしかない。怪我が治ればゴブリンロードを倒して、統率を取れなくすれば追っ手はないだろう。
指輪の性能をばらせばダミーの馬車は必要ないから、オレが1人で飛んで行けばいい。回復もできて一石二鳥だ。
オレが1人で飛んで回復しに行くという手もあるけど、補給出来ないから、ゴブリン軍団を早目に倒さないと飢え死にだ。
オレとアリス先生は、最悪飛んで逃げれるけど、オッサンたちを置いていけない。オレの指輪を誤魔化すために来てくれたんだからな。
こんな状況でも、オレの指輪の秘密を話さないでいてくれる。
「…………アリス先生、指輪のことを、ばらしてもいいですか?」
小声で相談する。
「勇人の好きにしていいぞ。厄介な権力者に目を付けられたら3人で逃げればいい」
迷いもなく真っ直ぐ見詰めて決断する。オレはアリス先生のこの目に弱い。
「司令官さん、1つだけ方法があります。オレの秘密を守ってくれるならば……」
アリス先生のように、司令官を真っ直ぐ見て話し掛けた。
そんなオレに何か感じたのか、居住まいを正して真っ直ぐ見返した。
「部下と国を救うためなら何でもしよう。私の命に代えても」
オレは信じて話し始めた。




