アリス先生とお風呂タイム
「ですから、新しい使い方を試していたら、弱点があって怪我しただけですって」
オレの説明を聞いても、アリス先生は腕組をして睨んでいる。
しかし、怒っても可愛い目なので迫力はまったくない。
結衣が拗ねた時みたいな感じで、軍医のお爺さんも小さな孫を見る目をしている。
「なんで危ないことをするんだよ……アタシは頼りにならないか?」
怒ってた目は可愛くて和むけど、悲しそうな目は心が痛む。
「頼りにはしてますよ。ただ、新しい力を手に入れて試してみたくて」
心配を掛けるのは大人じゃないな。反省しよう。戦いはやめないけど。
「これからは戦いに行くときは、ちゃんと先生に言うよ」
「戦うこと自体、アタシはやめて欲しいんだけど……ハァ~、男だもんな、力があるのに何もしないのは落ち着かないか……」
オレの目をじっと見て、溜め息をつきながら許してくれた。
「彼氏持ちの同級生も愚痴ってたもんな~。男は女に理解できないことに夢中になるって」
子供の頃からやってる訓練はやめられないし、日本だと使い道がなかった武術が役に立つのは嬉しいんだよな。
だから余計に張り切ってしまう。でも好きな人を心配させないように、もっと強くなろう。
「次は怪我しないようにもっと強くなって、先生と結衣を守るさ!」
そう宣言したオレを見て、少し赤くなりながら先生は口を開いた。
「……嬉しいけど、そういうことじゃないんだよ~。強くなるのはいいけど、それで危ないことをするのは……」
強くなっても心配する気持ちは、オレには解らないな。女の子ならともかく、強い男を心配するなんて。
治療を終えたオレは、アリス先生に付き添われて部屋に戻った。
「服も汚れてるし、お風呂に入ろうな! アタシが洗ってやるから」
「片腕が使えないだけで、風呂くらい自分で入れますよ!」
まだオレは子供扱いされてるのか?
「痛いだろ~。怪我人なんだから照れるな!」
別に裸を見られても、男だし気にならないけど。
「それにあんまり役に立ってないからな……先生にも何かさせてくれ」
そういうことなら納得しておこう。
「それより、風呂なんて砦にあるんですか?」
「聞いたらあるって案内してくれたぞ! アタシが魔法でお湯を作るから」
風呂のことを聞いた時に、兵士が湯を沸かしてくれようとしたらしいが、アリス先生ができるみたいだ。
さすがに煌力製品の湯沸し器はないらしい。戦場だし砦を敵に奪われたり、壊されたりするだろうし仕方がない。
「ここだここだ! アタシも魔法の練習してるんだぞ! 攻撃魔法以外は苦手だけどな!」
子供が自慢をするように見えると言ってしまいそうな、楽しそうな表情で言う。
苦手な魔法があるのに、なんでそんなに得意げに。先生は前向きだな。
風呂場について靴を脱いで入る。大勢の兵士が使うだけあって広い。
「こういう細かいのは結衣ちゃんのほうが上手だけど、ちゃんとできるからな?」
そんな言い訳みたいなことを言ったら、出来ないみたいじゃないか。
アリス先生が、かなり広い湯船に水を満たし(失敗して溢れさせた)、手から炎を発して水に入れた。
「最初から水じゃなくてお湯を出したらいいんじゃ?」
「そんな細かい調整は今のアタシにはムリなんだよっ!」
水が少しずつ温まってきたのか、湯気を出し始めた。調整をミスったのかグツグツしだして、慌てて手をお湯から出す。
「まあ、ちょっと熱いけど、準備してる間にちょうどよくなるよな!」
失敗したのに自分の仕事に満足したのか、腕を組んでウンウンと頷いている。
「ほらほら、脱がすぞ? 腕を吊ってる布を外してくれ」
そのあと、先生がボタンを外してくれる。上の方のボタンは外しにくいのか、背伸びしているので、オレがしゃがむ。
外しやすいようにしゃがんだのに、アリス先生は拗ねた顔をして軽く睨む。理不尽な。
「アタシはまだ成長期が来てないだけだぞ! おっぱいだって毎年1㎜くらい成長してるからな!」
それは無理のある言い訳だと思う。ずっと若い見た目なんだから喜べばいいのに。女性が羨ましがるだろう。
胸はただ脂肪が付いただけな気がする。その体格で胸が大きくなかったら不気味だと思うが。
「気をつけるけど……包帯が濡れたら後で換えるか」
腕が包帯で添え木をされているので、脱ぎにくい。アリス先生が力を入れて服を引っ張っている。
御菓子買ってと言って、服を引っ張る子供に見えるのが微笑ましく哀愁を誘う。
「や、やっと脱がせた。こっちの世界の洋服は伸び縮みしないな~」
ぜぇぜぇしながら、正座で服を畳んでいる。やはり子供がお手伝いをしているように見えてしまう。
いざという時と普段のギャップが凄い。普段のアリス先生はホッとするな。大人にならないと、っていう焦りが消えるよ。
「…………やっぱ鍛えてるだけあって凄い筋肉だな~。細マッチョを極めた! みたいな?」
「なんです? 藪から棒に」
「いや、女の体とは凄い違いだと思ったんだ」
おおっ、10年以上鍛えた体のお蔭で、少しだけ男だと意識してくれたな。
「とにかく! 下を脱がすからタオルは巻いてくれよ? さすがに恥ずかしいし……」
タオルを巻き中に入ると、湯船の温度を確かめた。まだちょっと熱い。
湯を少しずつ掛けて汚れを落とす。そうしていると、アリス先生がタオルを巻いて入ってきた。
「アタシの色気にやられたか?」
絶壁の胸を張り、仁王立ちしている。もう少し色気のあるポーズをして欲しいよな。
「体を洗うから左腕は上げといてくれ」
タオルに石鹸を使い泡立てている姿は、子供が……以下同文。
両手でゴシゴシ背中を洗っている姿も、以下同文だ。
何をするにしても色気より可愛げが。
「痛くないか? 腕を上げてるのツライだろ?」
「肩は大丈夫なんでそれほどは……」
「そっかそっか、よかった」
ニコニコしながらオレの体を洗っていく。オレは右手で下半身を洗った。
木で出来た風呂桶でお湯を掬い、包帯が濡れないように掛けて貰い、同じように髪も洗ってくれた。
「アタシも体を洗うから、先に入っててくれ。風邪なんか引いちゃ結衣ちゃんも心配するぞ」
アリス先生は髪を洗いながら、先に入るように勧めた。
先生の髪はゆるふわだけど、美容院とか機具で何かしているわけではなく、癖っ毛だそうだ。
湯に浸かってアリス先生を見ていると、風呂桶を取ろうとした時に、泡が目に入って騒いでいる。やっぱり色気より……。
湯を入れた風呂桶を渡すと、目をゴシゴシして、晴れやかな顔で笑った。
「ちょっと焦った~!」
アリス先生の元気な声に混じって、ドアの向こうから華やかな声が聞こえてきた。
「やっと交代だね~」
「ゴブリン多すぎだよね」
「援軍が来ないとヤバいよね」
「マザーが倒されたのが唯一の希望だよ」
風呂場の扉を開けて入ってきたのは、会話の内容からして、この砦の女性兵士だろう。
「……………………」
お互い見詰め合う。その中でアリス先生の声だけ楽しそうだ。
「勇人~。お湯をくれ~。なかなか泡が落ちなくて目が開けられないんだ」
とりあえずアリス先生に桶を渡す。
「あんがとな~」
お礼より早く気付いて言い訳をして欲しい。
「君がマザーゴブリンを倒したんだね」
「おかげで少し希望が見えたよ」
「毎日増えて厄介だったんだぁ」
「昨日の凄い攻撃も君がやったんだってね?」
アリス先生が説明してくれたら、納得してくれた。
そのまま入ってくるというのは、どうかと思うが。男としては嬉しいので何も言わないが。
アリス先生のうっかりで、自分が案内された女湯に連れてきていたらしい。
そのアリス先生も可愛いと体を洗われている。不愉快そうだが、膨れっ面が可愛いので怒ってるように見えない。
「もうアタシにかまうなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
風呂場だからよく響くな~。
あと、オレの筋肉をペタペタ触るのもやめて欲しい。




