煌力の、研究ついでに無双する
オレの手にやわらかな温もりを感じると、段々と意識が覚醒してきた。
眩しい光に薄く目を開けると、アリス先生が椅子に座り、ベッドに突っ伏して寝ていた。
右手でオレの手を握り、左手は枕の代わりにホッぺの下に敷いていた。
寝苦しい体勢なせいか、眉を歪めて悪夢でも見ているような表情だ。
少し考えて思い出した。どうやらオレは、力を使いすぎて気絶したらしい。
魔力を使い切っても気絶したりはしなかったから、限界を超えて煌力を使ったせいだろうな。
煌力の使用には負担があるようだ。まだ煌力の研究をする必要がある。
煌力の使用にも馴れて、息をするように使えるようになるまで、気を付けないとな。
アリス先生も疲れているようだし、オレは指輪に入った物資を早くなんとかしたい。
自分の物じゃないと、持っている間ずっと落ち着かない気分になる。
少し名残惜しいが、アリス先生の手を外して隣のベッドに寝かせよう。
起こさないようにそっと外し、なるべく優しく抱き上げた。
やっぱり小さいな。……よく戦場まで付いて来たよな。怖くなかったのか?
毛布を掛け、音を立てずに部屋を出ていく。外ではまだ戦闘が続いているのか、爆音がしている。
部屋の中だと音が小さかったけど、何でだろうな? 部屋のほうをじっと見ると煌力を感じるので、結界でも張られているんだろう。煌力の可能性をまた見つけた。
しかし、また物資を届けるのは難しいかもしれない。そもそも砦から出るのにも、敵を蹴散らせば気絶するんじゃな。
飛行円盤があるだろうし、借りようかな。空さえ飛べば同じ方法が執れるし。
人数分ないと無理か。オレの指輪の性能がバレて噂になってしまう。もっと強くなるまでは隠したい。
部屋を出て階段を何階か下りると、外に通じる扉を見つけて外に出た。
走り回る兵士を捕まえて代官の居場所を聞き出すと、倉庫に案内された。
「代官殿、ユート殿をお連れしました」
兵士が声を掛けると、鍵を開ける音がして扉が開いた。
「ご苦労様です。あとは私に任せて任務に戻って下さい」
「護衛は必要ないんですか?」
と尋ねたら、ユート殿がその気なら砦は壊滅していますよ、と言われた。
文官なのに度胸あるな。戦場で護衛も付けずに冒険者と2人きりになるなんて。
「お待ちしておりました、ユート殿。初めまして。私はユアンの代官を務めております、アーノルド・オルグレンと申します」
兵士が下がるのを確認して握手を求めてきた。
「勇人です。さっそく物資を出したいんですが」
「仕事熱心ですね。分かりました、馬車に積んできた空箱の回収をしてからお願いできますか?」
仕事熱心なんじゃなく、たんに落ち着かないだけなんだよな。
倉庫に並べられた馬車の、荷台に載った箱を回収する。そして預かった物資を出していく。
入れる時は1時間掛かったが、出すだけならかなり早いな。確認する必要がないし。
「では、私は確認作業に入りますので、ユート殿はご自由にして下さい」
オレの秘密を守るために、これだけの物資を1人で確認する必要があるんだから、頭が下がるな。
「よろしくお願いします、オルグレンさん。オレの我が儘ですみません」
謝ったオレの目をしっかりと見て笑顔を見せる。
「若者の自由を奪うことは陛下にも出来ますまい。何よりも、国のために働いてくれている方を蔑ろに出来ませんよ」
そう言って作業に戻った。
オレは邪魔をしないように、足早に倉庫を出た。
ユアンの街で演説してた時より、穏やかな印象だな。
歩きながら、考え事をする。飛行円盤みたいに煌力で空を飛べないかと。
飛行円盤をちかくで見れば、仕組みを理解できるかもしれない。
そう思って兵士に聞きに行く。声を掛けた兵士は司令官に聞いてきてくれて、10分ほどして飛行円盤を持って戻ってきた。
兵士にお礼を言って、起動させてみる。やり方は兵士が教えてくれる。
ボタンを踏んで操作するみたいだ。右側の上にあるボタンを踏むと上昇、下のボタンを踏むと下降した。
上昇ボタンを踏みながら見ると、下から煌力の青い光が吹き出しているのが見える。
上昇ボタンを踏むのをやめたら、その高さを維持できるようだ。
下降ボタンを踏むと徐々に煌力の光が消え失せて、ゆっくり下降する。
「あまり高く飛ぶと、魔石の消耗が早くなるので、それほど高くは飛びません」
高さを維持するには、それだけ煌力を集めなければならないので、消耗が激しくなるんだろう。
左側にある複数のボタンで、前に進んだり左右に進んだりする。意外に操作は簡単だな。
上昇ボタンを踏み続けてみると、20mくらいで限界らしい。それ以上は上がらなかった。出力の問題か?
オレも体から煌力を吹き出せば、飛べるかもしれない。出力しだいでもっと高く。
空が飛べれば戦闘でも有利な位置から攻撃できるし、移動も速くなる。
「ありがとうございました。楽しかったです」
「いいえ、この程度であれば何なりと仰って下さい。ユート殿はこの砦の救世主ですから。……実は王軍の到着まで食糧が持ちそうになかったので、九死に一生を得た気分ですよ」
それで扱いがいいのか。オレが仕事を受けないと、食糧不足で戦いにならないんだろうな。
「それで少し聞きたいんですけど……、空を飛ぶ魔法ってないんですか?」
煌力を使った飛行円盤があるくらいだし、魔法では飛べないのかも、と思って聞いた。
「飛行魔法は可能ですけど、実用性は低いですよ。すぐに魔力が切れるので」
魔力より煌力のほうが、出力が100倍以上あるからな。制御魔法に魔力1使って、魔力100使うより威力があるのは判る。
オレの魔力は100くらいしか無いので、検証が出来ないけど、150倍から200倍くらいだろう。もっと練習すれば出力が上がるかもしれないけど。
つまり、オレは魔力値1万5000~2万くらいの力が出せる計算だ。
フルパワーの一撃だと、1万くらいの敵を殲滅できるから、アリス先生も同じくらいの威力は出せるはず。
オレの使ったスターダストフォールは、まだ未完成で無駄弾が多い。
全て命中すればもっと倒せるようになるし、同じ数を倒すにしても消耗を少なくできる。
「ユート殿? ユート殿の魔力なら十分な時間飛べると思いますよ」
黙り込んだオレを、飛行魔法は役に立たないと聞いて落ち込んでいると思ったのか、フォローしてくれる。いい人が多い国だな。
「ありがとうございます。いや、包囲された砦から出て行く方法がないと、物資の補給が出来ませんからね。入る分にはオレが力尽きても、仲間が運んでくれるので」
「そうですね。力尽きてしまえば、ゴブリンに追い掛けられてやられてしまう。飛行円盤を使うしかないでしょうね。数個しかありませんが」
それだと、ダミーの馬車を連れて来るには人数が足りない。
指輪の秘密を知る冒険者を増やすしかないかな。ここに残って戦うにしても、食糧がいつまで持つか。
少しでもゴブリンの数を減らしておこう。1日300匹以上は殖えるから、後方に居るマザーゴブリンを早目に倒しておきたい。
「ハァァァァァァァ!」
煌力を体に集めて下に放出する。
砦の石畳の上を砂埃が舞う。
オレの体がゆっくりと浮かび上がった。コントロールが難しいけど飛べる。
出力や放出の方向をミスると、壁にでも突っ込みそうだが。
「おおっ! さすがはユート殿。いきなり飛べるとは魔法のエキスパートですね」
魔法ではないが、端から見ると違いは判らないんだろう。瞳を見ない限りは。
「それじゃあ、マザーゴブリンを仕留めてきます。指揮官に伝えておいて下さい」
兵士に告げて戦場に飛んでいく。集中力がいるけど、空を飛ぶのは気持ちいいな!
砦の壁を越えて、ゴブリンの上を飛んで後方に向かう。ついでとばかりに、両手から光弾を連続で降らしてゴブリンを爆破していく。
1Km以上の距離も、わずか数十秒で到着して、下に居るマザーゴブリンを睨みつけた。
次々とゴブリンを産み出していく。ヌメッとした液体が滴り落ちるゴブリンがむっくり起き出し、戦場に向かう。
こんなにおぞましい出産を見るはめになるなんて。ツイてない。




