煌力の可能性は無限大
飛び蹴りを食らって、首の骨を折ったリザードマンが砂塵を上げながら吹き飛んで行く。
勇人は着地と同時に、動揺して浮き足立つリザードマンたちに青い瞳を向ける。
次の獲物を探した勇人は、冷静にこちらを見ていたリーダーらしき敵に狙いを定めた。
動揺して動けないリザードマンたちの間をすり抜け、リーダーらしきリザードマンに向かう。
2人の目が交錯し、勇人に向かって突き出された槍を、左手でそっと押すように、軽く逸らして軌道を変えた。
「煌刃裂波!」
手刀に纏った刃のように鋭い煌力が、リザードマンの首を斬り落とす。煌力の袖を纏ったような攻撃範囲なので、2~3匹くらいならまとめて斬れそうである。
その刃は熱を放って傷口を焼いているのか、血が噴き出したりもしない。
リーダーがやられて激昂していたリザードマンが、戦闘態勢を取る前に、勇人は次の技を放った。
「オメガ・ブロー!」
腰だめにした右拳が青白く光り、踏み出す脚が地面を抉った次の瞬間、リザードマンの腹は消し飛んで真っ二つになっていた。
ようやく自分たちが、強敵の襲撃を受けたことを認識したリザードマンたちは、各々の武器を構え、勇人に攻撃を仕掛けた。その瞳は、血のようにドス黒い赤に染まっていた。
背後からの攻撃すら、見もせずに首を傾けて躱す。
同時に繰り出される刃も、一歩体を動かすだけで避けた。
「解る。空気中の煌力が、オレに敵の動きを見せてくれる」
自分に余裕があることを理解した勇人は、リザードマンたちを練習相手に選んだようだ。
目を瞑って攻撃を捌いている。隙を見つけたら掌底を食らわしノックバックさせる。
業を煮やしたリザードマンが、尻尾を振り回し攻撃するも、掴まれて逆に振り回される。
振り回されたリザードマンは、仲間を薙ぎ倒しながら悲鳴を上げた。
回転の途中で手を放され、20mほど先の岩場に叩きつけられ、崩れた岩の下敷きに。
薙ぎ倒されたリザードマンたちが起き上がると、順番に指先から青白いレーザーを放つ。
口や目を貫かれ、脳を破壊されたリザードマンたちは、何があったのか解らないまま、あの世へと旅立った。
「サイレント・キルレーザーの威力も、威嚇レベルじゃないぞ。至近距離からでも撃てるし……凶悪な威力だ」
1匹だけ残した勇人は、通常攻撃の威力を調節するために、身体強化だけで殴り掛かった。
『グァッ!』
一撃一撃が重い。鈍器で殴りつけているような音が響き渡り、その度にリザードマンの呻き声が耳に入り、聞いていると、自分まで痛くなりそうだ。
「次は必殺技の手加減だ! これで終わりにしてやる!」
皮膚がベコベコにへこんだリザードマンから、大きく距離を取り、両拳に煌力を宿す。
そして、フラフラしているリザードマンにラッシュを仕掛けた。
突進から右のストレートが決まる。ノックバックするリザードマンにさらに左の拳でストレート。更に下がるリザードマンに連続して左右の拳を打ち込んだ。
「ミーティア・ラッシュ!」
青白い尾を引いて、マシンガンのように打ち込まれる勇人の拳は、流星のようだ。
リザードマンは立ったまま、流れ星の連撃を受け続ける。倒れたり、吹き飛んでいないところを見ると、勇人の手加減は上手くいっているのだろう。
勇人が放った攻撃は、アイアンリザードマンの体をボロボロにして、ようやく止まった。
「はぁ。一撃目で殺すことも出来る、はぁはぁ、だろうけど、強敵と戦うまで本来の威力は出さないでおこう」
勇人は体力を回復しつつ、リザードマンの死体を回収する。その際も、勇人の瞳は青いままだった。
勇人の魔力でも、制御魔法の消費は少ないので長時間、煌力を操れるのだ。
死体を全て回収し終えた勇人は、岩に腰掛けて考え事をしている。
遠距離攻撃や範囲攻撃が少ないので、必殺技のバリエーションを増やそうと、頭を悩ませていた。
「纏めて吹き飛ばす攻撃は絶対に必要だよな。でも味方は巻き込めないからコントロールが……」
グ~。勇人は腹の虫の抗議も無視して必殺技を考え、コントロールを先に練習することにした。
青く光る玉を出し、自分の思い通りに動かすという練習を始めたのだ。
それと並行して、感知能力も高めようと周囲の煌力に働き掛けた。これは日課にするつもりだ。
遠くから見たら、精悍な顔立ちをした少年が求道しているように見えるだろう。しかし近寄れば、腹の虫が煩く大合唱している腹ペコ少年に見える。
この音を聞いたら、子供でさえ持っていたお菓子をくれるかもしれない。
煌力で戦うと無性に腹が減ることに、勇人はまだ気付いていなかった。
2時間ほど修業して、腹の虫が煩いのに気付いた。凄まじい集中力だ。
「腹が減って来たな。とにかく補給しないと」
勇人は収納の指輪に目を向けてから気付いた。自分が食糧を持っていないことに。
普通は食糧や水など持って行くのだが、煌力を使えるようになった勇人は、浮かれて飛び出したので忘れていた。
「失敗した~。すぐに食べられる物を、余裕のある時に腐るほど補充しておこう。金がなくても飢えなければ大丈夫」
どのみち収納の指輪に入れておけば腐らない。女神がくれた神器なのだ。普通の収納の指輪とは違う。
ちなみに、普通に買える収納の指輪は、安い物で大袋2~3個分の収納量。値段は30万シリンくらいなので、頑張れば一般人でも買える。
見た目は魔石が大きいか小さいかで、値段と性能が変わるのが判る。
女神に貰った物は安物みたいな見た目なので、新人が持っていても変に思われない。
魔石は、全ての煌力製品の制御魔法を起動するエネルギー源なので、家庭用でなければ必須なのだ。
魔石の魔力を使い切ると交換が必要、そのため魔石は高値で売れるのであった。
魔石の値段は、密度で決まる。大きくても密度の低い物より、小さくても密度の高い物が高価になる。大きくて密度も高いのが1番だが。
勇人たちが魔力測定をしたみたいに、魔石にも専用の測定器があり、魔力値を計れる。
腹ペコではあるが、動けないほどではないので、感知した魔物の集落を襲い、新必殺技の開発をしているが、コントロールがあまく、勇人の思い描く完成にはほど遠い。
ゴブリンやオークの集落を1つずつ潰して、街に帰ると屋台で串焼きなどを食べた勇人は、冒険者ギルドに立ち寄りオークの魔石を131個、ゴブリンの魔石を335個、アイアンリザードマン1匹の死体と魔石8個を売った。
魔石だけなら、収納の指輪に入らないこともないので変には思わない。
リザードマンの死体は、街に入る前に取り出して引きずって持ち帰った。
「……もうこんなに強くなったんですね。斬られたリザードマンとかはユートさんが倒したんですよね?」
勇人が剣を使って斬ったと思ったようだ。魔力の高いアリスや結衣がいるので、数では少ししか驚かなかったようだが。
勇人1人で倒したと話したら、疑われていたかもしれない。勇人は賢明にも3人で倒したかのように報告した。
結衣とアリスは疲れて先に帰ったのだ、と誤魔化した。家の掃除をすると言っていた。
「全部で246万2500シリンです。内訳は……」
「あっ、必要ないです。200万くらいになればいいと思っていたので」
勇人の収納の指輪の中には、オーク131体分、アイアンリザードマン7体分の死体がまだある。
オークの死体だけでも数百万にはなるので、いまの所は金の心配はないのだ。
アイアンリザードマンの皮は、1体分で平均25万シリンはするので、今回受け取った金で半年以上は暮らせる。
もっとも、スラムの貧民なら数年暮らせるだろう。一般家庭でも1年以上暮らせる。
冒険者たちに祝福されながら家に帰った勇人は、事情を聞いたアリスに、危ないことをしたらダメだと叱られて、子供扱いに納得がいかない。




