落ち込んだ嫁さんたちを元気づける
昨日のことがあったからか、朝はみんな眠たそうだった。
あんないい子が、最悪1ヵ月後までしか食べられないと聞いたら、マトモな人間ならグッスリ眠れないだろう。
しかし、あの子を保護するのは簡単だけど、他の子を見たら、その子も助けたくなるだろう。
財力はあるけど、国ができないことをする財力はない。
200人くらいなら助けられなくはないけど、孤児は戦争が始まれば増える。
軍備に金を使わなければ、戦争に敗けて孤児どころか国民全員が貧困になるかもしれないし。
現状は国もオレたちも大したことはできない。
あの子を助けたところで、他の子の現状を知って余計に悲しい気持ちになるだろう。
オレにできるのは、戦争に参加して味方の犠牲を減らし、そのうえで可能な限り早く勝つことだ。
「みんな眠そうだし、今日も泊まって明日出発しようか?」
「この街は悲しい気持ちになるから、早くエルフの街に行きたいけど、寝不足で旅をするのは危険だもんな……」
この街に限らず、どの国のどの街にも孤児はいると思う。
村とかなら人数も少ないだろうから、誰か村人が引き取るか、村で育ててるだろうから、孤児はいても浮浪児はいないけど。
浮かない気持ちのまま、オレたちは朝飯を食べる。
なんとか元気づけられたらいいんだけど、遊びに行ったりしても浮浪児を見掛けるだろうしな。
他の街だとスラムで生活しているだろうから、見る機会はあまりないし、ただの貧乏な子供も似たような格好だし気付かないかもしれないけど。
今回は話を聞いてしまったから、浮浪児の境遇を知ってしまった。
この街は兵士の見回りが多いから、スラムが存在しないらしいし、確実に見掛けるだろう。
考え事をしながら食べていたら、無口な食卓になってしまった。
せっかくの新婚旅行なのに、このままじゃマズイな。
「オレが戦争で活躍できれば発言力も上がるし、孤児院の件に関して各国の王に頼めるかもしれないぞ?」
「叔父ちゃん、ほんと!?」
「ああ。それに、活躍すれば報酬の高い仕事を頼まれることも増えるだろうから、オレが孤児院を作ることもできるかもな」
続けるには継続的な収入が必要だけど、収納の指輪を利用すれば、商人相手の運送業で安定して稼げるだろうし、指輪さえ有ればオレの子供が引き継ぐこともできる。
「実現可能な方法もあるし、大丈夫」
オレもとことん甘いな。
やっぱり嫁さんたちに弱いのかもしれん。
「旦那様が活躍しないはずもないもん。私も活躍して騎士になって子供たちを守るわ!」
騎士になれば信用度は増すから、孤児院に安心して出資してくれる人もいるかもしれないな。
「私はお料理を子供たちに教えましょうか~。孤児院を出ても就職先に困らなくなりますし」
マリーナが剣を教えれば、レイラの料理と併せて就職先が増えるな。
「私は魔法か? あんまり細かい魔法は得意じゃ……」
アリス先生の魔法はやめたほうが。
「お家にお友だちがいっぱいになるね!」
いや、自宅と孤児院は分けるほうがいいと思うが。
結衣は友達が欲しいんだろうか? フィーリアとも仲良くしてるし、見た目が同年代だからかもしれん。
ようやく明るくなってよかったけど、家族を幸せにするのって大変だな。
兄貴に改めて感謝しよう。親孝行というわけじゃないけど、結衣は絶対に守るからな。
いろいろ大変だけど、オレの名声さえ高まれば、人も物も金も集まるだろうから、孤児院の経営くらいなんとかなるはずだ。
子供たちの人生が懸かったプレッシャーのせいで、味を楽しむ余裕もなく食事が終わった。
四竜将もいるし、活躍できるかな? できるといいけど、強いんだろうな。
オレはドラゴンの力を利用して倒したけど、まともに戦っていたらダメージを負っていたはずだ。
四竜将だって激戦の末に倒したっていうから、実力的には差はほとんど無いはずだけど……戦いの経験とか相性もあるし、2人同時には相手できないぞ。不安だ。
「オレはちょっと修行してくる。戦争に備えて新しい必殺技を完成させたい」
「また勇人が破壊活動を……妻として止めたほうがいいか?」
「私に聞かれましても~。この前は凄かったですねとだけ、言っておきます~」
「ニコニコして話す内容じゃないけど、強くなって無事に帰ってきて欲しいから、私は止めないわ!」
「それを言われると……アタシも未亡人はイヤだし」
女の子たちの朝飯の残りを、オレたちの話を聞きながらモグモグ食べているフィーリア。
宿のメシなので、女の子たちには多かったのか口に合わなかったのか知らないけど、フィーリアは問題ないようだ。
結衣は話がよく解らないのか、フィーリアの口を拭いてあげたりして、話には興味がなさそうだ。
ところが、モグモグしていた食べ物を飲み込み、フィーリアが立ち上がる。
「リア、どうしたのよ?」
「誰か近付いてくるよ? 音がするから武装してる」
みんなが静かになる。
確かに足音が近付いてくるな。
「とりあえず壁際に移動してくれ。オレが対応する」
女の子たちが移動すると、扉の前で人の気配が止まった。
落ち着いたノックをしてきた。敵意はないようだけど、破滅の手の連中なら、何の変化もなく、さらっと殺しそうだから油断はできない。
「どちらさんかな? 朝から武装して人の部屋に来るのは感心しないぞ」
「……失礼しました。武器は外しますので、お話を聞いていただけないでしょうか?」
少しだけ驚いたように息を飲み、壮年の男の声が答える。
そして武器を床に置くような音が聞こえてきた。
「それならオレが伺います」
部屋を出ると、一礼する騎士の姿が見えた。
「このような時間に失礼しました。しかし、オズワルド様は戦争の準備で忙しいものでして、このあと2時間しか空いていないのです。ご容赦ください」
オズワルドって、この辺りの領地を治める辺境伯家の現当主だな。
「辺境伯も参戦されるんですか?」
「はい。家督をご子息に譲り、ご自身は戦場に向かいます」
貴族の義務だもんな。
息子を行かせないのは、家を維持するのも貴族の義務だからだろう。
「それで、ユート殿がこちらにいらしていると聞き、ぜひ会いたいとおっしゃったのです」
偽名を使ったのに、もう見つかったか。
武辺者とは言っても貴族は貴族。情報収集は得意なようだ。
戦争の準備で動かせる兵士は少ないだろうに、たぶん昨日のうちからバレてたな。
「わかりました。戦場でお会いする機会もあるでしょうし、先に挨拶をしておきます」
実直な武人らしいし、会わなくても嫌がらせされたりはしないだろうけど、戦場で気まずい思いはしたくないし。
権力者の知り合いを増やしておけば、孤児院を作っても、周りからのちょっかいを減らせるしな。
「ありがとうございます。オズワルド様もお喜びになるでしょう。主に代わって感謝いたします」
護衛の騎士かなんかを寄越したのかね。
主人を名前で呼んでるし、近しい関係なんだろう。
準備をするので待って貰い、部屋のドアから心配そうに覗いているみんなと部屋に入る。
「そういうことで行ってきます。街には行ってもいいですけど、街の外には出ないでください」
「わかった! 夫の留守を守るのが妻の役目だからな、任せろ!」
得意げに腰に拳を当てて胸を張る。
頼もしいより可愛らしいけど、意外にしっかりしてるしな。
「んあっむぅ…………ぷはっ。いきなりキスするなよ! びっくりしつ息するのを忘れちゃったじゃないか!」
キス中に鼻で息をすればいいだけなのに、慣れない人だな。
「叔父ちゃん叔父ちゃん、結衣にもチューして?」
袖を引っ張る結衣のほっぺにキスをすると、他のみんなもジーッと見ていたので、みんなのほっぺにもキスをした。
フィーリアもちゃっかり並んでいたので、ほっぺにキスをしてみたが、考え込むように首を捻った。
「くすぐったいから笑った?」
女の子たちの笑顔の理由が知りたかったみたいだな。
少しずつ感情が豊かになってきている。いい傾向だ。
オレは準備を終えて、騎士のあとを付いて行った。
後ろで手を振る女の子たちに、手を振り返しながら、辺境伯の屋敷に向かった。




