結婚式
ドレスの注文が終わったので、次は指輪を買いに行く。
婚約指輪は渡したから、結婚指輪を買わないといけない。
店売りのは、1番小さいサイズでも合わなかったので、こちらも注文するしかない。
婚約指輪と違って、毎日のように身に付ける物なので、サイズがピッタリでなければ落っことすだけだ。
「せっかくですから、婚約指輪のサイズも直して貰いますか?」
「別に身に付ける物じゃないしなぁ。お金がもったいないぞ?」
宝石を取り外して、指輪の部分を作り直すだけだから、たいした額にはならないと思うけど。
確かに無駄といえば無駄だろうな。でも完璧にしたいというか。
オレはゲームとかでも宝箱を取り忘れたら、例え店で買えるアイテムでも取りに行くタイプなんだよな。
それで完全回復アイテムとかも、最後まで使わずに取っておいたりもする。収集癖があるんだよな。
99個ある薬草でも、1つでも欠けるのが嫌なタイプというか。
「せっかくの婚約指輪ですし、プロポーズも終わったから、サイズを測って作り直しましょう」
「まあ、一生に一度のことだし……勇人がいいなら直そうか」
記念の品になるわけだし、それがいいよな。
婚約指輪もないのにプロポーズするのは微妙だったから、サイズが合わないのを買ったのは仕方ないにしても、そのままにしておく理由はないもんな。
「女のアタシが拘るなら解るけど、なんで勇人が拘るんだか……」
「それは仕方ないですよ。初めてのお嫁さんの一生の思い出になるわけですし、完璧にしたいじゃないですか」
いい思い出にしないと、旦那としてどうなんだって話だし。
お嫁さんになってくれるんだし、幸せな気分を多く感じて欲しいからな。
「男は男で結婚するとなると大変だなぁ。アタシは出産が不安な体格だから、結婚してからのほうが大変だけど」
アリス先生が自分の体を見る。
オレもつられて視線を向けた。
アリス先生のお腹を撫でてみる。
「くすぐったいぞ……」
このペタンコなお腹が、いつかオレの子供を宿すかと思うと、凄く不思議な気分だ。
本当にこの体格で妊娠しても大丈夫なんだろうか? なんかオレまで不安になってきた。これはマリッジブルーか?
「おっ! 勇人、この先の店で買ったんだよな?」
「ええ、そうです。とりあえず1番大きな店なら大丈夫かと思って」
「1回だけ入ってみたかったんだよな~。でも高そうだから外から見て逃げたんだ」
なぜ逃げる?
まあ入りやすい店ではないけど、ちゃんと金は渡してるんだから余裕だろうに。
教師だったころの金銭感覚が抜けてないのかもしれない。贅沢する人でもないしな。
店内に入ると宝石がシャンデリアの灯りを反射して、ちょっと目がチカチカする。
アリス先生はキョロキョロして不安そうな顔だ。金はあるんだから堂々とすればいいのに。
アリス先生の手を引いて、婚約指輪を買った時に応対してくれた店員の所に行く。
婚約指輪のサイズを直してくれるように頼むと、アリス先生を見て少しだけ驚いたけど、すぐに請け負ってくれた。
アリス先生の指のサイズを測って、婚約指輪を店員に渡す。
2日後には作り直しが終わるらしいので、最終的なチェックをしに来てくれるそうだ。
オレとアリス先生の結婚指輪も作りたいので、オレの指のサイズも測って貰った。
「材質などはどういたしますか?」
担当の女性店員が聞いてきたので、少しだけ考えて魔法の指輪を作って貰うことにした。
「防御力を上げるような魔法の指輪を作れますか?」
「言霊を刻み込めば、魔力を流している間に発動する指輪をお作りできます」
魔石を取り付けないと、自前の魔力を使うはめになるらしい。
ただし、使う魔力はそれほど多くないらしいので、たいして負担にはならないだろう。
最初に魔力を流せば、止めるか魔力が切れるまで自動的に発動するので便利だ。
「材質はミスリルなどが適しています。お値段は高価になってしまいますが」
「魔石そのものを指輪に加工できませんか?」
「……魔石ですか。加工の手順が増えるのでお値段が上がってしまいますが」
ドラゴンの魔石を使えば、いい感じの魔法の指輪になりそうだな。
材料費は必要なくなるし、たいして値段は変わらないはずだ。
「お願いします。魔石はオレが用意するので、それで作ってください」
「あの魔石を使うのか? 高い結婚指輪になりそうだな~。身に付けるのがちょっと怖いぞ」
身を守るための指輪を怖がられても。
魔石を使えば、自前の魔力を使わなくてすむ。最初に起動のために流す魔力だけでいい。
魔石は魔物の額にある物で、魔力を溜めておける性質があるらしい。
使うと魔力が無くなるが、2級以上の強力な魔物の魔石は、魔力を発生させる性質があるそうなので、時間が経てば回復する。
ドラゴンは1級の魔物なので、強力な魔法でも発動させなければ、魔力切れを起こさずに使えるだろう。
付与する防御魔法は、魔力切れを起こさないギリギリの防御魔法を付与して貰うように注文した。
何の魔石かは言わずに、必要な量の魔石の欠片と代金を渡してから店を出た。
せっかくなのでみんなの分も作って貰う。
「あとは教会に行って予約するだけか?」
「はい。ドレスや指輪ができてからなんで、2週間くらい余裕を持っておきましょう」
うろ覚えの知識だけど、地球みたいな感じの神父をやって貰おう。
いろいろな準備が必要になりそうだ。
教会で神父に話を通す。そこそこの寄付が効いたのか、つつがなく教会を借りることができたので、段取りを話し合った。
地球の結婚式のやり方を伝えると、式までに覚えてくれるそうなので安心だ。
よく考えたら、オレの服も必要だし、2週間先だとドタバタするかもしれない。
もう予約したから変更に戻るのも面倒臭い。早く結婚したいし、忙しいのは我慢しよう。
さまざまな準備に追われ、忙しい毎日を過ごした。
そして待ちに待った結婚式の当日がやってきた。
「まずは新郎と新婦のご家族の方々、ご着席ください」
結衣たちが教会の椅子にお洒落して座っているはずだ。
「今日の佳き日に、一組の夫婦が誕生します。集まってくださった皆様に感謝を述べ、これより結婚式を始めたいと思います」
神父が結婚式の開始を宣言する声が聞こえた。
「新郎新婦の入場です。皆様、お立ちになって出迎えを」
地球だと先にオレが入場して、父親に連れられた花嫁を待つのが手順だったと思うけど、父親はいないので一緒に入る。
音楽と拍手の鳴る中、2人でバージンロードを歩いて祭壇に向かう。
「叔父ちゃんと結婚できて、アリスお姉ちゃんいいな」
「私は父様たちが戦争に出るはずだから、けっこう遅れそう」
「奥さまが本当に奥さまになるまで~、私も結婚できませんね~、順番からいって」
「アリスのヒラヒラの服…………」
「リアお姉ちゃんもドレス着たいの?」
「うん、武器を隠しやすそうだから」
マリーナたち左右に並び、拍手しながらいろいろ言っている。
祭壇の前に並ぶと、神父が聖書の朗読を始めた。
その後に神への祈りの言葉を口にした。
そしてオレたちの誓いの言葉になる。
「新郎ユート、新婦アリスを妻とし、病める時も健やかなる時も愛することを誓いますか?」
「誓います」
「新婦アリス、新郎ユートを夫とし、病める時も健やかなる時も愛することを誓いますか?」
「誓います」
「宜しい。指輪の交換と誓い口付けを」
神父が差し出した銀の盆に載った魔石の指輪を、アリス先生の左手の薬指に着けた。
アリス先生も指輪を取り、オレの薬指に着けた。
アリス先生のヴェールを上げて顔を見る。
いつもはしない化粧をしたアリス先生は、少しだけ大人に見えた。
お互いだけしか見えないほどに見詰め合い、口付けを交わす。
「幸せにしますから」
「アタシの台詞だ」
フワフワした気持ちで、あまり実感が湧かないが、オレたちは今日夫婦になるんだな。
それからは神父が結婚したことを認めて、閉式の挨拶をして終わったはずだ。
アリス先生のことや今後のことで頭がいっぱいで、あまり覚えていない。
ただアリス先生の幸せそうな嬉し涙だけが脳裏に焼き付いていた。
お陰様で100話になりました。ありがとうございます。
どうにかプロット通りに進められてます。
今後も読んでいただけると嬉しいです。




