バカだバカだと言うけれど
結衣と手を繋いで、煌力収集施設に向かう。2人きりなのが嬉しいのか、結衣はスキップしながらだ。
「叔父ちゃん叔父ちゃん。お家ができたね! また、ただいまが言えるよ」
「そうだな。帰った時は必ず言うからな」
結衣はやはり家族が恋しいのかもしれない。オレに出来る限りのことはしてあげたい。
親代わりにはならないけど、せめて稼いで金の心配はさせないようにしたい。
1時間ほど歩いて街外れにつく。巨大な建物から、電線のような物が何百本も伸びている。
街を歩くとたまに電線のような物が、家に付いていたので、これだろう。
煌力を通しても大丈夫な素材とやらか? 植物の蔦みたいな色をしている。
入り口に居る武装した警備員に、用事を話して中に入れてもらう。
事務局みたいな部屋に通され、ソファーを勧められた。出された紅茶は結衣には苦かったのか、一口でやめた。
すぐに担当の人が来て、契約の内容を丁寧に教えてくれた。日本の電気代みたいに料金を取られるらしい。
断線した時は連絡すれば無償で修理され、送煌線の取り付け作業は今日中に終わるらしい。
魔法のある世界なのて、人力で行うことは地球より、とても早い。
住所を伝えると、すぐに取り付け作業を始めてくれた。時間もあるので、制御魔法について聞いてみた。
「制御魔法ですか? それほど難しい魔法でもないですよ。魔力を制御するのと似たような魔法で、いろんなエネルギーの流れなどを変えたり、ずらしたり集めたりするだけの魔法ですから」
魔法は現象を理解していれば使えるので、見れば覚えるかもしれない。
「機密とかでなければ、煌力収集をしている所を見せてくれませんか?」
駄目元で聞いてみると、変な物に興味を持つなぁというような顔で見られた。
「機密もなにも、ほとんどの国で使われてますから」
収集施設に案内してくれたのは、施設の整備をしているドワーフのおじさんだった。
自分の作った物を見せるのが好きなのか、好奇心旺盛な子供が好きなのか、ニコニコして案内してくれた。
「いろいろなキカイがいっぱいあるよ?」
チョロチョロしだした結衣を捕まえておく。
「これ全部がないと、常に街中に煌力を送ることは出来ねぇんだぜ、嬢ちゃん」
ドワーフのおじさんが髭を撫でて自慢する。
「煌力についてはすげぇ力としか解ってねぇ。だから、これだけデカくて硬い施設になっちまう」
柱のような物をゴンゴン叩く。
「こいつは天井を突き抜けて外に伸びてる。そこから煌力を集めて、…………このタンクに溜め込む」
柱と繋がっているタンクまで歩いていく。
「そんでこのケーブルを伝って街中に煌力が届くんだ」
このケーブルはブラッドアイヴィーという、蔦の魔物の触手を加工して作ったらしい。
タンクも外側こそ金属だが、内側には魔物の内臓を加工して貼り付けている。
煌力を収集する柱の先には、魔物の触角などに制御魔法の魔方陣を組み込んだ装置なんだとか。
魔物の部位を使っているんなら、生物でも問題なく制御できそうなんだが。
神様もドラゴンとかの巨大生物の食糧になってるって言ってたし、理解すればオレも煌力が使えるかもしれないな。
「煌力を集める部分を見せて貰ってもいいですか?」
「人間は好奇心があるな。ドワーフもそうたが。だからいろいろな物を創るのかもな」
自分の仕事に興味を持つのが嬉しいらしく、二つ返事で上まで連れて行ってくれた。
整備をするために使う階段で屋根の上に出る。柱の上に宝玉のような物がある。
「あれは下級のドラゴンの心臓部分を魔術加工した物だ。何種類かの宝石の粉と混ぜて固めたらしい。それは専門外だから、知りたきゃ魔法研究者にでも聞くといい」
宝玉の周りに、青白い光が集まっている。神様が集中してた時より遥かに弱いが、同じ力なのは解る。
「叔父ちゃん、キレイだね。神様みたい」
「はっはっはっはっ! 神様みたいか! たしかに神々しい光だよな!」
神様を知らない人でも、そう思うのは仕方ないな。なのになぜ神力だと思わないのか?
「ドワーフのおじさん、触ってもいいですか?」
「バカを言うんじゃない! メチャメチャ痛いぞ! 死にたいのか?!」
力強い手でオレの腕を掴む。その力の強さだけで、どれだけ危険かが理解できる。
「…………お願いします」
「うっ…………、そんな目で見ても駄目だ! 若い奴を危険に曝せるかバカ野郎!」
「バカだというのは理解してます。でも煌力について知りたいんです! お願いします」
死ぬ気にならなきゃ強くはなれない。子供の頃から、強くなるために頑張ってきたんだ。もっと強くなって2人を守りたい。自分の限界も突破したい。
魔力が低いのを誰かにバカにされたわけではないけれど、オレ自身が情けなく思っている。
だから冒険者ギルドで魔力測定した時も、測定から逃げたくなる嫌な気分だった。
「おひげの叔父ちゃん。結衣からもお願いします。怪我したら結衣が治すから」
結衣もオレの気持ちを汲んで、頭を下げる。
「……………………仕方ねぇ。なら出力を落としてからなら、少しだけ触ってもいい」
ドワーフから目を逸らさずに見ていると、根負けして目を逸らした。それはイタズラを見咎められたような子供のみたいだった。
「ありがとうございます」
「おひげのおじちゃん、ありがとう!」
2人で礼を言うと、照れ臭そうな困った顔で、そそくさと調整しに行った。
少しして、宝玉の周りの青白い光が弱まった。階段からドワーフのおじさんが登ってくる。
「1日に何度か検査のために弱めるんだ。検査も一緒にすることにした」
予定をずらしてくれたみたいだ。
結衣を離れさせ、オレに触らないように言い聞かせた。もう一度、礼を言ってから青白い光に触ってみる。
「ぐあぁァァぁァぁァァァァぁぁァァァぁ!」
オレの全身に電撃が走り、全身の血や筋肉がカッと燃え上がり、血管が爆発したような痛みを感じてオレは意識を失った。
「いたいのいたいのとんでけ~。グスッ……、いたいのいたいのとんでけ~。いだいのいたいのとんでけ~。いたいのいだいのどんでけ~!」
結衣の声が聞こえて目を開けると、結衣の涙がオレの顔に零れ落ちた。
「結衣、ありがとう。もう回復したから大丈夫だ」
体を起こし、結衣の頭を撫でる。
「うぇっ、グスッ。……叔父ちゃん、いたくない?」
「大丈夫だ。結衣がいれば痛いのも大丈夫だ」
オレの胸に泣いた顔を押し付けて、服が破れたオレの素肌を濡らす。
「よく生きてたな、ボウズ! 前にミスして死んだ奴がいるくらいなのに!」
少しだけ制御魔法で制御したからだろう。
神様の時との違いもなんとなく理解できた。次はもっと上手く制御できるはずだ。
「結衣、もう一度やるから回復は頼むぞ!」
「またやんのか?! 今度こそ死ぬぞ!」
「叔父ちゃん、もうやめようよ……」
「今度は大丈夫だ。制御するからダメージはさっきより少ないはずだ」
立ち上がり、怪我の具合を見る。結衣の回復魔法は効くな。服はボロボロで遭難者みたいだけど。
「じゃあ、もう一度触るから離れてろよ」
「嬢ちゃんが近付きそうになったら俺が止めてやるから心配すんな! それより死ぬなよ」
頷いてからまた触る。自分でもバカだと思うが、魔力の低いオレが強くなるには、神の力が必要だ。
「うっ…………、ぐぁァァ……おぉぉぉ、くっ」
いけるぞ。さっきより断然ラクだ。
「うあぁァァァぁァァァぁァぁ!!」
気を抜いたら駄目だ。無心にならないと。これは神の力。自然界に溶け込むように存在している力だ。
「すぅぅぅぅぅ。はあぁぁぁぁ。ぐぅ…………」
これを自分の中に取り込んで、自然体だ。力を抜いてみよう。これは害のある力じゃない。抵抗は必要ないんだ。この痛みも受け入れろ。
「くっ、駄目だ!」
オレの体に荒れ狂う力が入ってきてしまい、手を離した。
「叔父ちゃん、大丈夫? いたいのとんでけ~!」
結衣の瞳が赤く染まり、オレの体に優しい力が流れ込んでくる。
魔力は理解できるんだけどな。元からある力と無い力じゃ扱いが違い過ぎる。
人間は筋力を自由自在に使えるけど、神経に電気を流して、反射速度を上げるのは無理だしな。
自覚している筋力と、自覚していない、脳から流れる電気を操るのは勝手が違う。
「今日はこれまでにして、また明日来ます」
「自殺志願者かマゾの変態みたいなボウズだな……」
失礼な。
服や靴がボロボロなので、ドワーフのおじさんがバスタオルくらいのマントをくれた。
マントを羽織ると、まさしく変態なので腰に巻いて家に帰った。
「何があったんだよ! どこかの部族の所にでも行ったのか?!」
事情を話したら、アリス先生に食事抜きにされた。
明日も行くと言ったら、残念な奴を見る目でオレを見てきた。修業なのに。




