表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/143

第九十三話 四天王最古参の妖狐『タマモ』

 ――江戸城、近郊にて。

 近くの茶屋から、魔王軍含む織田信長勢力が現れた。


 幻想遊郭から江戸城に一番近い茶屋を選んでやって来たのである。

 もう夜も深い。周囲には人影がまったくなかった。


 遅い時間帯なのでそれは当然である。

 だが、人影が一つもないという点を魔王は怪しんでいた。


「……我らの到来は予期されてるな。人払いされている」


 そう判断すると、彼女は堂々と道を歩く。

 こそこそ隠れる必要はないと判断したようだ。


「行くぞ。どうせ待ち伏せされているだろうが、気にせずとも良い。戦って蹴散らせ」


 人数にすると、織田信長と豊臣秀吉を合わせてせいぜい十三人しかいない。

 今から相手にするのは、ホドの君主だ。


 つまり、世界を相手にするのと変わらないというのに、魔王には臆した様子がなかった。


 勝利を疑わない慄然とした居住まいである。


「やっぱり頼もしいじゃねぇか……頼りにしてるぜ」


「うむ。安心するといい。我が仲間になったということは、即ち勝利を意味するのだからな。決戦まではお膳立てしてやるから、道中の雑魚は任せるのだぞ」


 織田信長とそんな会話を交わしながら、真っすぐに江戸城へと向かっていく。

 民家を抜けると、何もないが広い土地が広がっていた。


 その先には堀があり、橋が設置されている。

 だが、橋の前にはやはり、徳川家康の用意したであろう兵たちが待ち構えていた。


 数にしておおよそ千くらいだろうか。


「……あいつらは、全員【サムライ】だな。徳川家康が飼ってる精鋭たちだぜ」


「ほう。あれで全部か?」


「たぶんな。数は少ねぇが、戦闘を生業にする野郎どもだから弱くはねぇよ」


 サムライたちは魔王たちの到来を確認すると、すぐに武器を構えた。

 

「徳川家康とやらめ、勇者を餌にあえて我らを呼び寄せたな? 自らに利がある地で、確実に殺そうとしているのか」


 ここまでは徳川家康の策略通りに動かされている。

 だが、そのことを魔王はまったく気に留めていなかった。


「ハンデとしては足りんが、まぁ良い。さっさと勇者を救出しようではないか」


 千の精鋭を前にしても、魔王を含めて魔王軍は怯まない。

 むしろこの状況を楽しむかのように、不敵な表情を見せていた。


「信長様……なんか怖いっすね。戦闘狂っぽくて」


「そうか? あれくらい普通だろ」


「おっかないっす」


 織田信長と豊臣秀吉がこそこそと話している間に、魔王は最初の一手を決定していた。


「よし……タマモにこの場は任せるとしよう」


 選んだ戦略は、初っ端からの四天王投入。

 その合図に、一番後方でのんびり歩いていたタマモが、キセルを吸いながら前へ出てきた。


「ふぅ……妾がやって良いのかや?」


「うむ。だが、まずは我らをあの城に向かわせろ……その後に存分と暴れるのだ」


「分かったのじゃ。老体には重労働じゃが、全力を尽くすかのう」


 カラリ、と彼女の履いている下駄が音を立てる。

 キセルを手に持って、タマモはゆっくりとサムライたちに歩み寄った。


「止まれ! ここは通さんぞ!」


「……それは困るのじゃが」


 矢、槍、刀などが一斉にタマモへと向けられる。

 その瞬間に、タマモは九つある内の二尾目の尻尾を振った。


 そして彼女は歌い始める。

 セフィロトの言葉ではない、何者にも聞き取れない歌を……彼女は歌う。


「――――」 


 その瞬間にはもう、タマモの『妖術』が発動していた。

 



「「「――――っ」」」




 誰もが声を押し殺した。

 その歌を邪魔してはいけないと、彼らは本能で悟っていたのだ。


 何かが、いる。

 タマモの歌に引き寄せられたのは、セフィロトという世界を越えた存在だった。


 かつて、ホドの前身となった国でも奉られていた存在。


 昔の人々は、彼の存在を『神』と呼んだ。


「――――」


 歌は続く。

 舞も始まり、やがて神の存在感はより大きくなっていく。


 ゆらゆらと揺れるキセルの煙は、理から外れたかのようにくるくると渦を描いていた。


 今、動いてはいけない。

 神の楽しみを邪魔してはいけない。


 何かをしたら、神の怒りに触れて即座に死ぬ。

 そう本能が言っていた。


 だからサムライたちは、何もできなくなっていた。

 この場で動けるのは、タマモと……それから、彼女の仲間たちのみ。


「行くぞ」


 魔王は神など気にせず、足音を大きく立てて歩き出した。

 その他の魔族も同様である。織田信長と豊臣秀吉も、戸惑いがちにではあるが魔族についていった。


 その間、神は魔王たちに何もしない。

 これはタマモが、歌と舞で神様にお願いしているからだ。


『今からもてなします。歌と踊りをお楽しみください。でも、その代わりに仲間を守ってください。その他の者は、邪魔したら殺してください』


 ――と、タマモは歌と舞で訴えている。

 神もタマモの踊りを楽しんで、魔王たちには何もしなかった。


 これこそ、妖狐のタマモが持つ一つの力だ。

 九つある尾の内の二尾目に宿る、『巫術』という。


 一尾目は『わらべあそび』といい、【だるまさんがころんだ】などがある。


 尻尾にはそれぞれ力が宿っているのだ。

 四天王最古参の力は伊達じゃない。


 九本の尻尾を駆使すれば、実力そのものは魔王にも匹敵する。


 この九本目のが解放されたのは、過去にもたった一度だけ。

 ――勇者との対決でのみ、だ。


 ちなみに勇者は二尾目の『巫術』は力押しで突破した。

 神様に殺されないように戦いながらタマモと戦うという、驚異的な底力で彼女を圧倒している。


 この場には、勇者ほどの力を持つ者はいないようだ。

 誰も神様の前で動こうとせずに、結果として魔王たちは橋を渡ることに成功する。


 それを見届けて、タマモは神様を送り返した。

 ありがとうございましたと歌で伝えて、ようやくこの場から神が消失する。


 サムライたちは何もしていない。

 だが、神と同じ場にいたというだけで、誰もが疲弊しているようだった。


「さて、次は……お主たちじゃ」


 ここに至って、サムライたち主人が何に喧嘩を売ったのか知る。


「化け物、め」


 戦闘のみに特化した化け物の集団。

 それが、魔族だ――

お読みくださりありがとうございます。

本作の書影を活動報告にて公開しております。

魔王の可愛いイラストをお楽しみいただると嬉しいです!

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ