第八十五話 チョロイン魔王ちゃん
「……おい、イチャイチャしてんじゃねぇよ。おれがいるの忘れてねぇか?」
俺が魔王の膝に顔を埋めていると、さっきまで寝ていた織田信長が声を上げた。
俺と魔王のやりとりで起きたらしい。
まずいところを見られた……これでは俺が幼女をママと呼んでいる変態だと勘違いされてしまう!
「ち、違う! 普段はこんなことしないから! 別に赤ちゃんプレイとかやってないから!!」
「……聞いてねぇよ。ってか、膝枕されたままだったら説得力ねぇな」
織田信長は苦笑している。
ドン引きしている様子はなく、単純に呆れているだけのように見えた。
なかなか、器が大きいようだ。
なら別に取り繕う必要はないか。膝枕されていると非情に心地良いので、そのままの状態を維持することに。
魔王は俺を優しく撫でながら、穏やかに微笑んでいた。
「勇者は甘えん坊だからな。こうやって甘やかすと、喜ぶのだ」
「悪くねぇな、それ。おれも撫でていいか?」
「構わん。撫でてやれ」
何故か織田信長も俺の頭を撫でてくる。小さなおててが二つ、俺の髪の毛をわしゃわしゃしていた。
うーん……他人には見られたくない光景である。
でも、悪くない。そのまま俺は撫でられることに。
「おれよりもでかい男が、おれに甘えてくるっていうのもなかなか……征服欲が満たされていい気分だぜ」
織田信長もご満悦だった。
そんなことを思ってくれるなんて、いい子だなぁ……言動は荒いけど。
そうやって、しばらくの間は頭を撫でられ続けた。
少しすると、俺を挟んで魔王と織田信長は言葉を交わし始める。
「で、我らが勝ったわけだが、約束は覚えているな?」
「ああ。二言はねぇよ。なんでも言うことを聞いてやる」
内容は、決闘に関して。
勝利した方が言うことを聞く、という約束を事前に交わしていたのだ。
俺が無事に勝利したことによって、魔族側が命令権を得ている。
「ただ、おれとしては何としてでも協力を求めたい。それを念頭に入れろ」
「偉そうなことを言うではないか。全ては我の裁量にかかっている。貴様に決定権はないのだぞ?」
「分かってる。だから慈悲を求めてんだろうが。いいから言うことを聞け」
織田信長からしてみれば、お願いをしているつもりらしい。
やっぱり魔王と似ているところがあるな……偉そうな感じとか。
でも、根が悪い奴ではないのだ。
勝ったのは俺なのだが、どうにか助けてあげたいという気持ちがある。
自種族を敵にした時、味方がいない状況というのはとても心細くもあるのだ。
俺もかつて同じような体験をしているので、彼女の力になってあげたいと思っている。
「むぅ。そのような態度をとられては、あまり気乗りしないのだが」
魔王は渋い顔をしていた。
まずい。これは断ろうとしている顔だ……!
「ま、魔王? その、俺からもお願いする。やっぱり助けてあげてもいい気がするんだよな。ほら、まだホドの観光も終わってないし? 無理なことを言っているのは分かっているけど……」
「分かった! 助けてやることにしよう!」
「どうにかしてあげて――って、いいのかよ」
俺がお願いしてみると、魔王は満面の笑みで了承してくれた。
やっぱり俺のこと大好きなんだろう……チョロすぎてちょっとあれだった。
あんなに渋ってたのに、コロッと態度が一転する。
可愛いなぁ……一生大切にしないと!
「恩に着る」
魔王が協力を約束すると、織田信長は嬉しそうに破顔した。
喜んでいる時の笑顔は年相応にあどけなくて、幼い年齢を強く実感した。
彼女だって相当苦労しているはずなのだ。
幼いながらにセフィラの力が発現して、お家騒動に巻き込まれて、味方がいない中でどうにか立ちまわってきたのだろう。
やっぱり、彼女には自分が重なる。
ふと、魔王に手を差し伸べられたことを思い出した。
あの時、心の拠り所が見つけられて俺は嬉しかった……織田信長も、もしかしたら同じような感情を抱いているのかもしれない。
そうだったら、いいなって思った。
「では、我からの要求は――『物』にするか」
魔王はここで、何かを思いついたようにこんなことを言う。
「我はホドの『特産品』が好きだ。着物などもう少し欲しい。セフィロトの世界店にあるのだけでは満足できんのだ」
第八世界『ホド』は周囲の世界との関係を一切断っている。
なので、特産品が他の世界に持ち込まれることはほとんどない。
例外はセフィロトの世界店だけで、ここでなら幾つかホドのアイテムが購入できるが、魔王は物足りなかったようだ。
現地から直接入手したいということらしい。
「ああ、おれが君主の座を奪還できたら、望む物はなんでも送ってやる。そこは任せろ」
織田信長も快く了承してくれた。
「なら、我ら魔族は貴様に力を貸そう。安心するがいい……我らに敗北はない」
「ああ、心強いぜ」
俺の頭上で二人は握手を交わし、協力を約束した。
これからは力を合わせることになった。俺も、微力ながら力を貸していこう。
「そして勇者にも感謝するのだぞ? 勇者がお願いしたから、我は貴様を助けることにしたのだからな」
「分かってる。感謝してるぜ……てめぇも、何か願いがあれば言ってくれ。何なら身体でも差し出してやる」
「そ、それはダメだぞっ。なでなでまでは許可するが、それ以上はダメだ! 勇者よ、我は勇者が浮気したらふてくされるからな!? 嫌いには絶対にならないが、我だって拗ねる時は拗ねるのだからな!」
「……それは脅しになってるのか?」
慌てる魔王に、俺は笑ってしまった。
浮気しても怒らずに、ふてくされたり拗ねるだけなのか。
それで、嫌いにはならないなんて……優しいけど、別にその心配は不要だ。考えることさえも無駄だと思う。
「安心してくれ。俺は魔王を愛してるからな。浮気なんて、絶対にしないよ」
そう言って彼女のほっぺたを突くと、たちまにに赤面してしまった。
「ば、ばかっ……不意打ちは、ダメだ。嬉しくて死にそうになるだろうがぁ」
本当に、可愛い奴だ。
こんな子をお嫁さんにできて、俺は本当に幸せ者である。




