第八十二話 久しぶりの
硬い。織田信長にダメージを与えるには、もっと攻撃力を大きくする必要があった。
そうなると一撃が大振りになってしまい、隙ができて彼女の攻撃をもらうことになるだろう。それは良くなかった。
彼女の一撃は重いのである。
一つもらってしまったが、ダメージが大きかった。何度も受けるのは危険である。
接近戦は彼女に分がある。
そう判断して、俺は交代して距離を取った。
「おいおい、逃げてんじゃねぇよ……まさか、距離を取ったら勝てるとでも思ったか?」
対する織田信長に焦りはない。
むしろ、俺が後退したことを喜ぶかのように相好を崩していた。
「おれは遠距離戦も好きだぜ? 手の届かない場所で無様に死んでいく姿を見るのも悪くない」
瞬間、背筋がぞわりとした。
勇者として養った第六感が、警鐘を鳴らしている。
無意識に身構えると同時に、織田信長は動いた。
「【三段撃ち】」
これもまた、継承されている力の一つなのだろう。
気付いた時には、織田信長の背後に何十丁もの銃が出現していた。
形状から見て恐らくは単発式。それが横に十、縦に三列並んでいる。
一度撃ったらすぐ後ろの銃が発射される、という戦術か。三列あるので永遠と弾が放たれるようである。
「撃て!!」
号令と同時に、轟音が鳴り響く。
単発式である分、速射性は低いが……もしかしたら威力は高いのか。
これを受けるのは得策ではなさそうだ。
「……風の精霊よ、俺に力を貸してくれ!」
即座に精霊に干渉して風を操り、場の気流を乱す。
こうすることによって、弾丸は方向性を失った。十の弾丸の内のほとんどが俺から逸れている。
だが、数発はまだ俺に直撃しそうだ。
まぁ、これくらいならどうにか対処できる。
「っ!」
瞬時に弾丸の軌道を見切り、体勢を入れ替える。
これで弾丸は俺に当たらずに後方へ抜けていった。よし、第一波は回避したか。
とはいえ、これで気を緩めてはいけない。
すぐに第二波、第三波が来る。ってか、もう二列目の銃が放たれてるし。
こちらも攻撃を仕掛けないと!
「炎の精霊よ、俺に力を貸してくれ」
再び、精霊に呼びかける。
今度は炎の精霊に干渉して、炎を顕現させた。
これを、風に乗せて放つ。飛来する弾丸を回避しながらもどうにか織田信長に放射した。
あまり溜めをつくれなかったので、然程の威力はない。
「炎……!」
しかし、彼女は目を見張って身を大きくのけぞらした。
この程度の一撃にしては過剰な反応である。
まさか……
「お前、炎が嫌いなのか?」
この言葉に、織田信長はピクリと反応する。
銃による攻撃も静止して、苦笑しながら首を縦に振った。
「嫌いというか、苦手ではあるぜ。炎の攻撃はかなり効くからな……いわゆる弱点ってやつだ」
「……それは俺に教えて良かったのか?」
「構わねぇよ。知られたところで、どうもならねぇからな」
潔い。というか、自身の不利を楽しんでいる節すらある。
織田信長は終始楽しそうだ。
戦いが嬉しくてしょうがないようにも見える。
「てかよ、弱点ではあるが……実は、得意でもあるんだ」
「――は?」
一瞬、何を言われてるのか分からなくなる。
弱点なのに得意って、矛盾してないだろうか。
不可思議な言動に首を傾げる俺に、彼女は言葉を証明するかの如く力を顕現させた。
「焼き払え」
刹那、業火が天に上がる。
織田信長が放った炎だ。
「お、お前、炎が苦手なのに炎を使えるのか!?」
「ああ。使ったらダメージ喰らうが、得意ではあるんだよ」
炎もまた継承されている力の一つらしい。破滅的だなぁ……なんていう力だよ。
しかし、厄介ではあった。
「【焼き討ち】は、おれが得意とする戦術の一つだぜ?」
対抗するかのように、彼女もまた炎を放つ。
更にそれだけでは終わらず、静止していた銃による攻撃も再開した。
弾丸と炎が戦場に降り注ぐ。
「その力は卑怯だろ!!」
俺もまた、風と炎を駆使して直撃を避けるも、打開策が浮かばずにあたふたしてしまった。
満足に動けない……接近戦ではダメだと思って距離を開けたのに、遠距離戦も織田信長は難なくこなせるようだった。
でも、まだ大丈夫。これくらいならどうにか耐えられる。
「くはっ! この猛攻で死なないってことは、やっぱり強いじゃねぇか! てめぇはいいぜ……おれを、もっと楽しませろ」
と、ここでなかなか攻撃を受けない俺を彼女は笑った。
興奮したように頬を上気させて、高揚したように声を上げる。
「行くぜ……死ぬなよ?」
それから彼女は――炎と弾丸の中に、自ら飛び込んできた。
「っ!?」
今度はこちらが目を見張る番だった。
炎が弱点と言っていた。弾丸だって、いくら硬い彼女と言えども直撃したらダメージがないわけではないはずだ。
だというのに、お構いなしに織田信長は突っ込んでくる。
当然、炎も弾丸も直撃していた。動きは相変わらず荒々しく、回避など微塵も考慮してないように思える。
まさしく、特攻だ。
自分の身を省みない、戦闘狂の行動だった。
彼女は、手強い。
やらなければ、やられる。
少なくとも、今の俺よりは遥かに強いだろう。
死に物狂いで戦わなければ、負けてしまう。
そんなことを考えた時、不意に思考が切り替わった。
「…………ふぅ」
息を吐き出すと、思考がどんどんクリアになっていく。
意識が研ぎ澄まされていき、次第に周囲の時間が遅くなっていった。
ああ、この感覚は久しぶりだ……かつて、人間界の勇者として魔族と戦っていた頃は、毎日のように味わっていた感覚である。
集中力が研ぎ澄まされていく、よくこうして時間が遅くなった。
この時の俺は、力を実力以上に発揮できるようになる。
「――っ!!」
一閃。接近してきた織田信長に、剣を振るった。
「……てめぇ」
その剣によって、特攻してきた織田信長は動きを止める。何かを感じたのか、身を引いて俺の攻撃を回避したのだ。
懸命な判断だった。何せ、俺の一撃は彼女の硬いはずの肌に傷をつけていたからである。
胸元にほんの少し生まれた裂傷。身を引いてなければ、彼女は俺に斬られていただろう。
今の俺は、さっきの俺とはまるで別人だった。
どうやら俺は――『覚醒』したようである。




