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第七十四話 新選組局長『近藤勇』の継承者

「『近藤勇』だ。【天然理心流】という剣術と【新選組】という能力を継承している」


 影を率いるそいつは、ニヤリと笑いながら俺に言葉をかける。


「名乗ってやったんだ。そっちのことも教えてくれ」


 なんか俺に興味津々のようだ。わざわざ自分から力を教えてまで、俺のことを知りたいらしい。


 別に隠すほどの肩書はないので、素直に応じてやった。


「勇者。【精霊術】ならそこそこ使える。特別な力は持ってない」


「ん? お前が勇者だと? なるほど……将軍の言ってたことは真実だったか。かなりの実力者じゃねぇか」


 てっきり俺のことは知らないとばかり思っていた。

 しかし、そうでもないらしい。俺のことは聞いているのか……?


 そういえば、魔界に侵入したクノイチも、俺のことだけは知っていた。

 詳細は知れ渡ってないようだが、俺――『勇者』について無知ではないようだ。


「ショウグン? 俺のことはそいつから聞いたのか?」


「ああ……他世界では名の知れた男らしいな」


 まぁ、知名度はそこそこあると思う。人間界や魔界ではもちろん、エルフの世界でもみんな俺のことは知ってたくらいだ。


 まさか他世界との交流が一切ないと言われているホドでも、俺のことが知られていたとは。


「じゃあ、お前らの将軍が俺たちを呼んだのか? クノイチに伝言を頼まれて、俺たちは来たんだけど」


 クノイチは『力を貸してほしい』という伝言を持たされていた。

 もしかして、こいつらが俺たちを呼んだのかと、そう考えたわけである。


「……おい、誰から呼ばれた?」


 だが、予想は間違っていたらしい。

 どうやらおっさんの勢力とは違う勢力が、俺たちの力を求めていたようだ。


 おっさん――近藤勇は俺の言葉に目をギラギラと輝かせて、殺意を向けてくる。


「俺たちはな、他世界の奴らが大嫌いなんだよ……お前らみたいなのを、招き入れるわけがない」


 十数の影が、刀を構えて臨戦態勢をとる。

 明らかに怒っているようだった。


 まずいな……不覚だったかも。『誰かに呼ばれた』という情報を漏らしてしまった。


 逃げた方が良いかもしれない。


「おっと。逃がしはしないぜ?」


 俺の視線で逃走を目論んだことに気付いたのだろう。

 近藤勇は牽制するようにそう言った。


「お前らが他世界から来たことは、忍者どもから連絡を受けて知っていた。それでもここまで泳がせたのは、確実に捕らえるためだ」


 なるほど。世界店の方でニンジャをやり過ごしたと思っていたが、その前に誰かが近藤勇に連絡をしていたようだ。詰めが甘かったようである。


 その上、地の利は相手にある……どこに逃げようとしても、先回りできる算段はあるのだろう。


 倒してしまおうか? いや、でも初っ端から大騒ぎを起こすのは気が引ける。

 もう少し旅行も楽しみたい。あまり目立つのは避けたいところだ。


 どうするべきか。


「捕らえろ」


 と、ここで近藤勇が俺たちを捕らえるために動いてきた

 くそ、考えがまとまらないままだけど……しょうがない。


「なるようになるだろ!」


 思考を放り投げて、迫る影に相対する。


 連携した動きで俺を斬ろうとするこいつらは、近藤勇の能力である【新選組】なのだろう。


 使い勝手のいい能力だと思う。一人でも多数という力だ……数の暴力は、時に実力を凌駕する。


 だが、俺はどちからというと、一対一の戦いよりも一対多の戦いが得意だったりする。

 勇者時代、バカみたいに魔族とばかり戦っていたのだ……むしろ大勢相手の戦闘の方が慣れてさえいる。


 数については、あまり問題にならなかった。


「ちっ……結構、手強い」


 ただ、その影一体一体がかなりの練度を有していたのだ。


 もちろん、近藤勇ほどではない。体感的には魔族でいうところの将軍クラス……称号持ちには及ばないだろう。


 ただ、それくらいの実力の影が十数体もある。

 加えて、一体倒しても新たな一体が現れるから厄介だ。


 剣術だけでなく、近藤勇の力は魔族の中でも称号持ちクラスだな……強かった。


 これはもう、魔王にも手助けしてもらった方が良いだろう。

 

 そんなことを、思った時だ。




「あい……客人でありんすか? おいでなんし、おあがりなんし。わっちの遊郭で、どうぞゆっくりしておくんなまし」




 景色が、一変した。


「――え?」


 ここはホドの街中にある、茶屋だったはずだ。

 しかし今は、囲いのある建物の外にいた。格子状になっているその囲いの中には、着物を纏う女性がちらほらと見える。


 なんだ、これは……?

 おかしい。近藤勇も、茶屋も、街中を歩いていた住人も、何もかもがなくなっていた。


「ん? ようやくじゃのう。あれはどうも、のんびり屋で困るのじゃ」


 戸惑っていると、隣から声が聞こえたきた。

 視線をやれば、そこではタマモが訳知り顔で何やら頷いていた。


「むぅ。団子がなくなった……」


 そして、近くには魔王もしっかりといた。彼女は景色が変わったこともまったく気にせずに、団子がなくなったことで唇を尖らせている。


 動揺しているのは俺だけのようだ。


「タマモ? ここは、一体……?」


「ここは【幻想遊郭】……わらわの古い知り合いが持つ結界の中じゃ」


 タマモはなぜか得意そうな顔で、説明をしてくれる。


「どうせお主は、わらわが考えなしに茶屋でのんびりしていたとでも思っていたじゃろう? 阿呆め。わらわだって色々考えているのじゃっ。まずは知り合いを頼ろうと思っていたのじゃよ」


 そうか。つまり、タマモはホドで俺たちが孤立しないように、知り合いを頼ることにしていたのだ。そのために茶屋で待っていた、と言いたいらしい。


 どう見てものんびりしているようにしか見えなかったが、裏で色々動いてくれていたようだ。


「この遊郭はな、ホドにある茶屋の全てと繋がっている結界なのじゃ。ただ、入るのには結界の主に許可を貰わないといけないのじゃがな」


 俺が近藤勇と戦っている最中に、ようやく結界の主が招き入れてくれたということらしい。

 もっと早くしてほしかった、というのが本音だけど……まぁ、助かったのには変わりないか。


「ありがとう。おかげで、目立たずに済んだ」


「ふふんっ。わらわを称えるといい。年寄りじゃが、やるときはやるのじゃっ」


 タマモは少し調子に乗っていた。

 胸を張って偉そうにしている。


「なんで主さんが偉そうでありんすか? わっちが助けてやったでござんすよ……? 感謝はわっちにしておくんなんし」


 またしても、突然に。

 女性が、何の前触れもなく俺たちの前に姿を現した。


 この声は、茶屋で俺たちを招き入れたものと同じである。

 つまり、彼女が――この結界【幻想遊郭】の主なのだ。


「やっと来たのじゃな。遅いぞ、文福茶釜」


「その呼び方はおやめなんし……可愛くないでありんす。わっちのことは、『フク』と呼んでおくんなんせ」


 癖のある言葉遣いだ。

 それでも、響きが良い言葉である。


 ふと気になって、彼女の容姿を観察してみる。




 ――おっぱいが、いた。




 ひ、比喩ではない。マジで、おっぱいと形容するのが相応しいような爆乳のお姉さんが、そこにはいたのである。


 今まで俺が見た限り、最もおっぱいがでかいのはサキュバスのユメノか、あるいはアルプだ。どっちも同じくらいでかかった。


 でも、こいつは次元が違う。

 なんかもうここまでくると異常だった。浴衣を着ているはずなのに、まったく浴衣に収まっていない。今にも零れ落ちそうである。


「タマモさんが相変わらず小さいのは分かったでありんす。で、そちらの方々は?」


「小さいのは生まれつきじゃっ……この二人は、わらわの可愛い勇者と魔王じゃ。よろしく頼む」


「あい。勇者さんと、魔王さんでござんすね……ようこそ、わっちの【幻想遊郭】へ」


 おっぱいさん……もとい文福茶釜のフクさんは、艶やかに微笑んで俺たちを歓迎してくれた――

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