第七十三話 概念継承
俺が通りすがりのおっさんに戦いを挑まれてから、ようやく魔王がこちらに気付いた。
「ん? 勇者よ、敵か?」
可愛らしく団子を頬張りながら、もごもごと喋っている。可愛い。
「我がやろうか?」
「いや、大丈夫。見たところ、そこまで強そうじゃないし……あと、ロリコンってバカにされたから、殴る」
「勇者は我が好きなのだろう? だったらロリコンで正解だと思うが」
「違う! 俺はただ、好きになった相手が幼女だっただけだ。魔王が幼女だったから好きになったわけじゃないから、ロリコンとはちょっと違う」
「ゆ、勇者っ……カッコイイ」
今度は頬を赤く染めてもじもじしている魔王。うん、可愛い。
「ほう、いたいけな少女を洗脳しているようだな……鬼畜め」
「どうしてそうなるのか」
しかし、やはり相手は俺の言葉を認めなかった。なんだよ、洗脳って……そんなに俺はロリコン顔なのだろうか。
「大人しくしろ。今なら罪も軽い」
「うるせぇ。だから何もしてないって言ってるだろ!」
睨み合う俺とおっさん。
ここで戦ったら目立つかもしれないが……しょうがないか。
さっさと倒して逃げればいい。
「おらぁ!」
速攻だった。
のほほんとしているそいつ目がけて、俺は間合いを詰める。
勇者として鍛えた瞬発力は、鈍ってこそいるが今もまだ健在だ。
相手が知覚できない一瞬で、倒す!
そう思っていたわけだが。
「っ!?」
ひらりと、おっさんは俺の一撃を回避した。
予想以上の身のこなし。油断していたこともあって、俺は不意を突かれてしまう。
正直、雑魚とばかり思っていたが……そうでもなかったみたいだ。
「血気盛んだな……そういうの、嫌いじゃない」
おっさんはニヤリと笑って、腰に手を伸ばす。
そうして装備したのは、銀に輝く美しい刀だった。
「行くぞ」
刹那、剣閃が俺を襲った。
「っ!」
反射的に身をのけぞらせて、首を狙う刃を回避する。
危ない……間一髪で、首を斬られるところだった。
「いい反応だ。面白い」
「うるさい……強いなら強いってそう言え!」
慌てて意識を集中させる。
そのおかげで、二撃目三撃目は落ち着いて対処できた。
とはいえ、剣術のレベルが高い……感覚的な話にはなるが、たぶん四天王のスケさんと同等だと思う。
「魔王! なんか武器くれ!」
素手では分が悪い。そう思った俺は、転移魔法の使える魔王に武器を要求した。
「ちょっと待て……んっ。魔界にある適当な剣だが、これで良いか?」
「大丈夫! ありがとう」
戦いの合間に魔王が転移で取り出してくれた剣を受け取って、それですかさず反撃する。
俺は素手でもそこそこ戦えるタイプだが、武器があった方が戦いやすい。
魔族とも【勇者の剣】で戦っていたのだ。剣があれば、より強くなる。
しかし、剣を持ってなお相手とは互角だった。
「おお。なかなか、強い」
おっさんは驚いているようだが、俺もまた驚いている。
正直、適当に遭遇した相手である。てっきり雑魚かと思っていた。
「しかも、異色の剣術だ……それは我流か? 美しさはないが、獰猛さがある」
「剣術? そんなお行儀の良い戦い方はやったことねぇよ」
「そうか。それはまた、面白い……もっと、楽しませてもらおう!」
剣を合わせるたびに、火花が散る。
強かった……剣術は魔族でも称号持ちに匹敵するかもしれない。
「【概念継承】……ホドの住人が持つ力じゃ」
苦戦する俺に、タマモが茶をすすりながら解説をくれた。
「過去、生物が地上に住めなくなり、樹上に戻ってきた頃のことじゃ……とある島国出身の者達がいた。奴らは他を拒絶し、【ホド】を占有した。それがこの国の住人じゃ」
悠長なものである。彼女はどんな時でものんびりしているのだ。
なおも解説は続く。
「で、じゃ。ホドを占有した者達の出身地には、伝説として語り継がれる偉人が幾数も存在していた。ホドの住人はその力を概念化して、力を継承したのじゃ――これは【概念継承】と呼ばれ、適格者は相応の力を発揮できるようになったのじゃ。魔族と並ぶ、戦闘民族と称される程度には……強い戦士が存在しておる」
えっと、つまり……過去の伝承を概念化して、その力を後世に受け継いでいると言うことだろうか。
継承すれば、力は永続する。死によって絶えない力の循環によって、ホドは国力を保っている――と、そんな感じで理解はできた。
「なかなか、面白い戦い方だが……そろそろ、終わりにさせてもらうか」
と、ここでおっさんが動きを止めた。
奴は不敵に笑いながら、剣を空に掲げる。
「【新選組】」
次いで、何やら呟いた後。
複数……どころじゃない。何十もの影がこの場に出現した。
「なんだこれ……召喚術か!?」
驚いた。突然、地面から染み出るように影が現れたのである。
しかもその全ての影は、刀を持っているように見えた。
武装している。
「違う。召喚術ではない……こいつらは俺の仲間にして、力だ」
戦いが、一気に不利となる。
おいおい、こんなの反則だろ……っ!
「ほう。『新選組』といえば……なるほど。お主は、奴じゃったか」
焦る俺に、後方のタマモはやはり飄々としながら、解説するのだった。
「勇者が戦っている相手はのう……その島国で名の知れた警察組織の局長じゃ。名を近藤勇という」
おっさん――『近藤勇』は、予想外にも結構な実力者のようだった。
「俺と剣術で互角とは……かなりの実力者だ。そんなお前たちを……他世界からの侵略者を、見過ごすわけにはいかない」
そして、俺たちの存在はとっくにばれていたようだ。
なるほど……だから国で腕の立つ奴が現れたのか。俺たちの侵入に気付いていたからこそ、様子見と捕縛を目的に奴がこの場に現れたのだ。
ついでに実力も調べられてしまった。
なかなか、初っ端から厄介な状況に巻き込まれたようだ――




