第六十九話 ホドからの伝言
続々と現れる黒装束のクノイチたち。
総数にしておよそ十くらいか。俺と魔王がイチャつくたびに、奴らは気配を現す。
いわく、幼女とエロいことをしようとする俺に動揺して、気配が漏れるらしい。
……覗きはいけないことだと思うので、俺と魔王はクノイチは全て捕らえて地下牢に連行した。
捕まえるたびに、もういないだろうと思ってエロいことをしようとするのだが……そのたびにクノイチが現れるので、俺も魔王もとうとうキレてしまった。
「一体何用なのだ!? 勇者、ちょっと地下牢に行くぞっ」
と、いうことでやってきた地下牢。
薄暗く、じめじめした空間には、現在クノイチが多数閉じ込められていた。
「くっ、殺せ!!」
「情報は絶対に漏らさない!」
「拙者たちを魔王に会わせろ! 我らが主より、伝言があるのだ!!」
とかなんとか、牢の中で口々に叫んでいる。
「はいはい。ちょっと黙っててくださーい。【魅了】」
地下牢には現在、魔王軍四天王の一人であるユメノがいた。
ロリ巨乳サキュバスのユメノは、魅了の魔法を用いてクノイチたちを黙らせる。
「ふぅ……この方たち、どうも精神魔法に耐性があるみたいですね。短時間で私の魅了が解除されちゃいます」
ユメノも、奴らには手を焼かされているようだ。
それも無理はない。何せ、ニンジャはあの第八世界『ホド』の住人なのだ……
セフィロトでも、魔族に並ぶ戦闘民族と噂される世界から彼女たちはやってきた。
さっき、侵入してきた時も、俺と魔王だから簡単に束縛できたのであって、普通の魔族ならまず捕まえることができなかっただろうし。
「で? こやつらがどうして魔界に来たのか聞き出したか?」
そんなホドの住人が、一体どんな理由でこの世界に来たのだろうか。
ユメノにはそのあたりを聞き出せと、魔王は命じていた。
「申し訳ありません、魔王様。なかなか、口を割りませんね」
しかしユメノは、肩をすくめて首を横に振る。
魔界でも一番の精神魔法の使い手が、匙を投げているのだ。
精神力はかなり強靭らしい。
「ただ、みんな口をそろえて言うのが、『魔王様に会わせろ』なんですよね……一度、会ってみてくれませんか?」
そういえば、束縛した時もこんなことを言ってたような。
「仕方ないか……一人だけ、話を聞いてやろう」
このまま待っていても、クノイチは情報を漏らさないかもしれない。故に、魔王は話を聞く気になったらしい。
一人、地下牢に収容されているクノイチに歩み寄った。
鉄格子を挟んで、顔を合わせる。
「おい、我は魔王である。何か言いたいことがあるようだな」
魔王の呼びかけに、そのクノイチは顔を上げた。
「貴方は……勇者の性処理に付き合わされている、哀れな少女でござるな。魔王の振りをしなくても良い。拙者たちには、分かっているでござる」
そして盛大に勘違いしていた。
「おい、ちょっと待て。こいつは本当に魔王だからな!」
「……ふっ。バカを言うなでござる。魔王がこんなに愛らしい幼女のはずがないだろう。どうせ、プレイに付き合わせているだけでござろう?」
「ち、ちがっ! 可憐な少女を魔王呼びしてエロいことするとか、どれだけこじらせてるんだよ!?」
「他人の性癖に口を突っ込むつもりはないが、流石にそれは拙者たちでもドン引きしたでござる。そのせいで気配を漏らしてしまった……不覚!」
いやいや、何言ってんだよ……!
どうもクノイチは、目の前の幼女を魔王だと認識してないようである。だから寝室でも、魔王が目の前にいるのに、伝言を伝えなかったわけだ。
「魔王のことは知らないくせに、俺のことは知ってるのか?」
「勇者の容姿は、ホドに来た人間から教えてもらっていた。魔王については、恐ろしい化け物としか聞いていないでござる」
「……ニンジャって、確か諜報員のことだよな? 情報ガバガバじゃん……」
曖昧過ぎる。
だが、それも仕方ないことかもしれない。
何せ、第八世界『ホド』は、第一世界『ケテル』と並ぶ戦闘民族の世界だ。
確か、この二つの世界の交流は薄かった気がする。魔族も、またホドの住人も、めったなことではお互いの世界に行き来してなかったはずだ。
魔王の情報も、あちらではあまり知らされてないのか。
まぁ、だからこそ、どうして今になってこいつらが魔界に侵入したのかが不思議なのである。
その理由が判明しないがために、魔王はクノイチたちを地下牢に収容したのだ。
普段であれば、他世界からの侵入者はその場で殺してもおかしくなかった。
「【ケテルの加護・発動】」
ここで魔王は、自身が魔王であることを証明するためにセフィラの力を解放した。
禍々しい、黒のオーラが魔王を包む。
「あ、貴方は、本当に……魔王!?」
それを見てクノイチはようやく、この愛らしい幼女が魔王であることに気付いたようだ。
「我は魔王である。これで分かったな?」
「し、失礼したでござる。なるほど……勇者は変態ではなかったのですね。勘違いしていたでござる」
ようやく理解してくれたようだ。うん、俺は変態じゃないからな!
「それで、伝えたいこととは?」
魔王がそう尋ねれば、クノイチは牢の中で跪きながら、伝言を口にした。
「我らが君主より『力を貸してほしい』とのこと」
その伝言は、予想外のものだった。
「ホドの君主が、我に力を貸してほしいと言っているのか? それはまた、異なことだ……」
魔王も戸惑っている。
今まで不干渉を貫いていたのだ。それがどうして、わざわざ魔王に助力を求めているのだろう。
「理由は、我が君主より直接聞いてほしいでござる。伝言、しっかりとお伝えした」
クノイチも、それだけしか伝言されていなかったようである。
さて、魔王はどうするのだろうか?
「……普通に考えると、罠である可能性が高いが」
彼女は怪訝そうにしている。
それくらい、今の伝言は有り得ないものだったのだ。
悩ましいものである。こればっかりは、世界情勢も絡むので俺も何とも言えなかった。
「ふむ……ここは、タマモに聞いてみるか。ホド出身のあやつなら的確な助言があるだろう」
判断に迷っていた魔王は、彼女に相談することを決めたようだ――




