第六十八話 ホドより、刺客襲来
魔王は、難しい顔をしてお腹をさすっていた。
「むぅ……子供、なかなかできないな」
膨らまないお腹を、彼女は不満そうに見ている。
「勇者と子作りを始めてからそろそろ一年が経つというのに……」
一年。それは、俺が魔王と体を交えてから経過した時間である。
その間、一日欠かさずイチャイチャしていたのだが、子供はなかなかできなかった。
「魔族って出生率低いんだろ? だったら仕方ないんじゃないか?」
魔王城、魔王の寝室にて。
俺と魔王は二人でくっつき合いながら、言葉を交わす。
「分かってはいるのだがな。それでも、勇者の子供がほしい……絶対に可愛いと思うのだっ」
「だろうなぁ。魔王の子供とか、絶対びっくりするくらい可愛いよな」
お互いに、子供を授かることは望んでいた。
でも、こればっかりは俺たちにどうしようもできない。妊娠する魔法、なんていうのも聞いたことはないので、手の打ちようがないのだ。
だから、できることは一つだけ。
「勇者よ。もう一回戦、大丈夫か? 我、子供がほしい」
「……淫乱だな、お前は」
「貴様に対してだけは淫乱なのだっ。それとも……イヤか?」
「ぐへへ。よーし、俺も頑張っちゃうぞー!」
子供ができるまで、一生懸命頑張ることしか俺たちにはできないのだ。
結婚して一年以上経過していたが、俺たちは未だにこうやってべたべたしている。
平和な時間が流れていた。
魔族にも大きな動きはなく、戦争もなく、平穏な日常を謳歌するだけの日々が続いていた。
俺は今、最高に幸せである。
好きなだけ美味しいご飯が食べられて、好きなだけ眠れて、好きなだけエッチできるのだ……三大欲求が全部満たされていた。
今日もまた、俺は魔王と一緒に快楽に溺れる。
空想だとばかり思い込んでいた幸福が、今ここにはあった。
さぁ、今日も勇者と魔王の戦いが始まる!
そうやって、臨戦態勢をとった時だった。
「――っ!?」
不意に感じたのは、気配。
俺でも魔王でもない者が、すぐ近くにいる。勇者時代に鍛えた感知能力がそれを教えてくれた。
すかさず、俺は気配の方に走り寄る。
窓だ。窓の外に、何者かがいる!
「捕まえたっ」
「ぬぁあ!?」
不意を突くように窓を開け放ち、窓近くの壁に張り付いていた人物を捕まえる。
相手は俺にばれていると思っていなかったようで、捕まったことに驚いていた。
中に引きずり込んで、床に投げ飛ばす。
その不審者はすぐに逃げようと起き上がるが、それは無理だった。
「【闇よ、捕らえよ】」
魔王が、闇の魔法を操る。彼女の指示に応じて闇は蠢き、侵入者を束縛した。
「ぐぬぅ、抜かったでござる! そこの男がためらいなく幼女とエッチしようとしたから、びっくりして気配を隠せなかったでござる!!」
不審者は表情を歪めてもがくが、闇の拘束は外れなかった。
これにて、捕縛は完了である。
「なんだこやつは……我と勇者の営みを邪魔するとは、よっぽど死にたいようだな」
「落ち着け、魔王。とりあえずこいつの正体を暴いてからだ」
俺も魔王もエッチな気分になっていたので、邪魔されたのには少しイライラしている。
乱雑な態度で不審者を蹴飛ばして、仰向けに転がした。
顔を上に向かせて、相手を伺う。
真っ黒な恰好だ。顔や頭まで布で覆われており、目元しか確認できなかった。
性別も分からない……が、魔王はこの人物に何か思い当たることがあったようで。
「黒の装束に、かたびら……もしや貴様、第八世界『ホド』の【ニンジャ】だな?」
ニンジャ――彼女は、不審者をそう呼んだ。
その単語は俺も知っているものだった。
「ニンジャ! おお、これが本物か……俺、『分身の術』が見たい!! あと、あれだ。えっと、なんだっけ……そう、『ハラキリ』!」
第八世界『ホド』といえば、『サムライ』と『ニンジャ』である。独特な文化を形成する世界の、いわゆる職業のようなものらしい。
サムライもニンジャも、他世界では結構有名だ。
特に、【ハラキリ】は一度見るべきだという。詳細は知らないのだが、とにかく見てみたかった。
「ハラキリ!? 切腹のことかっ。拙者はニンジャでござる、切腹はしない!」
俺の言葉に、ニンジャは大きな声を上げた。思ったよりも甲高いその声は、女性のものである。なんと、ニンジャには女もいるのか……!?
「だが、【影分身】は見せてやりますでござる……ニンニン!!」
そしてニンジャは分身した。
「おお! すごい、五人もいる!!」
五人現れたニンジャに思わず興奮する。
そんな俺目がけて、分身で現れた五人のニンジャが襲いかかってきた。
「雑魚が。勇者と魔王を前にこの程度のお遊戯が通用するとでも?」
とはいえ、幾ら分身しようと相手の実力が低すぎて戦いにはならない。
苛立つ魔王によって、分身は呆気なく消滅した。
「では、ニンジャよ……いや、女だから【クノイチ】だったか? とにかく、貴様にはチャンスをやろう」
ここで魔王は、闇による拘束を解除した。
「な、何のつもりでござるっ」
「余興だ。貴様には、逃げるチャンスを与えてやろう……今すぐに、【ハラキリ】しろ。勇者を楽しませることができたのなら、このまま見逃してやる」
狼狽えるニンジャ……じゃなく、クノイチか。クノイチに魔王は、魔王らしい残酷な言葉を言い放った。
「できないのであれば、地下牢行きだな。貴様には耐えがたい苦悶を与えてやろう」
「だ、だから切腹は拙者にはできないのでござるっ!」
クノイチは頑なに【ハラキリ】してくれなかった。
なんだ……つまんないな。
「よし、もういいや。魔王、さっさとこいつは地下牢に入れよう」
「うむ、分かった。どうせ、情報は簡単に吐かないだろう……ここで尋問しても無駄か。後は全て、ユメノに任せる。女子に生まれた自分を恨むがいい」
おっと。ユメノに尋問させるとか……痛みはないだろうが、エロイ意味で苦しい思いをするだろう。ご愁傷様。
「あ、ちょ! 待つでござるっ。拙者は、魔王に伝言が……」
クノイチは何か言っていたが、俺も魔王も既に興味はなくなっていた。
「はいはーい。処女サキュバスこと、ユメノさんの登場ですよー。え? この方を尋問? はぁ……女性ですかぁ。いいんですけどね? どうせ男性でもエッチできませんし? とりあえずエッチになる魔法かけて放置します。後は勝手に、色々喋ってくれるでしょう」
と、いうわけでやってきたユメノにクノイチは連れていかれた。
「あ、ダメ! 変なところ触らないで!! ごめんなさい、魔王様!! 謝るから、ちょっと実力測っただけですから! さ、サキュバスは、だめぇ……」
ござる、とか。拙者、とか。いかにもニンジャっぽい言葉遣いは、どうもキャラ作りだったらしい。ぎゃーぎゃー喚いていたが、すぐにうるさい声も聞こえなくなった。
「仕切り直しだ、勇者よ。さぁ、来い!」
「よし、行くぞ!」
さて、エッチしよう。
そう思って、気分を盛り上げたと言うのに――
「ニンニン!」
この後、続々やってきたクノイチ共によって、俺と魔王の営みは邪魔され続けるのだった。
な、なんなんだよ、一体!




