第六十六話 ロリエルフちゃんが堕落してきた今日この頃
新婚だけど、魔王が働いている時は一人になる。
もう働かなくていいんじゃない? と思いはするのだが、養ってもらっている身なので文句は言えない。
しかも魔王に「勇者のために働けて嬉しい」とまで言われては、笑顔で送り出すことしかできなかった。ありがとう、魔王。そしてクズだな、俺。
幼い女の子に飼われているという現実。
世間体はあれだが、それでも毎日が最高なのでしばらくは魔王に甘えようと思いました。
さてさて、ともあれ魔王とは時々こうして離れることがあるわけで。
されども俺はダメ人間。一人になると何もできない、生活力皆無の人間である。
そんな俺には、一人のお世話役がいた。
「勇者っ。ごはん、持ってきたの」
金髪碧眼の奴隷ロリエルフちゃんこと、ミナエル・エロハである。
魔王がいない時は、基本的にミナが俺の面倒を見てくれていた。どっちみちお世話してくれるのは幼女という、ある意味で情けない奴だ。うん、幸せだったらどうでもいいか!
「ありがとう。ちょうど寝起きでお腹空いてたんだ。ミナも一緒に食べよう」
「ん! 今日も、あーんしてあげるね?」
ミナは魔王の言いつけ通り、甲斐甲斐しく俺のために動いてくれる。
「ふぅ、ふぅ……はい、冷ましてるから、だいじょーぶだよ?」
魔王よりたどたどしくはあるが、一生懸命で微笑ましかった。
ミナも大分、俺のお世話に慣れてきている。
週に一回はきちんとエルフの世界に戻って、両親とも顔を合わせていた。
彼女は今、自由に生きている。そのおかげかミナの表情は出会った当初に比べて大分明るくなっているような気がした。
ミナには幸せになってもらいたい。
出会いの発端が俺の元仲間による誘拐だったので、俺には彼女を幸せに導く義務があるのだ。
あと、こうやって仲良くなった今、もう他人とも思えなくなっている。
後ろめたさや罪悪感に関係なく、ミナには楽しい毎日を送ってほしいとも思うようになっていた。
「ごちそうさま。食べさせてくれてありがとうな」
「おいしかった? ミナ、あーんってするの、上手になってる?」
「うん。ミナは俺のお世話の達人だな」
「えへへっ。ミナ、頑張ったの!」
無邪気な笑顔だ。魔王よりも幼い印象のあるミナはとてもあどけなく見える。
願わくば、このまま無邪気でいてもらいたいものだ。
「じゃあ、お風呂入るから。少し待っててくれ」
と、ここで俺はお風呂に入ることにした。
寝起きだったのでさっぱりしようと思ったのである。
ここで一緒にいるのが魔王だったら、そのままお風呂にも付き合ってもらってるところだが……出会った当初、ミナと一緒に入ろうとして気絶させたことがある。
それ以来、ミナとのお風呂は控えるようにしていた。
彼女はもともと貞淑なエルフ。肌を晒すという行為がとても恥ずかしいようである。
「ん……」
ミナが頷いたのを見て、俺は浴場に向かった。
魔王と手を組んでから、俺はかなりのダメ人間に生まれ変わった。自分で自分の体を洗うのも難儀だと思うようになっていたので、お風呂は一瞬で済ませようと思っていた。
お湯をかぶって、体を洗って……浴槽には浸からなくていいかな。
よし、あがろう。
そう思って立ち上がった、その瞬間だった。
「勇者? ミナも、入る」
「――え!?」
唐突に、彼女が入ってきた。
驚いて視線を向ければ、そこには裸のミナエルがいた。
湯気で隠れているので体の局部は見えない。だが、薄らとそのしなやかな肢体は視認できた。
最初に入った時よりは健康的になっている体には、女性らしい肉がついている。
ただ、痩せているのは相変わらずで、ミナエルの体はとても細かった。
「み、見ないでっ……まだ、恥ずかしいから」
彼女はもじもじとしている。
「お、おう……」
俺は慌てて視線を背けた。
な、なんでミナが? 恥ずかしいのではなかったのか!?
「あのね、ミナ……勇者をお世話するの、達人だからっ。お風呂でも、きちんとお世話できるもん」
と、ここで彼女が乱入してきた理由を説明してくれた。
なるほど、先程の「お世話の達人だ」という俺の言葉が嬉しくて、どうせなら完璧にこなそうと思ったらしい。だから、今までこなせていなかった入浴に挑戦してきたのだ。
とはいえ、羞恥の心はまだ残っているようだ。顔を赤くしている。
「む、無理しなくてもいいからな?」
「だいじょーぶっ。ミナ、頑張るの」
そう言ってミナは俺に近づいてきた。
顔は向けていないが、気配で分かる。今、ミナは俺のすぐ後ろに来ていた。
「……やっぱり勇者、ちゃんと洗ってない。泡、残ってる」
そして、俺の適当な洗い方を見て、やる気をみなぎらせたようだ。
「ミナが洗ってあげるのっ。勇者、動かないでね?」
そう言って、ミナエルは小さな手で俺の体を洗ってくれた。
「どう? ミナ、上手でしょっ」
「あ、うん……ミナは流石、俺のお世話の達人だな」
「そっか! ミナ、達人だからっ」
嬉しそうに弾む声に、俺はやれやれと息をつく。
出会った当初は、裸を見られただけで気を失っていた。
だが今は、恥ずかしそうではあるが、気を失うまではいっていない。俺の体に触れても問題はないようだ。
「これからは、ミナがお風呂にも入れてあげるのっ」
むしろ、楽しそうにしているくらいである。
貞淑なエルフなら有り得ない行為だ。
しかし、魔界で暮らすようになって、ミナの考えも大分変化しているようである。
いずれ、裸になっても羞恥の感情はなくなるのだろうか。
「……なかなか、俺以上に順応してるよな」
「ん? 勇者、なんて言ったの?」
「いや、なんでもない」
ともすれば、俺以上に彼女は堕落する才能があると思う。
もう少し成長して、お酒が飲める年になって……自分の考えがより明確になってる頃には、手が付けられない魔性の女の子になりそうだった。
奴隷となったロリエルフちゃんは、今日も順調に堕落している――




