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第六十四話 こどもの日特別企画! ~魔王の子供になりたい~

こどもの日、特別企画です。

勇者と魔王が出会って、大分経った頃のお話。

勇者が魔王の胎内でまどろみます。

どうぞよろしくお願いします。

 初めに言っておくが、これは夢だ。

 俺の深層心理が見せた、幻である。




 ふと気づくと、俺は胎内で寝ていた。

 この時点ではもう既に、俺は夢だと気付いていた。


(こ、ここはもしかしてっ)


 驚くと同時、ここが誰の胎内であるのかもなんとなく理解する。

 今、俺は胎児となって……魔王の胎内に寝ていた。


 つまり俺は、魔王に孕まれていたのだ!


(ゆ、夢にしても……酷いな)


 寝ている間に見る夢には、本人の意識していない願望が強く影響していると聞いたことがある。


 俺はもしかして、無意識のうちに魔王に孕まれたいと願っていたのだろうか。

 だとしたら末期だった。こ、ここまで性癖が面白くなっていたとは、自分のことながらちょっと引く。


 しかし、見てしまったものは仕方ない。

 せっかくなので、夢を満喫することにした。


(温かい……そして、優しい)


 ここには、ストレスというものが何もない。

 誰かから襲われる不安も、孤独の寂しさも、空腹の飢餓も、何もない。


 魔王が、俺を守ってくれるのだ。

 魔王が、常に俺のそばにいてくれるのだ。

 魔王が、へその緒を通して俺にご飯を食べさせてくれるのだ。


 なんて幸せな世界なのだろう。

 俺が無意識のうちに、孕まれたいと思うのも仕方ないと思えるような幸福が、そこにはあった。


(ぅぁ~)


 少し体を動かしてみると、足が何かにぶつかった。


「むっ。元気だな、よしよし」


 すると、彼女の声が聞こえてきた。外の世界から聞こえる魔王の言葉を耳にして、俺は何にぶつかったのかを理解する。


 そうか……俺は今、魔王のお腹を内側から優しく蹴ったのだ。

 俺の動きに、魔王はしっかりと反応を返してくれる。彼女の顔こそ見えないが、その事実一つあれば寂しさなど皆無となる。


 ここは、優しい世界だ。

 思考能力もどんどん低下していく。すぐに俺は自我を保てなくなるだろう。


 でも、それでいい。

 ただ、魔王の中で……魔王を感じていられたら、それでいいんだ。


 そんなことを考えているうちに、俺は胎児へと退化していく。

 すぐに思考能力はなくなって、魔王に守られるだけの存在となった。


 こんな幸福が、永遠に続くと……胎内で優雅に過ごしていたのである。


 しかし、終わりは想像以上に早く訪れた。


 ――出産の時が、訪れたのだ。




「オギャァアアアア!!」




 生れ落ちた時、押し寄せる外部からのストレスに俺は耐え切れなくて泣いた。

 手足すら満足に動かせないから、産声を力いっぱいにあげることしかできなかったのだ。


 戻りたい。

 あの、優しい世界に戻りたい。


 戻してほしいと、叫ぶ。俺と魔王を離さないでほしいと、強く抗った。


「元気の良い声だ。まったく、手を焼かせおって」


 しかし、彼女に抱かれて……俺は、胎内で感じていた安心感を覚えた。

 魔王だ。出産を終えた彼女が、タオルにくるまる俺を抱きしめたのだ。


「難産だったぞ? そんなに外の世界は怖かったか? 大丈夫だ……我が、しっかりと貴様を守る。そばに、いるから」


 泣き続ける俺に、魔王は優しい声をかけてくれる。


「生まれてくれてありがとう。これから、大きくなるんだぞ?」


 その、慈愛の心に安らぎを感じて、俺はまたしても泣いた。

 今度の涙は、安堵によるものだった。


 こうして俺は、赤子となって魔王から産まれた。

 それからはすくすくと育っていった。魔王にお世話されながら、彼女に迷惑をかけながら、それでも元気いっぱいに大きくなった。


 外の世界は、胎児の頃のような優しい世界ではない。たくさんのストレスに圧し潰されそうな時もあった。


 でも、隣には常に彼女がいてくれた。


「大きくなったな……我は、嬉しいぞ」


 どんなに手がかかろうとも、魔王は文句一つ口にしなかった。

 俺の面倒を、嬉しそうに見てくれた。

 そんな彼女のおかげで、俺は……とても、幸せな生活を送ることができた。


 魔王の子供として、俺はすくすくと育っていく。

 やがて大きくなり、魔王の身長を越した。


 そこまで人生を送ったところで――




「ぬぁあああああ!?」




 俺は、夢から目を覚ましたのだ。

 深夜。ベッドから身を起こした俺は、慌てて隣の魔王を確認する。


「んにゃ……どうしたのだ? 怖い夢でも見たか?」


 魔王は、しっかりと俺の隣で眠っていた。

 俺の母親としてではない。妻として、である。


「そ、そうだよな……夢だよなっ」


 次に自分の姿を確認して、先程の映像が夢であることを確認する。

 怖くはなかったが……恐ろしかった。何がって? こんな夢を見ちゃう俺が、恐ろしい。戦慄した。


「よしよし、大丈夫だ。我が隣にいるぞ」


 寝ぼけ眼の魔王は俺が怖い夢を見たと勘違いしているようで、優しくあやしてくれた。

 可愛い奴め……お前が母親でも悪くなかったけど、やっぱり俺は魔王の旦那でいいやと思うのだった。


「……お腹、大きくなったな」


 横たわる彼女のお腹は、ポッコリと膨らんでいる。

 そこにいるのは、もちろん俺じゃない。


 俺と魔王の、子供だ。


「うむ。顔を見るのが、楽しみだ」


 魔王は嬉しそうにお腹に触れて、微笑んでいた。

 夫婦となってから大分時間が経っているのだが、俺と魔王はなかなか子宝に恵まれなかった。


 こればっかりは授かりものなので、俺も魔王も成り行きに任せていたのだが……少し前、ようやく子供ができたのだ。


「大切に、育てような」


 俺も、彼女のお腹に手を触れて笑いかける。


 幸せだった。

 今から、子供が産まれたらまた騒がしくなるだろうけど……それはそれで、悪くない。


 笑顔の絶えない家庭を、魔王と作ろう。

 そんなことを思って、俺と魔王は再び眠るのだった。


 もう、夢は見ない――


【こどもの日特別企画、終わり】

お読みくださりありがとうございます。

五月五日、本日がこどもの日であることを本日知りました。

取り急ぎではありますが、こどもの日にちなんだお話を連載させていただきました!

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