第六十三話 愛の誓約
「あ! 勇者、こっちなのっ」
四天王から離れてうろうろしていると、タイミング良く声がかかった。
振り向くと、金髪碧眼のロリエルフちゃんが一人。
エルフの世界から戻って来ていたらしい。もしかしたら、ユメノあたりが宴のために呼んだのかもしれない。
「えへへっ。勇者、今日は何のお祝いなのっ?」
彼女は状況をよく飲み込めていなかったようだ。場の雰囲気を楽しんでいるようだが、頭の上には疑問符が浮かんでいる。
うーん……何て言おう。言葉選びが難しいな。
「えっと、俺と魔王が、より特別になったお祝いかな?」
なんとか言葉を濁しつつも、それだけをどうにか伝える。
すると、ミナはご馳走をもぐもぐと咀嚼しながら、大きく頷いてくれた。
「そっか! じゃあ、ミナも勇者の特別になるっ」
おっと……そうくるか。
「い、いや、でも……」
それって、俺とエッチなことするってことだぞ? なんて直接言うことが出来ずに、俺はどもってしまう。
しかしミナは無邪気なままだ。
「ミナ、勇者の愛人だよ? 特別、やる!」
たぶん、彼女はまったく理解してないはずだ。愛人の本来の意味もたぶん分かってない。親しい人、くらいに思ってるんだろう。
彼女は『特別』という響きが気に入っているようだ。
ここは、白を切って頷いておこうかな……もうそれがいいんじゃないかと思いかけた頃に、あのダメシスターがやって来る。
今日も今日とて、大きな酒瓶を抱えながら彼女は登場した。
「ちょっと、勇者! あたしに挨拶もないとか、礼儀がなってないじゃないっ。この神に愛される経験なシスター様に、酒の一杯でも次に来なさいよ!」
ガバガバ宗教の教祖様こと、修道女のニトである。
彼女は既にできあがっていた。下品に笑いながら、俺をバシバシと叩いている。
「やっとエッチしたんですって? 男じゃないっ。これでこそニト教の信徒よ! 汝、姦淫せよ!」
教義を大声で語るのはいいのだが、今はタイミングが悪かった……
「え!? あ、エッチ……と、特別って、エッチ? あ、あぅ……そ、そうなのっ。ミナ、別に、エッチなこと、したいわけじゃなくてっ」
エルフのミナは、見た目の割に長生きしているわけで。
そういう知識が、ないわけではなかったみたいだ。俺と魔王の関係を察したようである。
「う、うぅ……」
顔を真っ赤にしてもじもじしていた。
「勇者……そういうこと、好きなの?」
「き、嫌いではないかなぁ」
また答えにくい質問を……恥ずかしいなら、話題を変えてくれた方が嬉しいのだが。
「ふーん……どうやってやるの?」
「えっ? な、なにが?」
「だから、その……エッチなこと、どうやるの?」
子供故の、好奇心なのか。
特にミナは他と比較しても好奇心旺盛だから、興味津々のようであった。やめろよ……ミナは無邪気というか、幼女らしい幼女なので、こういうことを教えるのには抵抗があった。
「あのねあのね、子供って……すぐにできるの?」
まずいな。こういった問いかけは、俺の手に余る!
「ニト……おい、ニト! 助けてくれっ」
仕方なく、ここは彼女に頼ることにした。ミナと同性のニトなら上手く伝えてくれると思ったのである。というかそもそも、こいつの発言が発端でミナが興味津々になったのだから、なんとかしてほしい。
「んぁ~? なによ、エッチなこと教えればいいの? ぐへへ、体に教えてあげるわよっ」
ニトは快く了承してくれた……のだが、大丈夫なのだろうか。不安である。
彼女はミナにもたれかかるように抱き着いて、耳元でこそこそと何か言い始める。
「ふぇぇ? 勇者のが……そうなるのっ? あれが、あそこにっ」
……恥ずかしそうにではあるが、楽しそうにしているミナ。知らないことを知ることができて嬉しそうだった……ここはそっとしておこう。
二人とも楽しそうだし。
笑い合う彼女たちを眺めていると、なんとなく頬がゆるむ。俺のせいで度々迷惑もかけているが、こうやって和やかに過ごせる今がとても幸せだと思った。
これからもよろしくな、二人とも。
そんなことを心の中で思っていると、不意にあいつが転移してきた。
「くそっ、うるさいぞユメノ! 追いかけてくるな……勇者、外に出るぞっ」
褐色の幼女こと、魔王である。
彼女はまだユメノに絡まれていたらしい。うんざりして逃げ出したのだろう。
俺のそばに転移してきて、今度は俺と一緒に再び転移した。
やってきたのは、外。魔王城の庭で、何の変哲もない場所である。ただ、みんな魔王城で宴会しているせいか、誰もいなかった。
月の光に照らされている中で、俺と魔王は二人きりとなる。
「ふぅ……騒がしいのも嫌いではないが、やはり静かなのは良い。ようやく、落ち着いて勇者とイチャイチャできる」
彼女は当たり前のように俺の手を握ってくる。指を一本一本絡める、いわゆる恋人繋ぎだった。
小さくて細い指だ。握り返して、ふとあることを思い出す。
「そういえば……指輪、壊れちゃったな」
魔王の手には、俺があげた指輪がない。先代魔王のせいで壊れたのだ。
「うむ……ごめんな、勇者。とても、大切にしてたのに」
いつも肌身離さず持ってくれていた魔王は、指輪をなくしたことを思い出すと途端に落ち込んでしまった。
「そういう顔するなよ。また、用意する。もう一回プロポーズできると思ったら、お得じゃないか?」
そう言って、笑いかける。気にするなと伝えれば、たちまちに魔王は頬を緩めた。
うん、魔王はやっぱりこういう表情が似合う。可愛かった。
「ま、指輪がなくても、俺の愛は変わらないってことだ」
「……本当に良い男だな、貴様は。ますます惚れた」
「そんなこと言うとか、お前も本当に可愛い奴だな。ますます好きになった」
「何を言う。我の方が、勇者のことを愛しているぞ?」
「ふざけんな。俺の愛を舐めんなよ? 何せ、愛のために世界一つ滅ぼしちゃったし」
「それを言うなら我だって、愛のために人間界を侵略したぞっ」
「半分は俺が守りました~。俺の勝ちです~」
「屁理屈を言うな、たわけっ」
文句を言いつつも、魔王が好きと言われて喜んでいるのは一目瞭然だった。可愛い……っていうか、今の頭の悪い会話は何だ。
これがバカップルというやつか……悪くないな。これからはもっとイチャイチャして、周囲がドン引きするくらい愛し合った夫婦となろう。
その方が、幸せだ。
「ふんっ。では、どれくらい我の愛が大きいのか、貴様に教えてやる」
直後、魔王はこんな言葉を口にする。
「セフィロトの下に【勇者を精一杯愛する】と誓おう」
紡がれたのは、絶対遵守の誓約。
セフィロトの下に宣言された約定だった。
生半可な愛であれば、セフィロトの下に誓うことなんてできない。
彼女の覚悟と、深い愛情を実感した。
でも、やっぱり愛情でいえば俺も負けるつもりはない。
「セフィロトの下に【魔王を心から愛する】と誓う」
俺からも、絶対順守の誓約を宣言してみせた。
「……これからも、ずっと。よろしくな、魔王」
月光の下で、俺は彼女との愛を確かめた。
愛し合う仲となった。疑う余地もなくなった。何をしても、例えわがままを言っても、俺たちはお互いを愛し合うと誓い合ったのだ。
これからは、もっと夫婦らしくなろう。
そして、幸せな一生を送ろう――と、魔王によろしくを伝える。
そうすれば彼女は、笑顔で頷いてくれるのだった。
「もちろんだ、勇者っ……ふ、ふちゅちゅかものだが、どうか頼む」
こういう大事な時に噛むのは、魔王らしいと言うか……可愛くてしょうがない。
「大好きだ、魔王!」
「我もだ、勇者!」
こうして俺たちは、抱きしめ合う。
愛を誓い合った俺たちは、しばらくそのままお互いの温もりに身をゆだねるのだった――
【第二章、終わり】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
二章、これにて終わりです。
数話ほど間話を挟んだ後に、三章へと入ります。
どうぞよろしくお願いします!




